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15 【灰の書】に所属する【ウィザード】だ

 赤いストレートヘアにきつめの瞳。美しくはあったが、そこに立っている女は険しい顔だ。

 長身で、赤を基調にしたジャケットに、スリットの入ったスカート。腰には細身の刺突剣を下げている。

 剣はまだ鞘に納まったままだが、油断はできない。


「お前がオズか?」


 俺は剣を構えながら、目の前の女に尋ねる。


「どういうことだ? お前たち、オズを知っているんじゃないのか?」


 女は意外そうな声で答えた。


「俺たちが知ってるのは名前だけだ」

「そのわりに、バルトアンデルスだのとずいぶん詳しそうだったがな」

「なんでそれを?」


 今度はミスラが意外そうな声を上げた。


「お前たちが話していただろう。それを聞いたのは偶然だ」


 偶然だとしても、それを聞いて俺たちを追ってきたってことは、こいつはオズの仲間か。

 それで、オズのことを嗅ぎまわる俺たちを消しに来たって所か。


 ステータスオープンをしてあいつの能力や弱点を調べたいところだが、女も腰の剣に手をかけている。

 どんなスキルを持っているかもわからない状況で、ステータスを調べている余裕はない。


「トビーくんは? トビーくんはどこにいるの?」


 このまま無言の牽制が続くかと思ったが、それを破ったのはミスラだった。


「トビー?」

「お前たちが誘拐したんだろ? バルトアンデルスと入れ替えて!」

「誘拐……? なるほど、そういうことか……」


 女は少し考えてから、納得したように呟いた。


「お前たちがどういう経緯でオズやバルトアンデルスのことを知ったかはわからないが、私はオズの仲間ではない」

「なに?」

「むしろ逆だ。お前たちと同じで、オズを探している」


 確かにさっきの女の態度を見る限り、トビーの件については何も知らなそうだった。

 だからといってこの女が俺たちの敵じゃないとは限らない。ミスラを見ると、彼女も女を信じていいか悩んでいるようだった。


「それと、トビーとか言う奴は知らないが、そいつがどこにいるかの見当はつく」

「ほんとに!? どこにいるの?」

「そこだ」


 女は俺たちを指し示す。


「……? どこだよ?」

「だからそこだと言ってるだろ」


 相変わらず、女は俺たちを指さしている。


「う、ウィンくん……もしかして、この子……」


 ミスラが俺の袖を引いた。その顔は、信じられない物でも見たような恐怖にひきつっていた。


「この子って……」


 俺も恐る恐る後ろを向く。そこには、獣の入った檻。

 子供ぐらいの大きさ……。獣……。


「まさか……」

「そのまさか、だろうな」


 女は淡々と言った。


「あいつは禁忌を犯した。だから、私が追っている」


 禁忌って、人を獣に変えることが?

 そんなことができるのか?

 いや、能力的にできたとして、そんなことを実際にやってみせる人間がいるのか?


 見ず知らずの誰かの悪意に、俺は吐きそうになる。それはミスラも同じようだった。気分が悪そうに胸を押さえている。


「禁忌って、追っているって……オズやあなたたちは、いったい何者なの?」


 女は目を閉じて少し何かを考えると、ふうと息を吐いた。


「わかった、話そう。少なくとも、お前たちはオズの仲間と言うわけではなさそうだからな」


 それはこっちのセリフだと思ったが、ぐっとこらえる。こっちとしては、この女が信用できる相手かどうかはわからないままだ。


「私の名前はリーデ。【灰の書】に所属する【ウィザード】だ」


 【灰の書】。魔術師の研究機関だ。

 名前はある程度有名だが、排他的な組織で拠点や活動内容などは表に出てこない。


 そんな秘密主義の組織でも、周知されていることもある。

 【灰の書】にはたぐいまれな魔力と魔術の才を持っていないと入ることはできず、【灰の書】所属の魔術師は、特別に【ウィザード】の称号で呼ばれているということだ。

 俺も魔術師には何人か会ったことはあるが、【ウィザード】に会うのは初めてだった。


「そして、オズもまた【灰の書】に所属する【ウィザード】だった」

「だった……」


 ミスラが繰り返す。


「そう。今のあいつは、【ウィザード】の称号を剥奪されている」


 禁忌を犯した。先ほどのリーデの言葉が頭に浮かぶ。

 俺の後ろでギャウギャウと鳴く獣の声が、一層大きくなった気がした。


「ここまで言えばお前たちも予想してると思うが、奴は自分の魔導技術向上のために人体実験を行った」


 やっぱり。その事実を教えられても、もはや驚きはしなかった。

 それはミスラも同じで、彼女の口からも何も出てこなかった。


「私が言うのもなんだが、【ウィザード】の称号を得るほど魔術にその身を捧げた者たちは、人間としてどこか枠組みを外れた者が多い。だが、それでも超えてはいけない一線があるし、我々【灰の書】にも掟はある。それを破ったオズは、牢獄に幽閉された」

「幽閉?」

「ああ。我々には独自の司法制度がある。お前たちで言う裁判までの間、幽閉している予定だった」


 【灰の書】はどの国の影響下にもなく、それ自体が独立した国家のような物だと聞いていたが、どうやらその通りのようだ。


「しかし、奴は牢を破り【灰の書】から逃亡した」

「それで、リーデが追いかけてきたのね」

「そうだ。私は【灰の書】に所属はしているが、専門は研究ではない。組織の自警団的な役割をしていると思ってくれ」

「大体の事情はわかった。あんたは、オズって奴を追ってこの町に来たってわけだな」

「ああ。なんとか奴が関わっていそうな情報を得て追ってきたが、この町や近隣では最近になってそれらしい事件が起こっている」

「それらしい事件?」

「ここから一日ほどの村の近くに、キメラ亜種が現れたらしい。その亜種はすでに冒険者たちに狩られたらしいが、それもオズが改造したものだろう」

「あのキメラもあいつの仕業なのか!?」


 ここら辺に合成獣の、しかも亜種が現れるなんておかしいと思っていた。

 それがまさか、こんな所で俺たちに繋がるなんて。


「ん? 知っているのか?」

「知っているも何も、そのキメラ亜種を倒したのは俺たちだよ」

「ほう? 思ったより上位の冒険者なんだな」

「あ、いや、まあ運が良かったってのもあるけど」

「まあ、お前たちがどう勝ったかはこの際関係ない。それが十日程度前の話なので、おそらくまだこの町に潜伏していると思い探っていたら、お前たちがオズの名前を話していたというわけだ」


 それで今度は、俺たちを追ってきたのか。


「ねえ。あなたたちは魔術の研究をしてるんでしょ?」

「ああ、そうだが?」

「この子を戻す方法はないの?」


 ミスラが悲痛な面持ちで問う。


「戻す方法は無くはないが……今の状況ならば、オズから情報を聞いた方が早いだろうな」

「じゃあ、絶対オズって奴を捕まえないとね!」


 ミスラは決意を固めるように、グッと両手で握りこぶしを作った。

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[一言] なんでもステータスオープンで戻す方法見つけられないかな
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