表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/56

#51

 学校までの道のりは頭に入っていた。この前の変態騒動のおかげだ。あの時、俺は通学路を覚えたのだ。まったく人生なにが役に立つか分からない。


 体操着袋だけを持ち、俺は走った。すれ違う大人たちが目を向けてきた。小学生は誰も歩いていない。当たり前だ。この時間にまだ通学路にいるということは、それ即ち遅刻なのだから。俺はその事実を悟り、できうる限り足の回転を早めた。


 家から学校へ行くまでは、路地のような細道も多い。なにもバカ正直に通学路を走る理由はない。大人の知恵を使えばいいのだ。俺は絶対に通学路とは指定されないような薄暗い細道を走り抜け、やや大きめの通りに出ようとした。ここまで来れば、学校まであとほんの少しだ。


「!!」


 突然ブレーキ音が響いた。俺は尻もちをついた。目の前には黒塗りの車が止まっていた。車は左から来ていたようだ。まったく気がついていなかった。すんでのところで轢かれるのを免れた。


 運転席のドアが開き、慌ただしく男が降りてきた。白い手袋をしているということは、おそらく運転手なのだろう。かわいそうなぐらいに狼狽している。


「申し訳ございません。お怪我は・・・」

「いや。ちょっとびっくりして、尻もちをついただけで」

「病院などは」

「それには及びません」


 俺は立ち上がって砂ぼこりを払った。車に接触しなかったのは幸いだった。なにせ俺には、この体操着を届けるというミッションがあるのだから。警察を呼んだり、病院に行っていたりでは到底間に合わない。俺は体操着袋を身体に押しつけるように握り直した。


「なにかあれば、ご連絡を」


 運転手は名刺を差し出していた。こういうことをしておかなければ、後々かえって面倒なこともあるのだろう。俺は受け取りを丁重に辞退した。


「本当に大丈夫です。運転手さんもお気をつけて」


 去り際に後部座席に目をやった。ガラスにはスモークが貼られており、どんな人物が乗っているのかは分からない。きっと大企業のお偉いさんがふんぞり返っているのだろう。運転手と俺のやり取りなど、気にもしていないに違いない。


(・・・ん?)


 窓ガラス越しに、ちらりと赤いものが見えたような気がした。ネクタイだろうか。いや、もっと大きいもののようだった。


(あのぐらいの大きさ・・・赤・・・どこかで見たような・・・)


 ふたたび走り出しながら俺はしばらく考えたが、結局モヤモヤしたまま分からずじまいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