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総合探偵社ラストピース  作者: 晴弥
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【一筋の涙】



【一筋の涙】




昨日までの調査で判明したことと、経緯を報告書にまとめる。


報告書を作成しながらも、事実を知った時の熊谷の気持ちを考えると胸が苦しい。


25年もの間、伝えられなかった想いを、勇気を出して伝えようと奮い立たせた矢先、その相手が他界していたんだから...。




仕事として考えると、恵の所在判明というミッションはクリアしているし、懸念していた熊谷がストーカーになってしまうのでは...ということは起こりえないこととなったが、想定外に、熊谷の心のケアが最後の仕事となった。




探偵の仕事は依頼者を救う為に事実をつきとめる仕事である反面、依頼者にとって残酷な事実が判明し、依頼者を苦しめてしまう仕事でもあることを改めて実感した。


だからこそ、依頼者の心に寄り添うアフターフォローも必要なんだと思う。




覚悟を決めて熊谷に電話をかける。




熊谷 「もしもし。」


ハルヤ「お世話になっております。ラストピースです。実は、色々判明して、昨日調査終了しました。電話でお伝えするようなことではないので、お会いできますか?」


熊谷 「わかりました。では、そちらに行きます。」




大金を遣い調査を依頼しているんだから、調査の進展に期待するのが普通だが、以前電話した時と変わらないテンションだ。


仕事柄、人の心理状態を読み取るのには長けているはずだが、熊谷の考えていることは読み取れない。




まもなくして、熊谷がやって来た。




「どうぞ。」




面談室に通す。





ハルヤ「早速ですが、熊谷さん...。お伝えし難いんですが...  


    調査の結果、恵さん、...残念なことに15年前に亡くなっていました。」


熊谷 「..........。」




熊谷の顔色は変わらず、反応がない。


続けて調査結果をまとめた調査報告書を熊谷に渡し、判明事項を順を追って説明していく。





ハルヤ「まず、当時住んでいた家は、別の人が入居していて、海野家は引っ越してました。

特殊ルートで調べたところ、恵さんが亡くなったという情報を入手しました。

ご近所に聴き込み調査を実施して、海野家の引っ越し先とお母様の連絡先が判明し、お墓の所在もわかりました。」


熊谷 「はい......。」


ハルヤ「ここからは仕事としてではありませんが、一緒にお墓参りに行きませんか?」


熊谷 「.....一緒に行ってくれるんですか?」


ハルヤ「昨日、手ぶらで墓前に立ってしまったので。」


熊谷 「では、お願いします。」





助手席に熊谷を乗せ、霊園に向けて車を走らせる。


途中、生花と線香を購入する。


走行中も熊谷は全く口を開くことはなく、ただじっと前を向いていた。




ハルヤ「こちらです。」




霊園に着き墓前に熊谷を連れて行く。


海野家の墓前に立ち、花と線香を供え、無関係の私が嗅ぎ回ってしまったことの失礼を詫びる気持ちも込めて手を合わせた。




ふと目を開けると、熊谷も隣で目を瞑り手を合わせている。


そして熊谷の頬を一筋の涙がこぼれ落ちた。


ずっと伝えたかった自分の気持ちを伝えているのであろうと思い、静かに距離をとる。




熊谷の流した一筋の涙はそれまで全くわからなかった熊谷の本心が垣間見れた気がした。


帰り道、初めて熊谷から話しかけてきた。




熊谷 「あの、すみません。お母さんの家に恵さんの仏壇とかあるなら、そちらにも手を合わせたいんですが...。」


ハルヤ「それじゃあ、海野さんの連絡先を教えましょうか?」


熊谷 「いや.....私みたいな奴が連絡したら断られてしまうと思うのでハルヤさんから連絡してもらえませんか?それと、行く時も一緒に同行してもらいたいのですが...。」




正直、全く面識のない人の家に行って仏壇に手を合わせるのってどうなんだろう?と思いつつも、熊谷が言うように熊谷ひとりで行かせるのも確かに少し不安があるので引き受けることにした。




ハルヤ「わかりました。では、海野さんのアポを取って同行させてもらいます。それが終わったら、今回ご依頼頂いた調査を終了とさせてもらっていいですか?」


熊谷 「はい。お願いします。」




山口に聞いた恵の母に電話してみる。




恵 母「はい海野です。」


ハルヤ「先日、山口さんに連絡先を教えて頂いた者なんですが、今、恵さんのお墓に行かせていただきました。恵さんの同級生の熊谷さんと一緒なんですが、もし宜しければお仏壇にお線香あげさせて頂けないでしょうか?」


恵 母「ありがとうございます。恵もきっと喜ぶと思いますので是非来てやってください。場所わかります?」


ハルヤ「先日教えて頂きましたので、そちらに向かわせてもらいます。」




恵の母はすんなりと了承してくれた。


隣で聞いていた熊谷は、いつも通りただ黙って前を向いている。




ハルヤ「熊谷さん、お供え物買ってそのまま向かいましょう。」


熊谷 「はい。」




海野邸に到着しインターフォンを鳴らすと、恵の母が出迎えてくれ、仏壇のある部屋に通してくれた。


飾られた写真...まだ幼さの残る可愛らしい恵の写真...。




恵 母「20歳の時に白血病になって、免疫力が下がった時に肺炎をこじらせちゃってね。」


熊谷 「.....。」


ハルヤ「つい先日、お亡くなりになったことを友達経由で知りまして、どうしてもご挨拶したくて...探るようなまねしてすみません。」


恵 母「いえいえ、恵もきっと喜んでいると思いますので。」




沈黙を続ける熊谷にこそっと尋ねる。


ハルヤ「熊谷さん、聞いておきたいことないですか?」


熊谷 「大丈夫です。」




熊谷の考えていることは本当によくわからないが、それとなくすっきりした顔をしている気がする。


海野邸を出て、車まで行くと熊谷が話しかける。





熊谷 「ありがとうございました。死んだ理由も知れたし、直前の姿も写真で見れたので行って良かったです。」


ハルヤ「非常に残念な調査結果だけに、熊谷さんの気持ちが少しでも晴れてくれたなら、私も救われます。」


熊谷 「では、私はここで失礼します。」


ハルヤ「送りましょうか?」


熊谷 「大丈夫です。では。」





それ以来、熊谷から連絡がくることはなかった。


こうしてラストピース最初の仕事は無事にやり遂げた形になったのだが、素直に喜べない複雑な心境で幕が閉じた。



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