#40 変態の流儀①
その日の夜、俺は仕事部屋から電話を掛けた。「変態の気持ち」を知るには、変態に聞くのが一番ということに気づいたのだ。
発信音が10回近く鳴らされたあと、電話口から橘くんの声が聞こえてきた。眠そうな声だった。
「済まない、寝ていたか」
「いや、起きてバリバリに仕事していましたよ」
「それにしてはアクビ混じりの声だが」
「もともとです。・・・そんなことより、先生から電話とは珍しいですね。」
「実はちょっと、相談があって」
ははーん、と橘くんは合点した声を出した。
「小説で行き詰まりましたか。なんでも聞いてくださいよ。僕はこう見えて、何人もの作家を救ってきましたからね」
「それは頼もしい。・・・いや、作品の中に変態を出そうと思うんだ」
「変態を?」
「しかもただの変態じゃない。小学生好きの、ロリコンだ」
「いいじゃないですか!」
橘くんの声から眠気が消え飛んだ。
「先生の小説にはね、変態要素が足りないんですよ。もちろんそれは先生の良いところでもあるんですけど。でもついに変態を。しかもロリコン。うん。いいと思いますよ」
「ただ、いざロリコンを出そうとすると、よく分からなくてね」
「ほう」
俺はいよいよ本題に切り込んでいった。
「たとえば、ロリコンがある行動をしたとして、彼は何を思ってそんなことをするんだろう、と。要は読者にとって不自然な動機にならないようにしたい」
「なるほど。ある行動というのは?」
「小学生の後をつける」
「ほう・・・」
「その小学生が後ろを振り返ると、こそこそと隠れたりしながら、後をつけている。こういう場合、そのロリコンが考えていることは何だろう」
「後をつけているだけなんですか?」
「わからない。その後どんな行動に出るかは、そいつが考えていることによるんじゃないか」
「なるほど・・・先生、一つ聞かせてください。先生は、もしやそのロリコンが犯罪行為をすると思っていますか?」
「・・・可能性はあると思っている」
橘くんは電話口でしばらく黙った。何拍か置いて、彼は深いため息をついた。
「ロリコンなめんな」
「え」
「・・・言葉遣いが乱れてすみません。ロリコンなめんな、と言ったんです」
橘くんの声は怒気をはらんでいた。




