14 旧オリバー邸宅
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町の喧騒も遠くなり、周りに建物もなくなったころ、場違いな一軒の大きな家が見えてくる。
ハンスたちが肝試しをしたという、例の廃墟だ。
「私も廃墟の噂は聞いたことあったけど、実際に見るのは初めて」
「俺もだよ。こんな大きい建物とは思わなかった」
遠くからでも大きさはわかったが、近くで見るとボロボロになった外装がその大きさと相まって、異様な雰囲気を醸し出していた。
仲のいい友達がいたなら、一緒に肝試しでもしたくなる気持ちはわからなくもない。
敷地内は柵に囲まれていたが、門扉は壊れ侵入は容易だった。
外観では、二階立てであることが分かる。俺たちが止まっている安宿よりもさらに大きい。
「誰かが住んでた時は、すごい豪華な建物だったんだろうね」
ぐるりと建物の周囲を調べながら、ミスラはしみじみと言った。
庭は荒れ放題で雑草が生い茂っている。玄関に続く石畳以外は人が踏み荒らしたような形跡はないので、庭にトビーの手掛かりはなさそうだ。
俺たちは改めて玄関に回る。
立派な玄関ではあったが、こちらも扉が半分はずれかかっていた。
「よっと」
俺たちは、はずれかかった扉の隙間から中に入る。
隙間と言っても大人一人が十分通れる大きさなので、空き部屋にでも住みつこうと思えば誰でも簡単に出入りできた。
「中もしっかり廃墟だね」
屋敷の中は町の子供や若者が肝試しにでも来るのか、家具等が動かされていて経年以上に荒れているように感じる。
靴跡も大小いくつか残っていたので、オズとやらが出入りしているのかは判断できなかった。
「まずは一階から調べてみるか」
「バルトアンデルスに入れ変わられると厄介だから、一緒に回ろ」
俺はミスラの提案を受け、二人一緒に屋敷の中を回った。俺なら偽物を見分けられるが、最悪の場合その俺が入れ代わられる可能性もある。少し効率は悪いが、バルトアンデルスが何体いるかもわからないし仕方がない。
一階は食堂とキッチン、客間に浴場と物置、それに書庫と思しき部屋。
二階には、寝室が数部屋と書斎、そしてこちらにも物置部屋があった。
見て回った限りでは、人が潜めるような場所は無い。何者かに襲われるなんてこともなかったので、トビーやオズはここにいないのだろうか。
「特になんにも無かったね」
「簡単に見ただけだからな」
一通り館の中を見回った俺たちは、玄関ホールまで戻ってきていた。
「もしかして、隠し部屋があったりするのかな」
ミスラがワクワクとした口調で言う。
何が潜んでいるか分からないので、そんなに楽しいものではないと思うが。なんて思いながらも、館の廃墟に隠し部屋があると想像すると、俺も少しワクワクしてしまった。
「でも、この屋敷内から隠し部屋を探すのは大変そうだな」
「隠されてるわけだからねえ」
簡単に見た限りでは、そんな物の形跡は見つからなかった。
しっかり探さないと見つからないだろうし、そもそも隠し部屋があるかどうかも定かではない。
二人だけで探すのは骨が折れそうだ。
「そうだっ」
今日だけじゃ探索しきれないかもな、そう思った時、何かに気が付いたようにミスラが声を上げた。
「この家のステータスを調べたら、隠し部屋の場所とか分からないかな?」
「家のステータスか。それは思い付かなかった」
「『なんでも』なんだから、きっと調べられるよ」
こう言うところ、ミスラは本当によく気が付くと思う。
物は試しだ、俺たちは早速館全体をターゲットできるように外へ出た。
「【なんでもステータスオープン】」
館から少し離れたところに立ち、建物全体をターゲットするイメージでスキルを発動させる。
当然のように、中空にステータスが表示された。
『なんでも』というのは、本当に『なんでも』なんだな。
旧オリバー邸宅
築年数:49年
建坪:122坪
建築物紹介:
富豪オリバー・ガストンの別邸。
仕事の際に訪れ、客などを招いていた。
一階にはキッチンと調理場、客間と浴室と倉庫、そして書庫が備えられている。
二階はオリバー一家の寝室と来客用の寝室、そしてオリバーの書斎が備えられている。
また、一階書庫の本棚奥には階段が隠されており、地下の隠し部屋へと続いている。
錬金術師シード・アピノードに隠し部屋を提供し、違法な薬物を合成させていた。
他にも非合法な商売に手を染めていたオリバーは、それらが露見して逮捕、投獄。家は没落し、この邸宅も二十年前に放棄された。
「書庫の本棚に隠し階段……」
「これだね、ウィンくん」
「よし、早速調べてみよう」
俺たちは急いで書庫へと向かう。しかし、錬金術師の名前はシード・アビノードと書かれていた。オズって奴ではないな。
シードとオズは何か関係があるのか?
