13 さすがに想定外だ
俺が開いたステータスの情報は、トビーの物ではなくバルトアンデルスと言う魔法生物の物だった。
状況が飲み込めない俺は、ステータス情報をスクロールして別の情報を探す。
魔物紹介:
魔法科学によって生み出された人工生命体。
元々は粘液状の不定形生物であるが、人間や動物の魔力を取りこみ、取りこんだ相手とそっくりの姿に変身することができる。
変身した相手の人格や記憶もある程度保有することができる。
変身元の相手の魔力を元に姿を維持するので、相手とあまり離れすぎたり相手に死亡されるなどで魔力の供給がなくなると、姿を維持できなくなる。
このバルトアンデルスは、魔法学者オズ・モーロックにより作りだされた人工生命体で、現在はトビー・エクアノとして彼の家で生活している。
「なんか、とんでもないことになってるね」
ミスラが、ハンスたちに聞こえないようにひそひそと話しかけてきた。
「ああ。モンスターと入れ替わっているのは、さすがに想定外だ」
改めて偽トビーを見てみるが、見た目は人間そのものだ。
ハンスも内面の変化には気が付いているが、外見に関してはまるで不信感を抱いていない。
母から用事を言いつけられている辺り、家族でも見分けがついていないのだろう。
「そうだ。あの夜、トビーはどこに行ってたんだい?」
「あの夜?」
ハンスは俺たちがとんでもない事実に行きついたことにまだ気が付いていない。
「肝試しの夜だよ」
「またその話か? 別にいいじゃないか、俺がどこに行ってたって」
「そんな言い方ないだろ。ぼくもランドもきみのこと、すごい探し回ったんだよ?」
「……トイレだよ。漏れそうだったから、庭にでてこっそりしてたんだよ」
「だったら最初からそう言ってよ」
「言うのが恥ずかしかったんだよ。結構時間食っちゃったな。いい加減に俺、帰るから」
偽トビーは有無を言わせない態度で、路地の奥へと歩きだした。
「う、うん。それじゃあ」
ハンスもこれ以上は引きとめられないと思ったようで、手を振ってその背中を見送った。
「やっぱり、トビーはあんな感じじゃなかったのになあ」
ハンスが訝しがる。
偽トビーは感情が若干乏しいと感じはしたが、完璧に人間を演じていた。現に初対面の俺には、物静かな子どもにしか見えなかった。
「ねえミスラさんたちは、なにか感じませんでしたか? その、冒険者の感みたいなもので」
「いやあ、彼に会ったのも初めてだし、よくわからなかったな」
俺に続いて、ミスラもうんうんと頷いた。
本当のことを伝えたら、ハンスに必要以上に心配させてしまう。
それにもし真実を知ったら、彼の性格上黙ってなんていられないだろう。大人しそうに見えるが、友達のためにギルドに依頼を出すぐらいの行動力を見せる彼なら。
モンスターが関わっている以上、この件に深入りさせるのは危険だ。
ハンスが次の犠牲者になることだって、十分に考えられる。
「トビーの方に怪しいところはなかったから、俺たちはこれから廃墟の方を調べてみるよ」
「じゃあ、ぼくも行きます!」
ハンスがグイッと身を乗り出した。
「これから探索すると帰る頃には暗くなっちゃうし、ハンスくんは私たちの報告を待ってて」
「でも、トビーはぼくの友達だし……ただ待ってるなんて、できないですよ」
ハンスは譲らない。だが、あの廃墟には間違いなく何かある。それが分かっていながら、子供を連れて行くわけにはいかなかった。
「だったら、もう一人の友達の……」
「ランド?」
「そう、そのランドくんにも話を聞いてきてよ。トビーくんの変わったところとか」
「でもなあ、彼、そういうところ鈍いんですよね」
「そういう子でも気が付く変化の方が、決定的ってことでしょ?」
「なるほど、そういう考え方もありますね……でも……」
「トビーくんのことを本当に心配してるなら、どんな細かい情報でも探してあげないと」
「そうですよね、トビーはぼくの親友ですから……よし!」
ミスラに説得されてハンスはようやく納得してくれた。
「それでは、ぼくはランドのところ行ってきますね」
やると決めたら行動は早い。ハンスは俺たちに手を振って、路地から駆けだしていった。
「これで、ハンスくんの方は大丈夫だね」
「ああ。問題はトビーの方だ。俺たちも、廃墟の方に急ごう」
町はずれの廃墟は有名だ。
俺もミスラも大体の場所はわかっている。
「ミスラはバルトアンデルスなんてモンスター知ってる?」
「うーん、シェイプシフターとかミミックとか、擬態するモンスターは何体か知ってるけど、バルトアンデルスなんてのは聞いたことないな」
「人工生命体って書いてあったし、オズって奴が作ったオリジナルのモンスターなのかもな」
「だね」
「説明には、変身してる相手の魔力供給がないと姿を維持できないって書いてあったから、トビーは無事ではあるだろうけど」
「うん。でも、バルトアンデルスがトビーくんと入れ替わった理由も謎だし、急がないとね」
「ああ」
(バルトアンデルス……それにオズだって?)
俺たちは道すがら、何気なくそんな話をしていた。この話を聞いて、顔色を変えた者がいるなんて気づきもせずに。
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