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21 私がこの【アステル】の能力を正当に評価したまでだ

「リーデちゃん!」

「いや、そのちゃんというのは……まあ、いいが……」

「な、なんだ? あんたら知り合いなのか? 【灰の書】の【ウィザード】と?」


 俺たちの関係を知らない親父は、俺たちとリーデとを交互に見比べる。

 【ウィザード】と言えば魔術のエリートだ。謎な部分も多いので、【アステル】の神や上位冒険者以上に特別視されることもある。


 自分で言うのもあれだけど、そんなエリートが、俺たちのような最下位【アステル】に直接依頼してくるのを、不思議に思うのも仕方は無い。


「いやしかし、知り合いだからって何もこいつらに依頼しなくても……」


 親父は納得いかないように俺たちを見る。ギルドの職員ならば、所属の冒険者の不利益になるようなことを言うのはどうなのかと思うぞ。


「知り合いなら、こいつらの実力だって知ってるでしょうに。今回の依頼でしたら、近隣のギルドからもっと上位の【アステル】だって呼び出せますよ」


 色々な冒険者や依頼人と接しているはずの受付係が、リーデにはやたらと気を使う。それだけ【ウィザード】は特別な存在なんだろう。

 だからといって、俺たちに対するこの扱いはさすがにひどいものがある。


「知っているから彼女たちの【アステル】に依頼した」

「え?」


 予想外の答えに、親父は素っ頓狂な声を上げた。


「お前がどう思っているかは知らないが、私がこの【アステル】の能力を正当に評価したまでだ」


 親父は信じられないとばかりにぽかんと口を開ける。


「それともここのギルドでは、受付が個人の判断で冒険者の実力を決めつけ、不当に依頼を取り上げるのか?」

「いえいえいえ、そんな、滅相も無い」

「えっと、じゃあじゃあ、私たち、その依頼受けるね」


 ずいぶんと俺たちを評価してくれているのはありがたいが、何が起こってるのかわからないのは親父だけではない。

 少しばかり混乱した様子で、ミスラはアステル証を親父に差し出した。


「これで、受付は完了だ。失礼のないようにな……」


 親父も終始狐につままれたような表情で、受付作業を完了させた。


「さて、依頼についての細かいことを話したい」

「ああ、それは俺たちも聞きたい」

「【灰の書】に関する話もある。とりあえずここを出よう」


 親父は「個室をご用意しましょうか?」なんて言ってきたが、リーデは首を振るとギルドの建物から出て行った。

 依頼を受けた以上、まずは俺たちもリーデに従うしかない。何か言いたげな親父を残し、俺たちもギルドを出る。


「どこか人気のない場所に行きたいのだが」


 ギルドから少し離れて、リーデが切り出した。


「それだったら、あの廃墟にしないか?」

「昨日のあそこか」

「うん。私たち、トビー君の様子も見に行きたいし」


 ミスラは言ってから辺りの様子を窺う。トビーの知り合いが、この話を聞いていないとも限らない。


「トビーのことなんだが、私たちの方で引き取らせてもらった」


 それを察したリーデが、小声で囁く。


「え? なんで!?」


 しかしミスラは驚いたせいか、大きな声を上げてしまった。


「人間に戻すための術式は、【灰の書】の施設でしか行えない。いつかは連れて行く必要があったから、護送班に一緒に連れて行くように頼んだ。幸い、バルトアンデルスにはトビーとして、目立たずに生活するようにと命令がされている。まだもう少しの間、入れ替わっていても問題はないだろう」


 リーデは調子を変えずに続ける。


「それに、あそこに放置しておけば、トビーたちのような侵入者に見つかる可能性もある」


 確かに、隠し部屋で見たこともない生き物を発見なんてなれば、大騒ぎになるだろう。


「俺たちで世話をしようと思ってたけど、助かる」

「そうだね、ありがとう」

「お前たちに礼を言われることでもない。それに今回の依頼で、お前たちにもこの町を離れてもらう必要もあるからな」

「そうなの?」

「まあ、これ以上の話は向こうについてからにしよう」


 トビーがいないのならば、俺たちが廃墟に行く必要もなくなった。だが、他に人気のないところも思いつかないし、俺たちは真っ直ぐに廃墟へと向かった。


 地下の隠し部屋には、リーデの話通り檻ごとトビーはいなくなっていた。


「トビー君、怖い思いしてないといいな」


 トビー自身のためとはいえ、知らない人間に知らない場所へと連れていかれたら不安にもなるだろう。

 そもそも、あんな姿にされた時点で、どれだけ怖くい思いをしただろう。少し想像して見ても、いやな気分にしかならなかった。。


「オズってのは、なんでわざわざこんなことをしたんだ? 【灰の書】にいたころから、人体実験をやってたんだろ?」


 俺は昨日からの疑問を口にした。


「それに関しては、究極の生物を作るためだ、なんてことを言っていたな。トビーの場合は、たまたま地下室を見つけられてしまって、口封じも兼ねてだったらしいが」

「究極の生物?」

「奴の言う『究極』が何を示すのかはこれから取り調べるが、キメラの合成強化もその一環だったらしい」


 それであんな凶暴な生き物を野に放つんだから、全くはた迷惑な奴だ。


「取り調べって、マンドラキシンとやらを使ってか?」


 昨日オズは、マンドラキシンがあれば、嘘をついても無駄だみたいなことを言っていた。

 マンドラゴラという植物は知っているが、マンドラキシンは聞いたことがない。宿でミスラに聞いてみたが、彼女も初耳だったようだ。


「あれはまあ、脅しみたいなものだ」

「昨日から気になってたんだけど、マンドラキシンって何かな?」


 ミスラが興味を持つ。

 昨日のリーデの口ぶりでは、【灰の書】に所属でもしていなきゃその存在自体知らないような代物らしい。


「詳しいことは説明できないが……マンドラキシンは精神に作用する薬の一種だ」

「精神に?」

「ああ。ある種の精神系魔法の触媒として高い効果を発揮して、催眠や洗脳なんかに使用する。取り調べの際に、自白剤として使うこともある。まあ、効果が強すぎて、投与されたもののほとんどは廃人になってしまうがな」


 中々ひどいことをあっさりと言う。


「そんな薬、使っていいのか?」

「【灰の書】でも、使用は厳しく制約されている。よほどのことがない限り使わん。ただ、効果を知っている者は使用をちらつかせただけで観念する。さっきも言ったが、大抵は脅しに使うだけだ」


 使わずに効果が発揮されるならそれに越したことはない。が、よほどのことがあれば使うんだ……。やはり、【灰の書】は真っ当な組織と言うわけではなさそうだな。


「さて、他に質問がなければ、依頼について話したいのだが」


 リーデは椅子の一つに腰かけると、俺たちを見つめた。

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