16 私たちで協力をしないか?
「私はお前に情報を提供した。次はお前たちの番だ」
檻の中を見つめていたリーデが、俺たちに向き直る。
確かに、ギブ&テイクなら、次は俺たちが情報提供をする番だ。
「お前たちはなぜオズを知っている? バルトアンデルスもオズの作りだした魔法生物だ。奴から直接聞いたのでもなければ、構成員でもないお前たちがその名を知っているわけがない」
矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、すぐには答えられない。
俺とミスラは顔を見合わせる。
【なんでもステータスオープン】は、数々あるスキルの中でも異質な存在だ。相手の弱点や人物紹介まで把握できてしまうのだから。
【灰の書】は魔術研究機関。こんな能力を持っていると知れたら、何かに利用されかねない。利用されないにしても、俺という存在が警戒されることは間違いない。
「ウィンくん……」
ミスラも同じ懸念をしているのだろう。どうするべきが迷っている。
「どうした? やはり、オズと何かしらのつながりがあるのか?」
リーデの声色にも緊張の色が混じる。
再び剣に手をかけると、俺たちから一歩距離を置いた。
「ウィンくん、ここは正直に言った方がいいと思う。まずは、オズを捕まえてトビーくんを元に戻さないと」
「……うん、そうだね」
それに、ここでごまかしては、余計にリーデに不信感を持たれるだろう。
オズの顔も分からない今、リーデを敵に回すのは得策じゃない。
「それじゃあ話すが、このことは他言無用で頼むぞ」
「ああ。オズさえ捕まえられるなら、それ以上のことに興味はない」
そして俺は、自分のスキルについて、そしてハンスからの依頼のことを説明し、偽トビーのステータスに書かれていたことからオズとバルトアンデルスの名を知ったこと語った。
「にわかには信じられんな」
「話を聞いただけだとな」
「じゃあ、見せてあげなよウィンくん」
「ほう?」
あまり感情を見て取れなかったリーデの言葉に、少しだけ興味の色がのる。
「じゃあ、あんたのステータスを見させてもらうぜ」
「そうだな。私のステータスなら、私が合っているかどうか判断できる。どうすればいい?」
「そこに立っててくれればいいよ」
「ここか?」
「うん……。【なんでもステータスオープン】」
勿体付けることもないので、さっさとスキルを発動させる。俺の言葉とともに、いつものようにステータスウィンドが現れた。
「ふん、見た目は自分で開くステータスと変わらないんだな」
「そこはね。ほら、自分で見て確認してくれ」
女性のステータスをあまりじろじろ見てはいけないということは、ミスラの一件で学んだ。
俺はステータスからは顔を背けてリーデを招く。
「これは……確かに私のステータスだ」
リーデは興味深そうにウィンドウに書かれた情報を眺める。
「ここまで詳細に……っ!? もういい、消してくれ!」
だが、何かを見たとたんに慌てた声を上げた。
何か見られたくないことでも書いてあったのだろうか。
「ふぅ……。わかった。お前のそのスキルが本物だと言うことは認めよう」
リーデは息を吐いて気持ちを落ち着けると、俺たちを見つめた。
「そこで相談だが、オズを捕らえるにあたって、私たちで協力をしないか?」
協力に関しては、俺たちから申し出るつもりでいた。
いくら【なんでもステータスオープン】があったとしても、顔も知らなければスキルの使いようもない。
少なくとも、オズを知っているリーデの協力は必須だった。
だが、こうあっさり向こうが俺たちを信用するのは、以外ではあった。
「それは、俺たちも助かる」
「そうだね、私たち、オズの顔も何も知らないからね」
「顔については、おそらく魔法技術で変えていると思う」
魔法による顔整形。犯罪者や逃亡者がよく使う手段だ。
「だが、お前のその能力があれば、顔を変えているオズの真のステータスを暴くことができる」
「確かに」
「私がこの町で目星をつけた人間の情報を与える。そこでお前は、そいつらのステータスでオズかどうかを確認してくれ」
「わかった。こっちとしても、当てもなく探すよりもずっと助かる」
こうして俺たちは、お互いの協力を取りつけた。
ミスラは握手を求めて拒否をされたので、少し悲しそうだったが。
「私たちが探ってるとオズに知れたら、また逃げられる。急いで町に戻ろう」
「待って。この子、どうしよう……」
急かすリーゼに、ミスラがやるせない気持ちを込めて檻の中を見つめる。
檻の中のトビーは咆え疲れたのか、黙ってこっちを見ているだけだ。
「連れてはいけまい」
「でも、こんな所に置いて行けないよ」
「こいつは、人目に付かないところにいた方がいい。それならここが一番安全だ」
「でも……」
「それに、獣化した人間は本能が強くなって、自制が効かなくなる。ここから連れ出すにしても、檻のようなところに閉じ込めなければならないだろう」
「……」
悔しそうな表情を浮かべるが、ミスラはそれ以上何も言わなかった。
俺も悔しかったが、リーデに反論できる要素がない。
外に連れだすには目立ちすぎる。しかも、リーデの言う通り知能も低下しているのならば、俺たちの言うことを大人しく聞いてくれるという保証もない。
「ごめんね、トビーくん。でも、必ずオズを捕まえて、元に戻してあげるからね」
「ぐ? ぎゃう?」
トビーは悲しそうな目で俺たちを見る。言葉が理解できているぶん、余計に哀れになった。
「急いでオズを探そう」
「ぎゃわ! ぎゃうぎゃう!」
部屋を出ようとする俺たちの背に、獣の責めるような鳴き声が届く。
彼を一人置いておくのは心苦しいが、彼が生きていないとバルトアンデルスは変身してられないのだ。しばらくの間は、命は保証されているだろう。
一刻も早くオズを捕まえ、トビーを戻す方法を聞きださなければ。
俺たちはオズを絶対捕まえると心に誓い。地下研究室を後にした。
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