#31 招かれざる客②
「誰?また隠れておく?」
「いや・・・誰も、いないみたいだ」
インターホンには誰も映っていなかった。ただ、ザーザーというノイズ音は聞こえてくる。何かと思ったが、雨の音だった。夕立ちだろうか。いつの間にか外は豪雨になっていたようだ。リビングの窓から外を見た里琴も、急な雨に驚いている。
「うわ!もうちょっと遅かったら危なかったな。傘、持っていってないし」
「いたずらかな。一応確認してくる」
「じゃあ、また隠れておくね!」
「ああ。・・・って、ダメだ!ベッドの下は!」
俺は仕事場兼寝室に向かおうとする里琴を慌てて止めた。
「え?ダメなの?」
「散らかってて隠れられないから。そうだ、とりあえずお風呂場に隠れておいて」
「わかった!」
里琴はランドセルを背負ってお風呂場に駆け込んでいった。
そういえば初めて里琴がここに来たときも、モニターには誰も映っていなかったのだった。今回もモニターに映らないぐらいの背丈の小学生がいたりして。そんなことを考え、ひとり苦笑しながら玄関ドアを開けた。
「あの、こんにちは・・・」
「・・・!」
果たして、そこに小学生はいた。
背丈は里琴より少し小さいぐらいだろうか。か細い声だった。この夕立ちが直撃してしまったのか、女の子はずぶ濡れだった。メガネからは雫がしたたり、かぶっている帽子もぐしょ濡れだ。そんな格好で俺を見上げている。
「・・・こ、こんにちは」
「・・・あの」
女の子は一瞬迷うような表情を浮かべ、黙って下を向いてしまった。
寒いのだろう。カチカチと歯があたる音がする。
「どうしたの?何かあった?」
「・・・」
俺はしゃがみ、女の子と目線を合わせた。メガネが大きく見えるのは、この子の顔が小さいからだろう。
「あの・・・」
女の子は一瞬俺と目を合わせ、また反らしてしまった。
おや。
一瞬、脳裏に何かが走った。どこかで見覚えがあるような気がしたのだ。どこだったか。俺は女の子の顔を観察した。里琴のような美人顔ではないものの、可愛げのある顔をしている。
やがて女の子は俺に目を戻し、何かを決意したような表情で口を開いた。
「あの・・・リコちゃんのお父さん、ですよね?」
思いもよらない言葉に衝撃を受けた。里琴を知っている?そして、なんだか誤解はしているようだが、俺と里琴のつながりも知っている?
「り、里琴ちゃん?」
「はい。この前、お洋服の売り場にいましたよね」
「・・・!」
「試着のお手伝いをしてたとき」
思い出した。あの子だ。試着室の前で目が合った女の子だ。そして、友達に「里琴を見かけた」と話していた子。
「えーと、何のことかな」
俺はとりあえず誤魔化そうとしたが、その必要は一瞬でなくなった。俺の言葉を遮るように、後ろから里琴の声がしたのだ。
「たまちゃん・・・!?」




