#53
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「ちょ・・・」
俺はたたらを踏んで教室に足を踏み入れた。なんとか転ばずに済んで顔をあげると、タータンチェックのスカートをつけた女の子と目が合った。最近流行りの、ピンクをベースにしたものだ。たしか韓流のアイドルが着けているとかの。きっと流行に敏感な娘なのだろう。
では、トップスはどうかというと、俺はこれを描写する術を持たない。
なぜなら、その娘は何も着けていなかったから。そう、いわゆるトップレスだったのである。いかんと目を逸らすと、そちらにも半裸状態の娘がいる。
「キャー!!」
女の子の絶叫が合図だった。堰を切ったように教室のあちこちから金切り声があがった。ある娘はシャツで胸を抑え、ある娘はすでに体操着に着替えていて、筆箱か何かをこちらに向けて投げつけてきたり。
つまり、この教室では1時間目の体育に向けてまさに着替え中だったのだ。おそらく男女別に着替え時間を設けており、さきほど廊下を歩いていた男子たちは先に着替えを終えた組だったのだろう。
そんなことを考察できたのは、全てが終わったあとだった。このときの俺は、つぎつぎに飛んでくる消しゴムや教科書を片手でよけ、もう片方の手で自分の目を覆い、教室の外に出るのが精一杯だったのだから。
廊下に出ても、事件が終わったわけではない。隣の教室からは、騒ぎを聞きつけた子どもたちが何事かと窓から顔を覗かせている。さらに悪いことに、おそらく教師と思われる男性も廊下に出てくるところだった。男性教諭は俺を見て目を見開いた。
「誰だ!何をしている」
「や、その・・・」
逃げるか?
いや、逃げてはますます状況が悪化するだろう。そもそも逃げ隠れする必要はないのだ。俺は娘の体操服を届けにきただけで、運悪く女子たちが着替え中の教室に入ってしまったのだ。そう正直に話せばいい。それに、証拠がないわけではない。俺が邪心なく教室に入ってしまったことは、あの女の子が証明してくれるはずなのだから。
「怪しいものではありません。実は・・・」
俺は覚悟を決めて男性教諭に向き直った。と、男性教諭の腕を引っ張っている子がいることに俺は気づいた。
さっきの、俺を校庭からここまで誘導してくれた女の子ではないか。俺は胸を撫で下ろした。こちらから説明する必要もなくなるかもしれない。
だが、それは甘い考えだった。
女の子は男性教諭の腕にしがみつくようにして、こちらを指差した。
「ねえ先生、あの人ね」
「うん?」
「さっき、校門のとこで私に聞いてきたの」
「何て?」
「「女子が着替えをしている教室はどこだ」って」
男性教諭の目が釣り上がった。
「で、外から着替えをノゾキしてて、私が後ろからタックルしてやったの。ねえ先生、早くアイツを捕まえて!」
男性教諭が何か叫びながらこちらに向けてダッシュをしてきて、俺は腰のあたりを掴まれた。
「違う、違うんです」
「誰が逃がすか!」
「誤解です、誤解」
抵抗むなしく、男性教諭は俺を壁に押し付けぎゅうぎゅう締め付ける。さっきまで着替えていた女子たちもわらわらと廊下に溢れ、男性教諭に声援を送っている。
もはやここまでか。俺の頭に三面記事の見出しが浮かんだところで、救世主が現れた。
「お父さん・・・?」




