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お父さんのロケット  作者: 水沢ながる
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2 お父さんの心残り

 お父さんが倒れたという知らせを聞いたのは、それから一週間後のことだった。肝臓がんからあちこちに転移していて、手のつけられない状況だった。

 すぐにでも駆けつけたかったが、コロナの感染予防の為、病院での見舞いは制限されている。病室に入れるのはお母さんだけだ。

 お父さんを失うかも知れない。それはお父さんの認知症が出始めた時、薄々でも覚悟していたことではあった。けど、それがリアルなこととして目の前に現れて、さすがのわたしも動揺していた。

 何かしなくちゃ。今のうちに。……でも、何を?

 そこで思い出したのが、一週間前にお父さんから聞いた、あの言葉だった。


 ──ロケット。

 ──返さないと。

 ──俺が悪いんだ。


 これは、お父さんの最後の心残りになるのかも知れない。なら、わたしが代わりにその心残りを解消してあげられないだろうか。

 わたしは、お父さんのこの言葉を調べてみようと決意した。……それがお父さんの死から、ほんの少し目をそらす行為であると、心の隅で理解しながら。


 まず、手近なところから始めてみよう。わたしはオンライン授業を終え、ゲームをしている翔太に声をかけた。

「ねえ、翔太。あんた去年、おじいちゃんにロケット作ってもらってたよね?」

「夏休みの自由研究のペットボトルロケット? うん、じいちゃんに手伝ってもらったよ。それがどうかした?」

 手伝ってというか、大半を作ってもらっていたような気がするが、それは今は言うまい。

「その時、何か変わったことってなかった? 例えば、何か貸したとか、渡したとか」

 翔太はうーんと首をかしげ、それから答えた。

「そういえば、ロケットを試しに飛ばしてみた時、失敗して壊れちゃったんだよね。その時、じいちゃんが『もう一回研究してみる』って言って、壊れたロケットを持って帰ってた」

「そ、それでそのロケットは?」

「ちゃんと直して返してくれたよ。……ちょっと待ってて」

 翔太はバタバタと自分の部屋に駆け込むと、ペットボトルロケットを持って来た。

「ほら、これ。じいちゃん、エンジニア魂がたぎったのかもね」

 まだ認知症が軽かった頃のお父さんが作った立派なロケットは、堂々と孫の手の中に納まっていた。

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