11 それが俺たちの目指すアステルなのだから
俺がミスラのアステルに入ってから一週間以上が経った。
その間、スキルもゆっくりと見返し、様々な合体スキルも会得できた。
おかげで、初級スキルしか習得していなかった俺の戦力が、だいぶ向上した。
ミスラが習得しているスキルにも合体できると解説されている物があったが、なぜかミスラはスキル合体をすることができなかった。
スキル合体ができると言う情報を聞いただけでは、習得条件を満たさないようだ。
俺だけがスキル合体をできたのは、ステータスオープンと言うスキルを介して、魔力でスキル合体を理解をしたからじゃないか、とミスラは予測している。
難しいことはよくわからないし、ミスラの予測が当たっているかもわからない。ただ一つ言えることは、今のところスキル合体は俺だけが使える技術だと言うことだ。
しかし、せっかくアステルとして活動しているのに、今のところ一件も仕事がこなせていない。
原因としては、俺たちのアステルが人助けを優先していることにある。
ギルドで門前払いをされたり依頼をするお金が無く、なおかつ冒険者に解決できる問題を抱えている依頼人を見つけなければいけないのだ。
まあ、そんな人間がそう簡単に見つかるわけもない。
キメラ亜種から手に入れた素材類を売りさばいてまとまった金は手に入ったので、すぐにお金が必要になると言うこともない。
俺たちを必要とする人を、ゆっくり探せばいい。
「どうだった?」
食堂で昼飯を食べながら、ミスラが聞いてくる。
「成果なしだね。そっちは?」
「こっちもそれらしい話は聞かなかったなあ」
ミスラは皿の上の肉団子をフォークで転がす。
「今のところお金に困っては無いけどさ、アステルとしてやることがないのは由々しき問題だよ」
「だよなあ」
俺はすでに空になった皿を見つめる。
「午後も依頼人探し、頑張ろ」
結局、昨日までと同じ結論に至り、ミスラは最後の肉団子を頬張った。
「そうだ、久しぶりにギルドの方にも顔出してみるか」
キメラ退治の後、この町に戻ってきた日に冒険者ギルドに顔を出したきり、俺たちはギルドに立ちいっていなかった。
ギルドには、依頼だけでなく噂や情報なんかも集まってくる。困ってる人の話も聞けるかもしれない。
「そうだね。やらないよりは、なんでもやってみる。行ってみよう」
ミスラは人差し指をびしっとさしながら、ギルドへと歩きだした。
「ねえ、お願いしますよ。絶対におかしいんですって」
ギルドの入り口までつくと、中から騒がしい声が聞こえてきた。
「だから、お前の言うことだけで仕事受けられるわけないだろ」
中に入ってみると、十一、二歳ぐらいだろうか、男の子がギルドの受付の親父と揉めている。
茶色のさらさら髪の、利発そうな子だ。
「何かあったんですか?」
「ん? なんだ、お前たちか」
受付の親父があからさまに見下した目で俺たちを見る。ギルドの職員は、中立であるべきだろう。
俺たちがギルドに寄り付かないのは、こう言う態度を取られるからというのも一因だ。
「いやなあ、こいつが仕事受けろってうるせえんだよ」
「依頼料だってちゃんと払うって言ってるじゃないですか」
「依頼料って、銅貨五枚じゃねえか」
「それはそうですけど、お金で判断しないでください」
銅五貨枚と言えば、これぐらいの町に住む子供たちのふた月のお小遣いがそれぐらいだ。大人が仕事でもらうには、確かに少ない。
だが、子供相手だからってろくにに話を聞いてあげないのも、大人げないだろう。
ミスラも親父の態度にむっとしている。
しかしこれは俺たちアステルにとってチャンスだ。
こう言う子供の依頼にもきちんと耳を貸す。それが俺たちの目指すアステルなのだから。
「どうかな、君。どんな仕事なのか、私たちに話してくれないかな」
「お姉さんたち、ぼくの仕事受けてくれるんですか?」
「はは、そりゃいい。お前たち最下位アステルにはちょうど良い仕事だろ」
親父が馬鹿にした笑いを投げかけてくる。
