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22 神域<ダンジョン>探索だ

 リーデの声のトーンが変わったので、俺もミスラも緊張が走る。

 本来、依頼を受ける時に概要ぐらいは確認しなければいけないのだが、どたばたとしてしまったせいでそれすらしていなかった。

 リーデ個人ではなく、わざわざ【灰の書】の名義で依頼してきた仕事だ。一体どんな内容なのだろうか。


「単刀直入に言う。お前たちに依頼したいのは、神域(ダンジョン)探索だ」

神域(ダンジョン)探索……!」


 思ってもいなかった言葉に、俺たちは二人で繰り返してしまった。


 神域(ダンジョン)とは、地に落ちた浮遊島の成れの果てのことだ。

 今は浮遊島は四つしかないが、千年以上前には天空に大小さまざまな島が浮かんでいたらしい。


 しかしある時、神々の間で戦いが起こり、いくつもの浮遊島が地に落ちた。

 そして長い時を経て大地に埋もれた浮遊島、そしてそこに作られていた建造物等が神域(ダンジョン)と呼ばれるようになった。


 ちなみにだが、この時のような大戦を二度と繰り返さないように、アステルランキングの制度が作られたらしい。


 神域(ダンジョン)には、神々の使用していた様々な道具(アイテム)が今も眠っている。それらには、現在の神々ですら失ってしまった技術が使われている物もあるので、神域(ダンジョン)を見つけだし探索することは、一攫千金を狙う冒険者にしてみれば目標の一つである。


「それとトビーくんを元に戻すのと、どんな関係があるの?」


 それは俺も思った疑問だ。

 神域(ダンジョン)探索は冒険者の夢でもあるが、トビーを戻すことと結びつかない。


 【灰の書】の機密は教えられないが、と前置きをし、リーデは俺たちの疑問に答えを語り始めた。


「獣にされた人間を戻すためには、大掛かりな術式が必要になると言ったな」


 俺たちは黙ってうなずく。


「この術式を起動させるためには、多くの魔力が必要になるのだ。一度起動させるのに、【ウィザード】五十人以上の全魔力を吸いださなければいけないほどに」


 【ウィザード】一人でも、並みの魔術師数人分の魔力は持っているだろう。それが五十人以上必要となると、相当なものだ。


「さすがに全魔力を吸いだされたら、魔術師としては再起不能になってしまう。安全を考慮するなら、その倍以上の人数が必要になる。そして、トビー以外にも奴の人体実験の犠牲者は何人もいる。全員を元に戻すほどの人材は、いくら【灰の書】でも揃えられない」

「あっ!」

「さすが神だな。そう、そこで神域(ダンジョン)と言うわけだ」


 神域(ダンジョン)は元々神族の遺産のような物だ。神であるミスラは何かに気が付いたようだが、俺にはさっぱりわからなかった。


神域(ダンジョン)……元は神々の住んでいた浮遊島だ。島を浮遊させ、そこで生活をするのに多くの魔力を使用していた。そして神々は、魔力を生み出す魔力炉という技術を利用して、それらに必要な魔力を賄っていたのだ」


