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10 「え?」「え?」「え?」「え?」

「あ、ごめん、ごめんね!」


 ミスラは慌てたように俺から離れた。


「ほんと、ごめんね」

「いや、いいよ」


 逆にうれしかったから。


「こういうところも、私が敬遠されちゃうところなんだよね」


 ミスラは自戒するようにぽつりと言った。


「そこを敬遠するかどうかは、人によってだと思うよ」

「そうかなぁ」

「そうそう」


 だって、俺はうれしかったからね。


「でも、ほんとにウィンはすごいよ。キメラの、しかも亜種モンスターを倒しちゃうなんて!」


 ミスラは手を叩いて喜ぶ。


「いや、俺一人じゃ勝てなかったし、すごいのはミスラの方だよ」

「私、結局なんにも役に立てなかったけどなあ」

「そんなことないよ。幻影のおかげで時間稼げたし、ミスラがアイデアくれなきゃスキルが合体できるなんてわからないままだったんだから」

「ほんとに?」

「ほんとほんと。それに、最後だって俺の前に出て、キメラの気を逸らしてくれたじゃない。ブレスが来るって分かってて、あんなこと誰でもできることじゃないよ」

「役に立てたなら、うれしいな……」


 ミスラは頬を染めて、少し照れた表情を浮かべる。

 気休めとかではなく、本当に助かった。今回の勝利は、間違いなくミスラと俺の二人の勝利だ。

 冒険者になってから、依頼をこなしてこんなに充実した気持ちになれたのは初めてだった。まあ、正式な依頼ではないけど、それでも、だ。


「そろそろ、村に戻ろうか。みんなに報告しないと、安心できないもんね」

「ああ、そうだな。村長さんもみんなも、喜ぶだろうな」


 俺とミスラは立ち上がった。


 村に戻ると、やはり村長のおじいさんは避難してなかった。それを見たミスラは、少し怒った表情を浮かべた。心配から来る感情だろう。

 俺とミスラを村の入り口で出迎えてくれた。何度も頭を下げるおじいさんに、ミスラもそれ以上怒れなくなってしまった。


 やがて山の方に避難していた村人たちも戻ってきて、村人全員で俺たちは歓迎された。


「いや、あなたたちこそが本当の冒険者なのでしょうなあ」


 おじいさんがしみじみと言う。

 そこまで大げさに言われると、恥ずかしい。


「いや、あんたたちはこの村を救ってくれた英雄だ」

「そうですよ。もっと胸を張ってください」


 村の人達も次々に俺たちを褒め称えた。

 キメラ亜種を倒すと言うのは確かに大仕事ではあるが、褒められ慣れていない俺にとってはむずがゆく感じる。

 ふと横を見ると、ミスラは困ったような照れたような、ちょっと複雑な表情を浮かべていた。きっと俺も、こんな顔をしてるんだろう。


 それから少しして日は沈み、今日は村に泊まっていってくれと言われた。

 俺たちも疲れていたので、その申し出はありがたく受け取った。




「昨日は凄い歓迎ぶりだったね」


 翌日、俺たちは山道を町へと向かって歩いていた。


「ああ、料理も食べきれないほど出してもらってなあ」

「お野菜もこんなにもらっちゃったから、しばらくは美味しいお野菜食べられるね」


 ミスラは俺が背負ってる大きな荷物を見る。

 村長のおじいさんからは依頼料を受け取ってほしいと頼まれたが、村のみんなから集めたなけなしのお金と聞いていたので受け取れなかった。

 幸い、キメラ亜種から剥ぎ取った素材があるので、それを売れば二人で分けても一か月以上は生活に困らないぐらいにはなる。

 じゃあそのかわりと言うことで、村で育てた野菜を大量にもらったと言うわけだ。


「あ!」


 山道も頂上に差し掛かったころ、ミスラが大きな声を上げた。


「うわ、ど、どうしたの?」

「ごめんね、ウィンくん」


 突然ミスラが頭を下げる。


「なにが?」


 俺には謝られるような心当たりがなくてさっぱりだった。


「今回のはギルドの正式な依頼じゃないから、アステルのランキングポイントも入らないし、ウィンくんの冒険者としての実績にならない……」


 ミスラは再び、本当にもしわけなさそうに頭を下げる。


「ああ、そんなことか。まあ、最初から実績とか気にしてなかったし、俺は構わないけど」

「ウィンくん……」

「それより、ミスラの方は良かったの? アステルがさ、ほら、ランキング上げないとみたいな」

「あー、確かに最下位だけど、それは別にいいかなあ。私はあの村のみんなが喜んでくれたから、それだけで十分だよ」


 ミスラの笑顔には、一片の嘘も無いだろう。ミスラのアステルこそ、俺が求めていたアステルだ。


「あ、でもでも、ウィンくんは最下位アステルなんて嫌だよ、ね?」


 ミスラが恐る恐る聞いてくる。その瞳は、不安でいっぱいだった。

 キメラと戦っている時でさえ、こんなに不安を前面に出していなかったというのに。


「ぜんぜん。俺としても、こんなアステルがいいなって思ってた。もしずっとソロ冒険者だったとしても、報酬とかポイントとかより人を助けることを優先できる、そんな風に生きられたらと思ってたよ」

「すごいな、ウィンくん」

「え?」

「私も、ウィンくんと全く同じこと考えてた。人助けのためのアステルを作りたいって」


 ミスラの言葉に、俺も笑顔で返す。


「それじゃあ、これからも私のアステルにいてくれる?」

「もちろん。俺の方からお願いしたいよ」

「えへへ、それじゃあ、改めて【みんななかよしほっこり団】にようこそ!」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」


 今ミスラ、何団って言った?


「どうしたのウィンくん?」

「いや、うん? ちょっとアステル名が」

「【みんななかよしほっこり団】? ちょっと長いかな?」


 いや、そこじゃない。

 というか、思いだした!

 不動の最下位アステルの名前。

 名前もひどいんで有名だった。

 そうかー、【みんななかよしほっこり団】かー。そうかー。


 アステル名は大体の場合マスターが決めて、一度決めた名前は変更がきかない。

 ザンギルのアステルは【月下の白刃団】。炎の神のアステルは【煌炎の鷹団】。氷の神のアステルは【絶氷の銀狼団】。自分の加護にちなんだ団名にする神が多いのだが。

 【みんななかよしほっこり団】……。


「ふふふ。【みんななかよしほっこり団】のウィンくんか。ふふ、ふふふ」

「はは、こちらこそよろしくね……」


 ご機嫌にミスラに、何度も俺の名前を呟くミスラに、俺は乾いた笑いで返すことしかできなかった。

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