#42 尾行
次の日、俺は通学路の電信柱に身をひそめていた。目的は一つ。里琴をつけ回す変態を見つけるためだ。
もちろん、ただウロウロしているだけでは自分が不審者にみられかねない。滅多に着ないスーツを着ているのは、その対策のためだった。願望込みだが、少なくともいつもの私服よりは怪しく見えないのではないか。
チャイムとともに帰宅の先陣を切ったのは男子だちだった。ランドセルを振り回すように走り去っていく。まったく元気なことだ。
続いて、何組か女子の集団が通り過ぎていく。おしゃべりに夢中なのは、何歳であっても変わらないのだろう。俺の方を一顧だにしないのは、好都合でもあった。
ほどなくして、里琴が校門に姿を現した。たまちゃんも一緒だ。俺は里琴たちの姿が視界の中で小さくなるのを待ち、あとを追い始めた。
不審に見えない程度にあたりを見回す。今のところ件の変態らしい姿は見えない。子どもたちの他は、女性とすれ違うぐらいだった。
と、その時だった。胸ポケットの携帯が鳴り出した。俺は慌てて電話に出る。
「もしもし?」
「あ、先生ですか。すみません急に」
電話の声は橘くんだった。
立ち止まった俺の横を、コート姿の女性が急ぎ足で追い越していく。
「今ちょっと忙しいんだが」
「あ、じゃあ掛け直しますよ。大したことじゃないんで」
「待て。何の件だったんだ」
「いや、この前のロリコンストーカーで一つ思い出したことがあって」
「何!?教えてくれ」
「そんなに勢い込まなくても。大したことじゃないんですよ。・・・いや、そういう人って男性とは限らないなと思って」
「・・・どういうことだ」
「女性がつけ回すこともあるんですよ。何年か前、そんな事件がありました」
交通事故で娘を亡くした女が、自分の子どもに似ている子を街で発見する。その子が亡くなった子どもの生まれ変わりだと確信した女はその子のあとをつけ、家を特定し――
「どうしても自分の子どもにしたくて、女の子をさらってしまったんですよ」
「・・・」
俺は橘くんの話を聞きながら、前を行くコート姿の女性を見つめていた。
妙だった。
さっきまでは急ぎ足で歩いていたのに、今は立ち止まって、電信柱に隠れるように前方の様子を伺っている。その前方には、里琴たちがいるはずだ。
「ま、先生の描く小説でそんな重い話は出てこないでしょうけどね。そういう人もいるってことで。ご参考まで」
「・・・貴重な情報ありがとう」
俺は電話を切った。動悸が早まる。コート姿の女性から目が離せなくなった。まるで里琴たちを追うように、俺の家の方角に向かっている。
この辺りまで来ると、歩行者の姿自体が少ない。誰もいない道に、里琴とたまちゃん、コート姿の女性、俺が等間隔で歩いているだけだ。
あの女が里琴のいう「変態」であることはほぼ確実だ。
気づかれないよう、彼女からも距離を取る。里琴たちの姿は視界から消えてしまうが、問題はないだろう。女さえ視界に捉えていれば良い。
女が角を曲がった。俺は足を早めた。
「・・・!」
いない。女が消えていた。そして、里琴たちの姿も見えない。見失ってしまった。
俺は次の曲がり角まで走った。左右を見回すが、誰もいない。
呆然とその場に立ち尽くした。胸騒ぎが止まらない。どうすればいい。そうだ、里琴のスマホに電話を・・・いや、あれは持ち込み禁止だから家に置いてあるはずだ。
その時だった。




