#44 変態の正体
「あれ、伊藤先生・・・」
「ほんとだ。伊藤先生だ」
俺は浮かせかけた腰をベンチに戻した。伊藤先生?
そして、ストーカー変態女は、あろうことかこちらに手を振って近づいてきた。里琴もたまちゃんも手を振り返している。
「里琴ちゃん、千波ちゃん、こんにちは」
「伊藤先生、どうしたの?」
「ん・・・たまたまこの辺りを歩いててね。その人は?」
「あ・・・リコのお父さんだよ」
「まあ!」
伊藤先生と呼ばれた女は目を丸くした。
「はじめまして。里琴ちゃんの学年担当をしている、伊藤と申します」
「せ、先生なんですか」
「はい。担任ではなく、学年担任ですが。副担任のようなものです」
なんということだ。俺がストーカーと疑っていた女は、学校の先生だったのだ。脱力感を覚えると同時に、股間の痛みがぶり返す。
「せっかくなので、今すこし話せますか?」
「はあ」
伊藤先生は俺の隣に腰掛けた。女性を近くに感じ、緊張が高まる。
「里琴ちゃんと千波ちゃん。先生は里琴ちゃんのお父さんと大事なお話しがあります。終わるまで、その辺で遊んでおいて」
「はーい」
里琴とたまちゃんは古びたブランコに駆け出した。
大事なお話。嫌な予感しかしない。
「改めまして、伊藤です。よろしくお願いします」
「里琴の・・・父です」
この設定を押し通すしかないようだ。俺は腹をくくり、なるべく父親らしく振る舞おうと決意した。
「立ち入ったことを聞くようで失礼します。里琴ちゃんのお母さんと、籍を入れられたんですか?」
「いえ、その・・・内縁関係です」
「なるほど」
伊藤先生は深刻な顔で頷いた。
「今日はお仕事ですか?」
「いや・・・普段は家で仕事なので」
「そうですか。・・・里琴ちゃんは、今はお父さんの家で生活しているんでしょうか」
「・・・そうです」
伊藤先生はいっそう深刻な顔になった。
まるで検察官の尋問を受けているような気分だった。なにか不用意なことを喋ってしまったのではないか。手のひらに汗がにじむ。
「実は・・・里琴ちゃんが口走ったことがあったんです。里琴ちゃんに新しいお父さんができたって」
俺は息を呑んだ。




