#5 小学生オーディション④
「4番の後藤さんに、質問です」
「はい!」
里琴は背筋を伸ばし、すこし目を見開いた。質問をされなかった他の3人は、どこかほっとしたような表情を浮かべていた。
「さきほど後藤さんは、お金が大事だと言っていましたが、お金よりも大事なものはありますか」
「お金よりも大事なもの・・・」
里琴は少しだけ目線を下げて考えるような表情をしたが、すぐにこちらに目を戻した。
「信じることです」
「・・・信じること、ですか」
「はい」
俺は失望を覚えた。絆が大事だとか、友達、家族が大事。「信じること」というのも、そんなありふれたテンプレ回答と同じではないか。他の子とは違うオーラを感じていたが、所詮は小学生。マスコミ等で垂れ流される言葉を、よく分からずに口に出しているのだろう。
この手合は、具体例を求めると黙り込むことが多い。俺は意地悪な気持ちで質問を続けた。
「たとえば、どんなことですか」
「そうですね・・・」
里琴の目に、一瞬暗い光が宿ったように見えた。
「今がどんなにどん底でも、明日はきっと良くなっている。そう信じることかなって。そう思います」
「どん底・・・」
審査員の間に、何ともいえない空気が漂った。
「後藤さんにも、どん底な時期があったんですか」
「今です」
「・・・」
「今がどん底です。でも」
里琴は言葉を切ってスタッフを見回した。そして、いたずらっぽい笑顔を浮かべると、高らかに宣言した。
「私は今日のオーディションに合格して、どん底を抜けて、きっと良い明日が来る。そう信じています!」




