#35 夜道
◇
「残念でしたね、ババ抜き」
夜道を歩きながら、たまちゃんは俺を慰めてくれた。
「里琴ちゃんのお父さんが、ずっとババを引かないから、てっきりバレているんだと思っていました」
「いや・・・それまでは運が良かっただけだ」
最後の最後で、俺は二分の一の確率に負けてババを引いてしまった。動揺するあまり、たまちゃんの目線を追えなかったのだ。
「ちょっと遅くなったけど、お家の人は心配してない?連絡しておかなくて良いの?」
「いいんです。ウチはお母さんが働いているので、この時間はまだ家に誰もいませんから。・・・里琴ちゃんと同じです」
「そう」
雨は止んでいたが、俺はたまちゃんを家まで送っていくことにした。里琴も一緒に行くと主張していたが、パジャマを着ている子を連れていけないという理由にて、留守番を押し付けることに成功した。
「楽しかったなー、トランプ」
たまちゃんは水たまりをひらりと避けて言った。
「里琴とは、昔から友達なの?」
「里琴ちゃんが転校してきてから、ずっとです」
「転校?」
「はい。去年の秋ぐらいだったかな」
それは初耳だった。里琴はずっとこの街にいたものだと、なんとなく思い込んでいた。
「里琴ちゃんが最初に教室に現れたときは、びっくりしたなあ。すごい可愛い子が来た!って。だって、テレビにも出ていたから」
「知っていたのか」
「そりゃもう!ドラマの頃に比べると、だいぶ大きくなってたけど、すぐに分かりました」
転入生はドラマに出ていた有名人だった。たまちゃんだけでなく、クラスメイト全員にとって衝撃的な展開だろう。まるで漫画や小説の世界だ。
「で、里琴ちゃんは席が隣になって・・・私に「たまちゃん」ってあだ名をつけてくれたのも、里琴ちゃんなんです」
「そうなんだ?名前がタマコちゃんとか?」
たまちゃんは吹き出した。
「そんな昭和の名前じゃないですよ!私はタマコじゃなくて、千波って名前です」
俺は戸惑った。「たまちゃん」と全く違う名前じゃないか。
「ちびまる子ちゃんの、たまちゃんに似てるからってことで、里琴ちゃんがつけてくれたんです」
「ああ、そういえば・・・」
メガネをつけて、お下げ髪。たしかに「たまちゃん」である。控えめで、頭が良いところも似ているかもしれない。里琴は良いあだ名をつけた。
「まあ、里琴ちゃん以外は誰もそのあだ名で呼ばないんですけど」
「なんだ」
「でも、私はそのあだ名が気に入っていて・・・好きなんです」
たまちゃんは顔をくしゃりと崩した笑顔を見せた。まだ歯の生え変わり途中なのか、犬歯のあたりの乳歯がまだ抜けたままだった。
「たまちゃんは里琴ちゃんのことが好きなんだな」
「はい・・・だから、心配で」
「心配?」
たまちゃんは両手を組んで胸にあてるようにして、しばらく押し黙り、やがて決意したように話し始めた。




