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気がついたらJS4の保護者になってました。  作者: 軽羽春
たまちゃんと里琴
30/56

#30 招かれざる客

新キャラの気配

 しばらくは魂が抜けたようにソファに横たわっていた。横たわりながらも、静かすぎる部屋に戸惑いも覚えていた。里琴がいるのと居ないのとで、こうまで違うのか、と。


 俺はなんだか落ち着かなくなって立ち上がった。そうだ、フライパンについた焦げを落とさなければ。


 改めてフライパンを見ると、なにかの食べ物だったであろうものが炭化して付着していた。いったい里琴は何を作ろうとしたのだろう。この残骸からは何も推測できなかった。

 スチールたわしでガリガリと削ってやると、黒こげがポロポロと落ちていく。面倒な作業ではあるが、これはこれで中々の達成感があった。

 里琴がいなければ、そもそもこんな雑務も発生しなかったわけだが、不思議とそれを厭わしいとは思わなかった。以前の俺であればどうだっただろう。イレギュラーな事態にアレルギーを起こしていたのではないだろうか。


 静かで、合理的な生活。

 俺はその生活を理想と思っていた。今でもそれは変わってはいないのだが、似たような毎日が繰り返される中で、少しづつ心に澱が溜まっていたのかもしれない。

 それを、里琴が洗い落とした。この黒こげのように。

 なんてね。俺は水を出し、スポンジでフライパンを磨いた。黒こげどもは排水溝に次々と吸い込まれていく。よし、完了だ。俺は刀鍛冶のようにフライパンに光を反射させた。ピカピカになった。


 この日は仕事も(はかど)った。件のお姫様が現代にタイムスリップするストーリーなのだが、居候先の同級生を女子から男児に変えた。これでストーリーに幅が出た。

 また、ラフ案を送ったところ、橘くんから「ブルマ足りないっす!ブルマ不足っす!もっといっぱいブルマを登場させてください!」旨のメールがあった。思案の末、お姫様の「こんな動きやすい召し物、着たことがなかったですわ!」という発言を契機にクラスの女子たちがブルマの魅力に気づき、いつの間にか女子全員がブルマを履いて球技大会に挑む・・・というサブプロットを入れておいた。


 気がつくと14時を回っていた。

 俺はデスクチェアにもたれ大きく伸びをした。すると、あるものが視界に入った。俺は青ざめた。段ボールだ。片付けるのをすっかり忘れていた。破れた箇所の補修もしていない。


「ピンポーン」


 玄関のインターホンが鳴らされたのは、まさにその時だった。モニターを見て、俺は頭を抱えた。里琴がジャンプしてカメラに映ろうと試みている。最悪のタイミングだ。まったく、今日は招かざるタイミングでの来客が多い。


 俺はインターホンの通話スイッチを押した。


「ただいま!帰ったよ。これカメラ映ってる?」

「ああ、映ってる。・・・ただ、ちょっと今取り込み中だから。少し待ってて」

「へぇ?洗濯物の取り込み?」


 俺は猛ダッシュで仕事場に戻り、段ボールを戻そうとした。が、焦るとろくなことはない。段ボールの破れた箇所から資料が2〜3冊崩れ落ち、床に散らばった。


「あれ?鍵開いてるよ」


 玄関から里琴の声がした。血の気が引いていく。

 俺は全身全霊の力を込め、ラグビー選手がスクラムを組むような態勢で段ボールをベッドの下に押し入れた。散らばった数冊の資料は、箱に入れずベッドの下に潜り込ませた。


「ただいまー。・・・あれ、先生、何やってるの?」


 里琴が仕事場に現れたとき、俺は床に突っ伏すような格好になっていた。


「大丈夫?苦しそうだけど。汗かいてる」

「ああ、いや。これはアレだ。腕立て伏せをやっていたんだ」

「ふぅん」

「外に出ないし、運動不足だからね。時々こうやってさ」


 俺は1、2・・・と声を出して腕立て伏せをやってみた。もちろん普段からやっているわけではないので、ひどく不格好なものになってしまう。


「なんか先生の腕立て伏せ、違わない?」

「そうか?はは、慣れてないからな」

「じゃあリコも一緒にやってあげようか?」

「え」

「得意なんだよ。こうでしょ?1、2・・・」


 里琴は俺の隣に並んで腕立て伏せをやり始めた。いかん!これでは里琴がベッドの下を覗けてしまうではないか。


「ははは、さすが。じゃあもうちょっと広いところでやろうか。ここは狭いから、ね」

「そう?じゃあリビングでやろう!」


 結局、俺はやりたくもない腕立て伏せに延々と付き合うことになり、なぜか腹筋もさせられる羽目になった。里琴が得意と言ったのは事実だったようで、彼女は腕立て伏せも腹筋も軽々とこなしていった。


 俺は息も絶え絶えになって言った。


「ちょ、ちょっと休憩しよう」

「えー?まだまだできるのに。そうだ、背筋もやっておく?」

「いや、勘弁してくれ」


 と、玄関のインターホンが鳴った。本日三回目だった。amazonも、その他のネットショッピングも何も頼んでいないはずだ。また招かれざる客だろうか。嫌な予感がする。俺は不安に顔を強張らせ、モニターを覗いた。

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