#45 変態の正体②
「ただ、すぐに「しまった」という顔になって。そのあと、新しいお父さんのことを聞いても、何も教えてくれなくて」
「・・・」
「それどころか、誰にも言わないでくれ、と」
俺のことを秘密にしておくというルールを破ってしまい、言い繕うこともできなかったのだろう。
「とても心配だったんです。・・・今の御時世、いろいろな「お父さん」がいますから」
「・・・」
「なので、出過ぎた真似とは思いつつ、昨日、今日と里琴ちゃんのあとをつけさせていただきました」
「ああ・・・」
「学年担当は、いえ、教師たるものは、学校の全生徒を守らなければなりませんから」
俺はようやく合点がいったた。
里琴が目撃した「変態」は伊藤先生だったのだ。その目的は、こちらが想像していたものと随分違ったわけだが。
待て。
ということは、だ。伊藤先生は「里琴ちゃんのお父さん(=俺)」の素性を洗いに来ていることになる。まさに、こうして今話している間にも。
俺は伊藤先生の目にどう映っているのだろう。
生返事ばかりして、まともな会話も成り立たない。社交性もなくて、昼間からウロウロしている中年。しかも父親を自称するも、その実は夫婦の籍すら入れていない。
こんな人間を見て、ポジティブな反応になるわけがない。
「これ以上ないぐらい、いいお父さんで、安心しました」
「!?」
俺は驚いて伊藤先生の顔を見た。さきほどまでの険しい顔とは打って変わって、柔和な表情をしている。
「岩本さんから聞いていたとおりでした」
「岩本さん・・・ああ、たまちゃん」
俺の間の抜けた声を聞いて、伊藤先生はクスクスと笑った。
「たまちゃんって呼んでいるんですね。里琴ちゃんと同じ」
「ええ、まあ」
「娘さんのお友達ともあだ名で呼び合えるって、いい関係ですね」
「はあ、そうでしょうか」
「そうですよ!」
伊藤先生は自信に満ちた声で言った。
「岩・・・いえ、たまちゃんがこっそり教えてくれたんです。里琴ちゃんの新しいお父さんは、とても良い人だって」
「・・・」
「優しくて、里琴ちゃんのことを良く分かっていて。たまちゃんにとってもお父さんのようだって」
過ぎた褒め言葉だった。俺は何も言えずただ俯いた。口を開くと、何かがこぼれ落ちそうで。
「そんな風に言われるって、とてもステキなことじゃないですか」
「・・・ありがとうございます」
それだけを絞り出すのが精一杯だった。鼻の奥がつんとしたので。
「里琴ちゃん、学校でも明るい顔をするようになったんです」
「・・・」
「あと、宿題をやってくるようになったって。担任の先生もびっくりしていて」
やはり、今までは宿題を放ったらかしにしていたようだ。よく今まで無事に学校生活を送れてきたものだ。
「宿題はたまちゃんのおかげです。・・・いいお友達がいて、良かった」
「学校でも一緒にいることが多いようですから」
「・・・その、里琴には、他に友だちはいるのでしょうか」
俺は気になっていたことを切り出した。伊藤先生が答えるまで、少し間があった。




