#6 小学生オーディション⑤
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子どもたちが部屋を出たあと、スタッフから今後の予定の確認があった。
今回の審査では候補者を4人にしぼり、2週間後に最終審査を行うとのことだった。そこでは仮台本の一部を渡し、演技力などを重点に見るらしい。
「次回のオーディションですが、紺屋先生はご出席されますか?」
「いや、私は」
「出席します!出ますよね。ね?先生?」
「う・・・」
俺が返事をする前に、橘くんが割って入った。
結局、橘くんの掴みかからんばかりの勢いに負け、俺は次回オーディションにも審査員として参加することになった。もちろんキャスティングには口を出さない、ゲスト審査員という立ち位置のままだが。正直なところ誰が合格しようと興味はなかったので、ちょうど良かった。
◇
「いやー、なんか緊張した。でも先生のおかげで、いっぱい美少女を見ることができました!眼福眼福!ありがとうございます」
橘くんは肩をぐりぐりと回し、大きく伸びをした。女性の年齢に関する好みの是非はともかくとして、自分の感情を忌憚なく表現できるのは彼の良いところではある。
「それは良かった」
「次回の決勝戦も楽しみだ!・・・ところで先生。最後に質問をしていましたね」
「ああ」
「あの女の子、何か気になりましたか?」
「いや・・・ただ、何となく」
俺は適当にお茶を濁した。他の子どもたちと違うものを感じたのは事実だが、それを他人に説明するのは面倒くさかった。
すると橘くんは、ただでさえ細い目をさらに細くして、銀ぶちフレーム越しにこちらをじいっと見つめた。
「先生、本当に知らないんですか?あの子、有名な子ですよ。この経歴、見てください」
橘くんが示したのは、参加者のプロフィールが載っているオーディション資料だった。
「このドラマ。結構評判になりましたよ。名前聞いたことがないですか?」
「や、何となくは記憶にはあるんだが・・・」
「ここに「準主役」と書いてあるでしょう?この子、後藤里琴ちゃんは娘役だったんですよ。つまり、ドラマで一番重要な役。そういう意味では準主役どころか、主役ですね。懐かしいなあ。当時は実況スレがいくつも立って・・・お風呂シーンがあったときはお祭り騒ぎだったなあ。探せば画像ありますよ。あげましょうか?」
「要らない。じゃあ、この子は、今も有名な子役なのかい」
「うーん・・・どうかな」
と、橘くんは唸った。
「あのドラマのあとは、ほとんど見なかった気がする」
改めて資料の経歴欄を指で示す。
「ほら、やっぱりドラマのあとは出演経歴がほとんど、いや、全くないですよ」
「それはつまり・・・オーディションで落ち続けているから、ということ?」
「わかりませんねえ。ドラマの準主役まで上り詰めた子がオーディションに落ちまくるなんて、普通はありえないんですが」
橘くんは首を捻るばかりだった。
「あ。そういえば、所属事務所欄が空欄になってますね」
「事務所・・・」
「ドラマの当時は、どこか事務所に入っていた気がします。事務所だか児童劇団だかの広告に名前が載っていた記憶もあるし。それに」
「それに?」
「あまりはっきり覚えていないですが、名前も違ったような気がします」
「芸名を変えたということ?」
橘くんはまた首を捻る。
「下の名前は里琴だった気もしますが・・・。事務所のトラブルか何かで芸名変更を余儀なくされたのかもしれませんね」
「ふーん・・・」
「ま!いいじゃないですか!そんな大物がオーディションに来てくれたということは、このドラマの先行きは明るいということですよ!はっはっは!」
橘くんは豪快に笑い飛ばしたが、俺は里琴が先ほどのオーディションで発した「どん底」という言葉が引っかかっていた。ドラマ出演の経歴が途絶えたことと、「今がどん底」は妙にリンクしているように思えた。