 俺が要領を得ていないことに気が付き、リーデは説明を続ける。


「なるほど。その魔力炉ってのを神域(ダンジョン)から持ってこようってわけだな」

「いや、魔力炉はすでに【灰の書】で所有している」

「そうなのか……」

「この魔力炉はマギニウムという魔燃物質を燃料に動くのだが、今の我々ではそれを作り出すことができない」


 そこまで聞いて、ようやく俺も理解ができた。


「そのマギニウムってのを、神域(ダンジョン)から取ってくるのか」

「そう。マギニウムには浮遊島の生活を支える燃料だったからな、ほぼ全ての神域(ダンジョン)に眠っている」


 つまり、荒らされていない神域(ダンジョン)ならどこでもいいと言うわけか。


「だけど……その神域(ダンジョン)を見つけるのが一苦労なんだよな」


 そう。地に落ちた浮遊島は、長い年月をかけて完全に地中に埋まってしまっている。そもそも全然見つからないから、冒険者にとって夢なんだ。

 それに、既に見つかっている神域(ダンジョン)からは、目ぼしいものはほとんど持ってかれてしまっている。マギニウムだってそうだろう。


「それに関しては問題ない」

「どういうこと?」

「【灰の書】で存在を確認している神域(ダンジョン)がいくつかある。今回はその一つを探索すればいい」

「みんな中々見つけられないのに、【灰の書】ってすごいねえ」


 ミスラは感心の声を上げた。


「でも、存在を確認してるだけで探索はしてないのか? 【ウィザード】みたいな研究者にとっても、神域(ダンジョン)のお宝は魅力だろ?」

「それはそうだが、神域(ダンジョン)は、【ウィザード】でもおいそれと探索できる場所ではないさ」


 リーデは肩をすくめて言う。

 確かに、神域(ダンジョン)は神々の戦争で地に落ちた浮遊島だ。戦時中の戦闘用ゴーレムや防衛装置が未だに作動したままだ。

 上位の【アステル】や冒険者パーティーが神域(ダンジョン)で全滅した、なんて話もあるぐらいだ。


「【ウィザード】は研究者肌の人間が多い。荒事にはなれていないのさ」


 思い返せば、オズも魔力や魔法の技術は相当なものだったが、目くらましでパニックになってリーデに一発殴られただけで戦意を喪失していた。

 そんな人間じゃ、神域(ダンジョン)の探索は無理なのもうなずける。


「そこにきてお前のスキルだ」

「スキルって、【なんでもステータスオープン】か?」

「そう。お前のスキルを使えば、トラップなんかは回避できるだろ」


 なるほど、こまめにステータスオープンで調べていけば、危険はだいぶ回避できる。


「戦闘になったとしても、キメラ亜種を退治できる実力もある。お前たちの【アステル】は、依頼をするにはうってつけだったと言うわけだ」


 色々と合点はいった。まあ、戦闘については、あまり過剰な期待はしてもらいたくないけど。


「それに何より、お前たちが信用に値する【アステル】だからだ」

「信用に値する……」

「我々がダンジョン探索を冒険者に依頼しないのは、神域(ダンジョン)の宝を前に裏切らないとも限らないからだ。欲に狩られて貴重な宝を持ち逃げされたんじゃぁたまった物じゃない。しかし、お前たちはそういった奴らとは違う。トビーという子供のために【ウィザード】に立ち向かえるやつだ。それに、キメラ亜種の件も報告を受けている。近くの村のために、命がけで戦ったそうじゃないか」


 キメラ亜種のことまで調べられていたのか。

 それにしても、そこまで評価されてると思うと少し気恥しい。


「では改めて聞くが……この依頼、本当に受けるんだな?」


 神域(ダンジョン)探索は非常な危険も伴う。夢やロマンだけでできるものではない。


「ああ、受ける」

「うん、受けるよ」


 だが、俺もミスラも即答だった。

 俺たちの目的は一攫千金なんかじゃない。トビーを、そして他にもいるという人体実験の被害者を助けるためだ。


「そうか……いや、聞くまでもなかったな」


 俺たちの答えを聞いて、リーデは満足そうにうなずいた。


「ここから北に六日ほど行ったところに、シトゥマという町がある。そこからさらに東へ一日の場所に、今回探索する神域(ダンジョン)がある」

「私、ダンジョン探索なんて初めてだよ」

「俺もだな」


 神域(ダンジョン)探索はザンギルもしたいとは言っていたが、早々新しく見つかるものでもない。

 上位【アステル】でも未経験のチームの方が多いだろう。


 トビーたちを助けるという大きな目標はあるが、それとは別に、ワクワクとしてしまう自分もいた。


「では、準備もあるだろうから、出発は明日。この街の出口で落ち合おう」

「わかった」


 こうして俺たちは【灰の書】の依頼、神域(ダンジョン)探索を受けることとなった。

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