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12 これは大事件だよ、ウィンくん

 ハンスに案内され、表通りを歩きながら俺は今回の一件がどういうことなのか、自分なりに考えていた。


 ハンスの説明では、ハンス、トビー、ランドの三人はいつも一緒にいる仲良しグループらしい。その中でも、トビーはやんちゃな性格で、三人のリーダー格だそうだ。

 肝試しも彼が提案したことで、親に叱られることよりも、楽しいことがあればそれを優先する性格。そんな簡単に、大人しくなるような男の子ではないようだ。


 それらの情報も加味して考えると……まずはハンスにはかわいそうだが、彼の勘違いというパターンだ。

 彼が言う通りトビーが大人しくなったとしても、廃墟の件とは関係ないところでの心変わりだったりするかもしれない。


 次に、廃屋に住みついたこそ泥かなんかをたまたま見つけてしまって、黙っていろと脅されたパターンだ。

 やんちゃと言ってもまだ子供だ。犯罪者から脅されたら、落ち込みもする。そしてその時の恐怖から落ち込んでいたのを、ハンスが性格の変化として気が付いた可能性もある。

 これだとしたら、ちょっとした事件だ。


 最後に思いついたのは、廃屋に住みついたのが人間ではなく、モンスターだった可能性。

 その場合は何をされたのかは見当もつかないが、このパターンは限りなく可能性が低いと思えた。

 もしモンスターが住みついていたなら、ハンスたちも無事には帰れなかっただろう。


 三人とも無事に帰ってきたことから、事件性は低そうに思えるが、さて……


「あ、先生!」


 ハンスの元気な声が、思考の渦に落ち込んでいた俺の意識を呼び戻した。


「おや、ハンス君」


 ハンスが手を振る先には、優しそうだが少し気の弱そうなめがねの男が立っていた。


「ロイド先生。僕たちが怪我したり熱出したりすると、診てくれるんです」

「ハンス君は小さいころはよく熱を出していましたからね……」


 ロイドという医者は、何かを思い出すようにハンスを見つめる。

 メガネの奥の線のような目からは、気が弱そうという以上の人物像は窺えなかった。


「ちょっと頼りなさそうに見えるけど、腕はいいんですよ。ぼくだけじゃなくて、近所の人達はみんな先生のお世話になってるんだから」

「ははは。ありがとうございます」


 ロイドは恥ずかしそうにぼさぼさ頭を掻いた。


「ところでハンス君、この方たちは?」


 年の離れた俺たちと歩いているのが気になったのだろう。ロイドは俺たちを見てきた。


「冒険者のミスラさんとウィンさん。ぼくの依頼を受けてくれたんだ」


 受けると決まったわけではないけど、あえて否定することもないだろう。


「冒険者の方が?」

「はい。トビーのことを調べてもらってるんです」

「トビー、君の……?」

「トビー、肝試し以来ちょっとおかしい気がして」

「それで、ほんとに依頼を?」


 ロイドが俺たちを見る。


「それは、トビーに会ってから決めようと思ってます」

「そうですか。あまり、冒険者の人に迷惑かけてはいけませんよ」

「えー、先生までそういうこと言うんですか」


 ハンスはすねたように唇を尖らせた。


「では私は仕事に戻りますので」

「はい、先生」


 ロイドは俺たちに会釈をすると、俺たちとは反対方向へと歩いて行った。


「先生にもトビーのこと相談したんですよ。トビーも先生に診てもらっているので」

「へえ。それで、先生はなんて言ってたの?」

「心のことはよくわからないって」


 つまり、ロイドも俺たちの見解と変わらないと言うことだ。

 やっぱり、まずはトビー本人に会ってみないとだな。


 それからさらに通りを歩き、一本路地へと入る。そこからすぐにハンスは足を止めた。


「もうすぐトビーの家なんだですが、あれ……トビーだ」


 ハンスの指さす先に、子供の後ろ姿が見える。

 買い物帰りなのか、袋を抱えていた。


「トビー。どうしたの、こんなところで」

「……ハンスか。俺は母さんに頼まれて買い物だよ」


 振り向いた少年は黒いツンツン髪で、見た目だけならハンスとは対照的に活発そうな印象を受けた。


「そうなんだ。めんどくさいね」

「そんなこともないよ。買い物ぐらい」


 トビーは文句も言わずに親の手伝いとかするような奴じゃないんだと、こっそりハンスが俺たちに教える。

 めんどくさいと言ったのは、ハンスなりのかまかけであったようだ。


 だが、この程度の心変わりはよくあることだろう。ギルドの親父が言っていたように、母親にこっぴどく叱られたという線もある。

 お手伝いの文句を言わないのは、逆に良い変化じゃないかとすら思ってしまった。


「もういいかな? 俺、早く帰んなきゃ」

「いや、ぼくたちトビーに用があってさ」


 そう言われて、トビーはちらりと俺たちの方を見た。


「そうなの? 早くしてくれよ」

「あ、うん……」


 このハンスという子は、俺たちの存在にあまり興味を示していないようだ。友人が年上の人間と歩いていたら、さっきのロイドのように気になると思うのだが。

 大人しいと言うより、感情が乏しくなっているようにすら思える。

 それはハンスも感じ取ったようで、次になんと言っていいのか言葉が見つからないでいる。


 もしかしたら本当に、彼は何かしらの事件に巻き込まれている可能性も出てきた。俺はハンスたちに気付かれないように、トビーのステータスを開いてみた。

 人物紹介を見れば、ハンスの変化について何かが分かるかもしれない。


 それに気が付いたミスラも、そっと覗きこんでくる。


 バルトアンデルス

 種族:魔法生物

 性別: ‐

 年齢: ‐

 身長:変化可能

 体重:変化可能

 スリーサイズ:変化可能


 バルトアンデルス?

 魔法生物?

 誰?


「これは大事件だよ、ウィンくん」

「ああ、思った以上に大事件だ」

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