表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/56

#53

「ああ、そうだよ。後藤里琴。知っているの?」

「うん・・・友達だよ!」

「そ、そうか。それは良かった!」


 女の子の笑顔に、俺はほっと息をついた。里琴には友だちが少ないと勝手に思い込んでいたが、なんだ、素敵なお召し物を着ている友達がいるんじゃないか。


「もしかして、体操着を届けにきたの?」

「そうなんだよ。1時間目が体育だというのに、忘れてしまって」

「ふーん」


 女の子はちょっと俯いた。うん?と思ったのは、その唇の端が少し釣り上がったような気がしたからだ。だが、それは気のせいだったかもしれない。女の子はすぐに顔をあげ、満面の笑みを浮かべていた。


「優しいんだね!いいお父さんだ!」

「ま、まあね・・・」

「それ、教室まで届けてあげるんでしょう?教室まで案内してあげる」


 女の子は勝手知ったるという感じで、つかつかと校舎に向かって歩を進めた。俺は早足で並び「ちょっと待ってくれ」と呼び止めた。


「なに?早く届けないと間に合わないよ」

「俺が行くと、変じゃないか?誰か、先生に託したほうが」


 忘れ物を親が届けにきただけでも恥ずかしいのに、父親(と思われる男)が現れたら。きっと、里琴はクラスメイトたちの好奇の視線にさらされてしまうだろう。それだけは回避しなければならない。


 だが、女の子は足を止めなかった。それどころか、駆け足になった。


「ダメダメ。だいたい先生に渡してたら間に合わないよ!もう授業始まりそうなんだよ」

「じゃあ、君が届けてくれればいい」

「ダメ」

「どうして」


 俺と女の子はそのうちに校舎に入っていた。女の子はさっさと上履きに履き替え、階段を上がっていく。


「そういうのはお父さんが届けないと」

「里琴が恥ずかしがるだろ」

「・・・」


 女の子は踊り場で一瞬足を止め、俺の顔を見上げた。急に止まったので、ランドセルにぶつかりそうになる。


「ふーん」

「え」

「里琴ちゃんが大事?」

「・・・そりゃ、まあ」

「ふーん」


 女の子は俺の顔を値踏みするようにじっと見た。と思うとくるりと正面を向き、リズム良く階段を駆け上がっていった。慌てて追いかける。


 階段を上りきると、女の子は軽やかに廊下を駆けていく。何人か、体操服を着た男の子たちとすれ違った。もしかしたら、里琴のクラスの生徒かもしれない。


 女の子は、廊下の一番奥に位置する教室の前で立ち止まった。


「ここだよ」


 プレートを見上げると、たしかに4−2と書いてある。ただ、横に開く式の扉はぴったりと閉ざされており、まるで現世と異界を分けるかのように俺を威圧していた。俺の出番はここまでにして、あとはこの女の子に託せば――


「さあ、入って!」

「ちょっ、え!?」


 尻込みする俺に容赦せず、女の子は扉を開け、勢いよく俺の背中を突いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