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17 【みんななかよしほっこり団】だよ

「ウィンさん、ミスラさん」


 町に戻り通り歩いていると、ハンスに出会った。

 俺たちに気が付いたハンスは、手を振って走ってくる


「ハンスくん」

「あれ? こちらの赤い方は?」

「赤……!?」


 ハンスが俺たちと歩くリーデを見る。

 子供特有のストレートな物言いに、リーデも言葉を詰まらせた。まあ、確かに赤いな。


「彼女はリーデ。俺たちの仲間だ」

「そうそう、一緒に廃墟の調査をしてたんだよ」

「そうなんですね。それで、なにか見つかりましたか?」

「廃墟な。三人でよく探してみたんだけど、怪しいところは何も無かったよ」


 トビーが人外の獣にされた。俺たちですら受け止めきれていないのだ。

 あの真実を知らせるのは、ハンスには残酷すぎる。こっそりトビーを元に戻して、ハンスにとっては何も無かったってことにしたっていいじゃないか。


「そうだったんですか……」


 全てを納得できないのか、ハンスの語尾ははっきりとしない。


「ハンスくんの方はどうたったの?」

「ランドに会ってきたんですが、やっぱり、お母さんに怒られたんじゃないかって」

「トビーも、お母さんに怒られたなんて言うのが恥ずかしいんだろ」

「うん。廃墟にも何にもなかったしね。ね、ウィンくん」

「ああ、そうだな」


 ミスラは嘘をつくのが下手なのだろう。俺に同意を求めるその表情に、複雑な気持ちが出てしまっている。


「そうですね。ありがとうございました」


 しかしそれには気づかずに、ハンスは明るい声を出した。

 事情はどうあれ、子供を騙すのは心苦しいが、今回ばかりはこれで納得してもらってほっとした気持ちの方が大きい。


「それでは、これ、今回の報酬です」


 気持ちが切り替えられたのか、ハンスは依頼完了の証として銅貨を差し出してきた。


「いいよ、何かあったわけじゃないんだし」

「子供だからって馬鹿にしないでください」


 受け取りを拒む俺たちに、ハンスはきっぱりと言った。


「どんな依頼人からでも報酬は受け取る、その代りどんな依頼でも全力で解決する。それが一流の冒険者ですよ」

「お、おお……」


 なんと、冒険者の心がまえを子供に説かれるとは。

 事件はまだ解決していないし、報酬を受け取る理由がないのだが。今それを説明するわけにはいかない。


 だが、事件を解決しても、報酬は受け取らないつもりでいた。それがハンスを子供扱いをしているからだというのは、確かにその通りだ。


「すごいね、ハンスくん」

「これは、以前に出会った冒険者の方からの受け売りなんですけどね」


 褒められたハンスは、少し照れながら言った。


「改めて、この報酬、受け取ってください」

「ああ……」


 そうまで言われたら、受け取らざるを得ない。

 俺は手を伸ばして銅貨を受け取った。


 しかし、ハンスに嘘をついているのに、報酬を受け取るのは心が痛む。

 銅貨五枚だけだったが、手の平にはそれ以上の重みがずしりと伝わってきた。


「今回はぼくの空回りでしたけど、わざわざ付き合ってくれてありがとうございました」


 そんなこととはまるで知らずに、ハンスは頭を下げる


「誰もぼくの言うことを相手にしてくれなかったのに、お二人だけはちゃんと話を聞いて、調査までしてくれました。ぼくもあなた方みたいな冒険者になりたいです」


 屈託のない笑顔で言われると、どうにも気恥ずかしい。


「わぁ、ハンスくんが冒険者になったら、私たちのアステルに入ってほしいね、ウィンくん!」

「ああ、そうだな」


 もしハンスが本当に冒険者になったら、そのころの俺たちはどんな風になってるだろう。

 俺はふとそんなことを考えてしまう。今と変わらず人助けができていればいいけど。


「ミスラさんたちって、アステルなんですか? アステルの人がぼくの依頼を受けてくれたなんて」


 ハンスの瞳がキラキラと輝く。

 冒険者はこのぐらいの年の男の子にとって憧れだ。アステルが普通の冒険者パーティーと違うのも、なんとなくは理解している。


「ふっふっふ、何を隠そう、私のアステルなんだよ」


 ミスラが自慢げに胸を張る。素直に憧れられて、悪い気はしないのだろう。


「へぇ! なんてアステルなんですか? ぼく、これから応援します!」

「【みんななかよしほっこり団】だよ」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」


 あれだけキラキラしていたハンスの表情が、一瞬真顔に戻った。

 その名前を聞いたリーデも眉間に皺を寄せている。


「【みんななかよしほっこり団】だよ」

「は、はあ、あの、これから応援しますね。では、今日は本当にありがとうございました」


 少し困惑したような顔のままだったが、ハンスは何度も頭を下げながら家に帰っていった。


「いいのか? 本当のことを話さなくて」


 黙って俺たちのやり取りを見ていたリーデが、口を開く。


「あんな子供に、話せるわけないだろ。悪魔かお前」

「報酬も受け取ってしまったんだろ」

「だから!」


 ミスラが珍しく語気を強めた。


「だから、絶対にオズを捕まえてトビーくんを元に戻す!」

「そうだな」

「この事件、絶対に解決しなきゃいけない理由が増えたからね」


 ミスラが、俺の手の上の銅貨を見つめた。


「だからリーデ、改めてお願いする。俺たちに協力してくれ」


 リーデは俺の申し出に、やれやれと首を振った。


「リーデが目星を付けているってのは、どんな奴なんだ?」

「私が目星を付けているのは、ここひと月以内にこの町に流れ着いた男だ。この町で目撃情報がなくなったので、ここで顔を変えたのだろう」

「でも、冒険者なんかは町に出入りしてるし、そういう奴は結構いないか?」

「冒険者はギルドに身分証明をしているだろ。だから除外した。今のところ四人まで絞られているが、それ以上はまだ決め手がなくてな。そこにきて、お前のスキルだ」


 なるほど、四人まで候補が絞られているなら、【なんでもステータスオープン】ですぐに正体を暴くことができる。


「よし、早速その四人を調べるか」

「……いや、お前たちはまず、この街の出口を張ってくれ」

「出口を?」

「もし、私たちがオズのことを探っていると知ったら、すぐに町を出るかもしれない。奴のことだ、廃墟の研究室に侵入者があった場合の感知魔法ぐらいは仕掛けているだろう」

「私はその四人の所在を調べるから、その間、お前たちは町を出る人間のステータスを片っ端から調べてくれ」

「でも、わざわざ出口から出て行くかな? 廃墟のあった方からも、町から出れるし」


 ミスラが当然の疑問を口にする。


「このタイミングで、人目を避けるように行動すれば逆に怪しまれる。オズは私たちがどれだけの情報を持っているか、ましてやステータスの情報を見れるなんて知りもしないはずだ。だから、堂々と出口から出て行くだろう」

「なるほどねー。リーデちゃんはすごいね」

「ちゃん……!?」


 ちゃん付で呼ばれて、リーデは何か言いたげな顔をする。リーデの言い分もあるだろうが、今は少しでも早く行動したほうがいい。

 俺とミスラはリーデの提案通り、町の出口へと向かった。

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