【契約と誓約】
【契約と誓約】
事務所のチャイムが鳴り、扉が開く。
「こんにちは...」
ジーパンにしわしわのシャツを着た、眼鏡で小太りの男性が入ってきた。
想像通りの人物だ。
「ハルヤです。こちらへどうぞ。」
名刺を渡し、面談室へ案内する。
熊谷が来社するまでの2時間で考えられる調査方法と、調査費用を何パターンか用意した。
素行調査などの調査の場合、日数や時間で調査契約をするが、人探しとなるとそうもいかない。
予算に上限がなく、いくらかかっても見つけ出して欲しいと言われれば、見つけ出す自信はある。
それも伝えた上で、私から提案する。
「まず熊谷さんに予算の上限を決めて頂きたい。正直、予算次第では見つけ出せない場合もありますが、その場合でも諦めがつく金額で設定してください。調査方法は聞き込み調査中心になると思いますが、予算に応じて調査内容と調査日数を提示します。」
熊谷の表情はあまり変わることなく、しばらく考え込む。
2分ほど沈黙が続いたが、ようやく口を開いた。
「50万で。」
正直、驚いた。人探し調査の金額としてはそれほど大きい金額ではないが、
探している理由と、見つけ出せない可能性もあることを承知した上で出した金額からすると50万は大金だ。
熊谷の熱意が伝わる。......と同時に他に探し出したい本当の理由があるのか...?という疑念も感じさせた。
調査費用を50万に設定し、可能な調査日数は7日間。
通常、調査報告は写真付きの時系列で事細かに記載した報告書を渡すのだが、恵の居場所を特定できた場合、
恵の同意なしで伝えてしまうのは不安がある。
そこで今回の調査を引き受けるにあたって、3つの条件を付けることに同意してもらう。
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1. 恵を見つけ出した際、所在を伝えるのではなく、今回の件に関し私から恵に経緯を伝える。
2. 公共の場で私を含めた3人で接触し、想いの旨を伝えられるよう交渉する。
3. 恵から拒否された場合、彼女の所在に関する情報は一切報告しないものとする。
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あたかも自分が問題を起こすことが想定された上での条件で、50万を支払う熊谷からすれば腹立たしいだろう。
そう思っていたが、熊谷はあっさり承諾した。
調査内容と調査費用も決まり、調査に関する制約も決まったところで、用意した契約書と誓約書にサイン捺印してもらう。
契約成立だ。
熊谷に対し疑念を抱いた罪悪感と、熊谷に不利な条件を付けている以上、7日間全力で恵捜索にあたり、必ず見つけ出して
交渉を成立させてみせる。
かなり力が入る...。なにせ総合探偵社ラストピースとしての初仕事だ。