#41 変態の流儀②
「マスコミの奴らはみんなそう言うんですよ。ロリコンは犯罪者だって。すぐ少女にいたずらをするって」
「・・・」
「先生もそういう想像をしていたんでしょう?」
「まあ、ありえなくはないと思っていた」
橘くんは再び深いため息をつく。
「ロリコンを誤解していますよ。僕らロリコンは決して犯罪を犯さないです」
「いや、でもニュースで時々あるよな。少女を誘拐して非道いことをしたり」
「それはロリコンじゃないです。犯罪者ですよ」
俺は混乱した。
「でも、ロリコンだから子どもに手を出すんだろ。結果的にはロリコンが犯罪を犯しているんじゃないか」
「違いますよ。本物のロリコンというのは、絶対に少女に手を出さないんです」
「本物のロリコン・・・」
パワーワードだった。
「イエスロリータノータッチという言葉を知っていますか?」
「なんて?」
「YESロリータ・NOタッチです。僕たちの標語みたいなものですよ」
「標語・・・」
「要は少女というのは愛でるものであり、触ってはいけないということです」
「・・・」
「少女は神聖なものなんですよ。邪な考えを持って触ろうものなら、バチが当たります」
話が大きくなってしまった。
「ええと、つまり整理すると、こういうことか。ロリコンというのは少女に手を出さない。ゆえに、少女に手を出すとすればそれはロリコンではない。ただの犯罪者だと」
「そういうことです」
何だこれは。トートロジーじゃないか。
「先生にはそういう犯罪者を描いて欲しくないなあ。描くなら、本物のロリコンを描いてくださいよ。犯罪者なんて誰でも書けますから」
「そのうちな。・・・結局、最初の話の結論はどうなんだ」
「なんでしたっけ」
「小学生の後をつけ回すロリコンの動機だ」
「あー。簡単ですよ。同化したいんですよ」
さらりとした口調だった。さも当然のように。
「・・・同化?」
「よくあるでしょう?野球選手の誰々みたいになりたい、とか。それと同じですよ」
「ちょっと、何言っているか分からないんだが」
「ロリコンの究極の目的は、少女に触ったりすることではない。あえて言えば、少女になりたいんですよ」
「・・・」
「草野球でいえば、バッティングフォームのマネしたり。カラオケで好きな歌手の歌い方をマネしたり。あれと同じですよ」
「だが、ロリコンのオッサンが少女になれるわけないだろう」
「だからそれも同じですよ。野球選手になれたり、歌手になれたりするわけがないのにマネをするのと同じ」
「よく分からないが。つまり、そのロリコンは少女になりたくて、あとをつけていたということか」
「その通り」
「だから、その女の子に手を出すことはないと」
「ですね」
斬新すぎる理論だ。
「なあ、それは・・・言いにくいんだが、「女の子になりたい」というのはロリコン全員に当てはまる話ではなく、橘くん個人の、趣味嗜好なんじゃないか」
「え!そんなことない・・・と思いますよ」
橘くんの声色は、先程に比べ弱まっていた。
「他にそういうことを言っているロリコンがいたのか」
「いや、はっきり聞いたわけじゃないですけど・・・小学生アイドル会場で振りコピしている人とかは、きっと小学生アイドルになりたいわけですから。一杯いますよ、そういう人」
「音楽に合わせて身体を動かしているだけじゃないのか」
「・・・そうとも言えますけど。まあそれは置いておいて、一つ言えるのは」
橘くんは強引に話を切った。
「少なくともコソコソしているというのは、性犯罪を起こすタイプじゃないってことです。連れ去るなり何なりを考えているのであれば、むしろ声をかけて近づいたり、強引に事を起こしているでしょうから」
「・・・なるほど」
では、犯罪を起こそうとしているわけではないということだろうか。
「もちろん、盗撮したりとかはあるでしょうけどね。・・・ただ、そういうタイプだとすると、何度も現れてしつこくつけ回すかもしれませんね」
「えっ、そうなのか?」
「だって目的は達成されていないわけですから。それに、ストーリー的にもその方が良いですよ。あからさまにつけ回さないにしても、またその子に会いたくてウロウロ徘徊するのが自然な流れじゃないですか?」
「そうかもしれないが・・・」
これは現実なのだ。
この後、橘くんは「小学生女児に憧れて小学生の行動調査をしているロリコンが異世界転生して子小学生になってしまう話」をストーリー展開として提案してきたが、俺は適当に受け流して電話を切った。
里琴をつけ回した男が犯罪者なのか「本物のロリコン」かは分からないが、また現れるというのは道理に思えた。「犯罪者は現場に戻る」ともいうではないか。




