24 ゴーレム
俺とミスラは、入り口の奥を覗く。
「うわぁ、真っ暗だねえ」
奥へは下りの傾斜が続いていたが、ミスラの言う通り、光が届かない先は真っ暗でどこまで続いているのかが分からない。
「念のため、ステータス見ておくか」
俺は入り口付近をターゲットにスキルを発動させる。
『旧ヤツマヤ島』
ステータスに名前が表示された。どうやら、正しくターゲットできたようだ。
広さなんかも書かれているが、桁が大きすぎてピンと来ない。概要の方を見よう。
島紹介:
かつて銀の神ジ・Aによって統治されていた浮遊島。神々の他に、人間やエルフ、天使も暮らしていた。
当時、全ての建物が銀に輝くその光景は、神々の住まう浮遊島の中でも、一、二の美しさを競っていた。
穏やかな性格のジ・Aの統治は、五百年以上の安息の時を島にもたらしていた。
それは大戦時においてもそうであり、ジ・Aは争いを好まず中立の立場を保っていたが、突如として水銀の神ジ・H率いる軍勢に攻め込まれ、敗北。浮遊機能を破壊されて地に落ちる。
ジ・Aは積極的に争うことはしなかったが、島民を守るための防衛機構は島内に設置されている。
それらも現在までは休眠状態だったが、【灰の書】の【ウィザード】リーデの手により入り口が開けられたため、再び稼働状態になった。
「……稼働状態になったって」
俺とミスラがリーデを見る。
「んな、そんなことを言われても、入り口を開かなければ中に入れないだろう!」
リーデが悪いことではないのは百も承知だが、ここで彼女を見るのは流れというかノリというか、そんな物だ。俺もミスラも、本気でリーデのせいだなんて思ってはいない。
珍しくうろたえるリーデが見られたから良しとしよう。
「リーデちゃんかわいい」
「ミスラ……」
俺は思っても口にしなかったが、ミスラははっきりと言ってしまう。
リーデも何かを言いかけたが、言ったところでと思ったのかそれ以上は口にしなかった。
「なんにしろだ、トラップや危険があることはこうなる前から予想済みだ。逆にこれで気が引きしまっただろ」
リーデはぷいと後ろを向き、改めて傾斜を見下ろした。
「うん、そうだね。ちょっとだけ浮かれてたかも」
ミスラも表情を引き締め、【ライト】のスキルを使う。
広い範囲が明かりに照らしだされ、今まで見えなかったさらに奥まで見通せるようになった。
しかし見える範囲では、傾斜はまだまだ下へと続いているようだ。島一つが落ちているのだから、広いのも当然と言えば当然か。
「では、行くぞ」
リーデに続いて、俺もミスラも入り口の中へと入る。
初めての神域だ。やはり緊張しているのか、無意識のうちに喉が鳴った。
外から見ても分かった通り、傾斜は長くずいぶんと深くまで続いている。
五分ぐらいは歩いただろうか、ようやく傾斜が終わり平坦な通路へと出た。
「きれいだね」
いったん足を止めて、俺たちは辺りを窺っていた。
その時、ミスラがぽつりと漏らす。
「だなあ。千年以上も地面に埋まっていたとは思えない」
壁も床も天井も、銀の輝きがまるで曇っていない。ミスラの作りだした魔法の光に照らされ、キラキラと輝いている。
「空に浮いてた時はどんなだったか、見てみたかったな」
「そうだね、一、二を争うぐらいキレイだったって書いてたもんね」
「そう言えば、浮遊島ってどんなところなんだ?」
思い返せば、ミスラとは他愛ない雑談なんかもしてきたが、神々の暮らしぶりとかは聞いたことがなかった。
ザンギルに至ってはあんなだったから、雑談なんてとてもできなかったし。
「あー、町があって草原とか森とか湖とかがあるところは地上と同じかな。でもモンスターはいないから、地上と比べると安全だね」
「天空までは、わざわざモンスターも行かないか」
「あと、建物はもっと仕掛けとか機能が多いかな。魔力で灯り付ける装置は基本どの家にもあるし、お城みたいな大きな建物だと動く道とか人を運ぶ箱もあるよ」
地上にも同じような装置はあるが、どの家もとなると話は別だ。貴族とか儲けている商人の家とか、ある程度富裕層の家にしかない。
それに、動く道なんてのは地上じゃ聞いたこともなかった。それに、人を運ぶ箱? 聞いただけではどんなものなのか、想像もつかない。
「大戦で失われた技術もあるって聞くけど、まだまだ地上よりかは進んでるんだな」
「そうだね。神族には発言力とか権限には差があるけど、貧富の差はほとんどないからね。技術の普及は地上よりスムーズだね」
冒険者一つとっても、その日食べるための稼ぎも精一杯の底辺もいれば、自分の城を建てるような上級冒険者もいる。
貧富の差がないというのは、それは羨ましい話だ。
「おまえたち」
俺たちの話に、リーデが割って入る。その表情は険しい。
「ごめん、ちょっと緊張感がなかった」
「まったくだ。あの音が聞こえないのか?」
リーデが通路の奥を目だけで示す。
「音?」
俺もミスラも耳を澄ましてみた。
ガチャ。
「これは……!」
「聞こえた!」
確かに、奥から何か金属的な音が聞こえてくる。
ガチャ、ガチャ。
しかも音は、一定の感覚でだんだんとこちらに近づいてきていた。
「これってもしかして」
「ああ、稼働状態に入ったという、防衛機構のなにかだろう」
やがて姿が見えてくると、それはまさに、リーデの言った通りの物だった。
奥からガチャガチャと音を立てて現れたのは、虫のような六つの足を持つ金属製のゴーレムだった。
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