だから、中立であるべきギルドの職員が、そうあからさまな態度を取るのはどうかと思うぞ。本当に。
「最下位?」
「いや、まあ、あはは、ランキングがね、ちょっと……」
「あへへ……」
俺もミスラも一緒に苦笑いをする。
「まあよくわかんないけど、ぼくの仕事受けてくれるんですね」
「まずは話を聞いてからかな。どんな依頼か分からないと、受けようがないからね」
「それじゃあ、あっちで私たちに何があったのか話してくれるかな」
そう言ってミスラは、ギルド内のテーブルに子供を案内した。
「まずは……そうだ、君の名前から教えてくれるかな」
「ぼくはハンス」
「ハンスくんだね。私はミスラ、よろしくね」
「俺はウィン。よろしく。じゃあハンス、何があったか話してくれ」
「はい。これは、そうですね……六日前にあったことなんですが」
そう言ってハンスは、その日あったことを話し始めた。
「町の外れにもうずっと誰も住んでない屋敷があるんです」
確かに、ぼろぼろになった大きい屋敷があるのは知っている。
「あそこって、昔から幽霊が出るって噂があったんですが、最近、本当に幽霊を見たって人が現れたんです」
「幽霊を見たって人は誰なの?」
「それなんですが、ぼくは直接知らないんです。ぼくの友達でトビーって子がいて、その子の知り合いの知り合いが見たって言ってたんだって」
友達の知り合いの知り合い、か。急に話の信憑性が薄れてきたな。
「はは、やっぱりあてにならない話だったな」
ちゃっかり話を聞いていた親父が、カウンターから嫌味を言う。俺もそう思ってしまったが、わざわざ言うことはないだろ。
大人しそうなハンスもむっとした表情は浮かべたが、かまわず続きを話した。
「それでトビーが幽霊を見てやろうと言いだして、ぼくとトビーとあともう一人、ランドって友達と三人で、夜こっそり家を抜け出して肝試しに行ったんです」
「肝試し。楽しそうだね、ウィンくん!」
ミスラが妙なところに食いつく。
だがまあ、こういう話は結局作り話か、そうじゃなくても浮浪者やこそ泥が住みついたのを見間違えたってパターンが多い。
あまりロマンのある結末になりそうな気がしない。
「屋敷の中は広いし暗いしでぼくは怖かったんですけど、トビーは全然怖がらずにどんどん先に行ってしまって。でも……」
「でも?」
ミスラが身を乗り出す。親父が聞き耳を立てているのもわかる。
「いつの間にか、先に行ってたはずのトビーがいなくなってしまって」
「え? それは事件じゃないか」
子供の行方不明事件は、役所もすぐに動くレベルだ。これは、ギルドもお金云々とか言ってる場合じゃない。
「でも、慌てて探してたらひょっこり現れて。ぼくもランドも、トビーを探すので疲れてしまって、その日はもう家に帰ったんです」
「……それで、何が事件なの?」
少し肩透かしを食らったミスラが、不思議そうに尋ねる。
「それから、トビーの様子がおかしいんです」
「おかしい?」
「はい。ぼくたちとはぐれた時どこに行ってたかって聞いても、はっきり答えないし」
「他には?」
「明らかに、あの日以来大人しくなった気がするんです。それに、ぼくたちと前にやったことを忘れてたり……きっと幽霊になにかされたんですよ」
「幽霊だと? ほらみろ、そんなことぐらいで冒険者が依頼受けるはずないだろ」
勝手に聞き耳を立てていた親父が、時間の無駄だと言わんばかりに手を振った。
「大方、母ちゃんにでも叱られてしおらしくしてんだろ? そのうち元に戻るさ」
親父の言ってる通りの可能性も、確かにある。
「ウィンくん。早速トビーくんの所に行ってみようよ!」
だが、ミスラは興味津々だ。好奇心旺盛なのはさすがミスラと言ったところか。
親父の言ってる通りの可能性もある、が、何もしないでハンスの依頼を断るつもりはない。調べてみて、この子の勘違いだったらそれでいいじゃないか。
俺たちは、ハンスにトビーの所へ案内してもらうように頼んだ。
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