なんて考えても分からないし、まずは隠し階段を見つけよう。オズでもシードでも、本人がいれば直接聞けばいいんだから。
俺たちは再び書庫へと足を踏み入れる。そこには、いくつもの本棚が置かれていた。
館が放棄されたときに持ちだされたか、こそ泥が金に換えるために盗んだか、理由はどうであれ棚にはほとんど本は残っていない。残された本も、カビが生えたりページが破れていたりで、読めたものだは無かった。
しかし、俺たちの目的は本ではない。本棚の方だ。
「ウィンくん、これかも」
二人で書庫を調べていると、ミスラが俺を呼ぶ。
「ここ、ここ」
ミスラが指をさす場所、本棚の奥に四角く切れ目が入っていた。
明かりもない部屋なので、隠し部屋がある前提で探さなければ見つからないような代物だ。
「何かのスイッチかな?」
「とりあえず押してみよ」
そう言うと、ミスラは躊躇せずに切れ目を指で押した。
切れ目に添って、木の板がずずずっと奥に差し込まれる。
「当りっぽいね」
ガチャッと音がして、本棚が少しずれた。
「やっぱり!」
ミスラは嬉しそうに声を弾ませた。罠って可能性もあるんだし、先に俺がステータスオープンして調べておけばよかった。
まあ結果オーライだからよしかと考えながら、俺は本棚をずらした。棚は少し力を込めただけで横にスライドする。
本棚の先には、棚と並行に延びる下り階段。ステータスに書いてあった地下の隠し部屋は、この先だろう。
「ウィンくん」
ちょっと前まで好奇心に満ちていたミスラも、緊張した表情を浮かべる。
この先には、例の魔術師が潜んでいるかもしれない。子供と魔法生物を入れ替えるような奴だ。あまりまともな奴だとは思えない。
「【ライト】」
ミスラが魔法の灯りをともし、俺はその灯りを頼りに階段を下りる。
十段以上ある階段を下りきると、突き当りには扉が閉じられていた。
鉄製のとびらには、所々錆が浮き上がっている。この先に何が待っているのか。俺は緊張から、無意識にごくりと唾を飲み込んだ。
「ウィンくん」
ミスラが俺と目を合わせる。彼女は短剣に手を当てていた。
俺も剣に手をかけながら扉を押す。
重い感触はあったが、ぎぃっと音を立てて扉が開いた。
部屋の中から、薬品に混じって獣のような臭いが流れ出してくる。
「んん」
ミスラがあからさまに不快な顔をする。あまり嗅いでいたい臭いではない。
わずかに開いた隙間からは、臭いとともに薄い灯りも漏れ出ていた。
やはりここに、誰かいるのかもしれない。
「オズ! トビーはどうした!」
俺はオズの名前を呼びながら、部屋に踏み込んだ。
部屋の中は広かったが、実験器具だろうか、机や巨大なガラス瓶、それに繋がる管など様々なものが乱雑に置かれていて窮屈さを感じさせた。
俺たちは油断なく部屋の中を見回すが、人間いる様子はない。
「ぎゃぅ! ぎゃわぅ!」
しかし、部屋の奥に置かれた檻からは、獣の声が聞こえてくる。
ミスラが魔法で照らすと、檻の中には一匹の獣がいた。人間の子供ぐらいの大きさで、猿と犬が混ざったような姿。俺もミスラも、こんな動物は見たことがなかった。
ぎぃ。
その時、背後で物音が聞こえた。
「誰だ!」
剣を抜き素早く振り返ると、俺たちが入ってきた入り口に、一人の女が立っていた。
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