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19 ありがとう、私なんかをを守ってくれて!

 最初に動いたのはオズの方だった。


「【紫毒の澱】」


 オズの言葉とともに、俺たちの足下に紫の霧がまとわりつく。

 ピリピリとした痛みが肌から伝わった。


「これ、吸い込んだらダメな奴だよ!」


 ミスラが慌てて口を押える。


「くっ、【ウィンド】!」


 俺が起こした魔法の風が、毒の霧を散らしていく。


「ほう。なかなかいい判断だ」


 俺を褒めつつも、オズの手の平の上にはすでに炎の矢が五本も揺らめいていた。


「ほら」


 オズが手を振ると、炎の矢が飛んでくる。


「【魔法障壁】!」


 ミスラが両手を前面に突き出すと、半透明の薄緑の幕が俺たちを包んだ。


 ぼん、ぼ、ごぅ。


 幕に矢がぶつかると、そこに壁があるかのように燃え尽きる。


「ほほう、それも中々の魔法だな」

「【サンダー】!」

「うんっ!?」


 ミスラの魔法で守られている間に、俺が攻撃役を担う。青白い閃光が、薄暗い路地にきらめいた。


「まあ、これぐらいは俺にもできるがな」


 オズの周りにはドーム状の薄緑の半透明の幕が張られ、俺の放った魔法は弾かれていた。

 しかもオズは、ミスラと違って両手を使った魔力の安定化をさせていない。


 それだけでも相当の技量が必要なのだが、さらに奴は魔法障壁を張りつつ、炎の矢まで作りだしていた。


「スキルの同時使用……!」


 複数のスキルを同時に使用する能力。合体スキルとはまた別の技術だが、それが使えるというだけで冒険者なら一目置かれる能力だ。

 元【ウィザード】の称号は伊達ではない。


 オズの背後に、次々と炎の矢が作られていく。今度は先ほどよりも数が多い。十、十五、二十!

 奴はなんと、二十本もの炎の矢を同時に作りだした。


 【なんでもステータスオープン】で弱点を探ろうにも、そんな隙ができやしない。


「次は耐えられるかな」


 オズが両手を振ると、炎の矢が一斉に飛んできた。

 ぼんぼんと音を立てて炎の矢が燃え盛る。


「く、う、くぅ」


 両手をかざして障壁に魔力を送るが、それ以上の攻撃が休みなく飛んでくる。

 俺も攻撃して奴に隙を作らないと、そう思った矢先、ピシリと音がして障壁にひびが入った。


「だ、だめ……」

「危ない!」


 俺がミスラに覆いかぶさるのと同時に、魔法障壁が砕け散った。

 熱を帯びた突風が俺を襲う。


「ぐぅっ!」

「ウ、ウィンくん!」

「ぐ、ぁぁ!」


 ある程度は障壁で守られたおかげで、熱風はすぐに止んだ。だが、俺は背中にしっかりとやけどを負ってしまった。


「ウィンくん。待ってて、すぐに回復させるから」


 ミスラが手をかざすと、背中の痛みが和らいでいく。


「俺がそれを持っててやると思ってるのか?」


 オズの手の平の上に、今度は電気を帯びた球体が現れた。

 複数の魔法を矢継ぎ早に、いとも簡単に操ってみせる。魔法系スキルに関しては、俺たち二人がかりでも足元にも及ばない。


 対してこちらの攻撃は、奴の魔法障壁に阻まれてしまう。合体スキルクラスの技を喰らわしてやりたいが、魔法系スキルは効果範囲が広いので、狭い路地では近隣の建物にまで被害が出てしまう。

 範囲が限定される近接系を使うには、火傷のダメージが大きすぎる。


 こうなったら。

 俺はオズに向かって片手を伸し、炎の塊を撃ち出した。


「なんだ、今さら下級の炎魔法か?」


 ひょろひょろと飛んで行く炎を見ても、最後の悪あがきと思ったのだろう。オズは警戒もしなかった。

 やがてぽんと魔法障壁に当たる。炎の塊は、障壁を破るほどの破壊力も貫通力も見せなかった、が、その代り、盛大に光輝いてみせた。


「ぬぐ、ぁ!」


 【ファイアー】と【フラッシュ】を合体させたスキル、【フラッシュボム】だ。

 キメラとの戦いで、地味ながらフラッシュの有用性は確認済み。今もすっかり油断していたオズは、視力を完全に奪われている。


「く、くそがぁ!」


 ショックで作っていた雷玉も消えてしまっている。この隙に、高火力のスキルを叩きこめればいいのだが、体が合体スキルに耐えられるまでにはもう少し回復が必要だ。


「うおおぉぉぉ!」


 その時、リーデの雄叫びが聞こえてきた。

 俺は声のする方向を見る。路地から出はない、上だ。

 リーデは路地に面した建物の上を走ってきていたのだ。


「だぁ!」


 リーデは刺突剣を抜き、屋根の上からダンっと飛び降りる。

 落下の勢いのまま、オズの真上から障壁に剣を突き立てた。


 ガヅッと激しい音を立てて、剣は障壁に食い込む。


「おおおおぉぉぉ!」


 リーデが咆哮とともに力を込める。魔力を纏った剣が、少しずつ障壁の中へと差し込まれていった。


「な、なんだ? 何が起こっている!?」


 視力を奪われ状況を把握できないオズが、きょろきょろと辺りを見回すがリーデはそこにはいない。お前の頭上にいるのだ。

 先ほどミスラの障壁がそうなったのと同じように、限界を越えた幕がピシリと音を立てる。


 そうなってからは早かった。刺突剣を中心にひびは広がり、障壁はガラスのように砕け散った。

 その激しい音に、オズが頭を抱える。


「なんだってんだよ、ちくしょう!」


 未だに視力が戻っていないオズは、背後に鬼の形相のリーデが迫っているのに気が付いていない。


「オズウゥゥ!」

「ひ、っ」


 オズが声に反応して振り向いた瞬間、リーデが剣の柄で頬を殴り飛ばした。


「ぐがっ!」


 短く呻くと、オズは地面に倒れた。


「貴様がしたことの落とし前、きっちりと付けさせてもらうぞ!」


 リーデは襟首を掴み、オズを引きずり起こす。


「ま、待て、がっ!」


 オズの制止も聞かず、今度は逆の頬を殴りつけた。


「はぁ、はぁ」


 再びオズが地面に倒れると、そこでようやくリーデの動きが止まった。荒い息を方でする。


「あ、うぅ、痛い、痛いぃ、いたおうごっ!」


 だが、地面を這いつくばるオズの腹に、リーデのつま先がめり込んだ。中身がオズではあるが、見た目は女性だ。俺もミスラも、思わず顔を背けてしまう。


「少しでも余裕があれば、何をしてくるか分からんからな」


 リーデが警戒するのも分かるが、ここまで痛めつければもう抵抗はできないだろう。


「しかし、捕らえるのはもっと手こずるかと思っていたが、お前たちのおかげで楽に済んだ」

「そんなに大したことはしてないけどな」

「謙遜するな。こいつも腐っても【ウィザード】だ。十分大したことだよ……。さて」


 そう言ってリーデは、オズを俺たちの前に放り投げた。


「お前たちも、この男に落とし前を付けさせるんだろ?」

「ひ、ひぃ、ひいぃ……」


 俺たちの前でオズは、頭を抱えて亀のように丸まっている。

 自業自得とはいえ、哀れな姿ではあった。

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