#3 小学生オーディション②
こちらから見て一番右端に座っている、4番の子だ。その子だけ、他の子と雰囲気が違うような気がした。
原因はなんだろう。間違い探しのように他の子と比較する。しばらく考えた末に、着ているものが原因のようだと分かった。
他の子が子供服ブランドで着飾っているのに対し、この子だけは、庶民じみたトレーナーを着ていたのだ。なんというか、イトーヨーカドーででも売っていそうな。胸には妙なフォントで描かれた英語文字が力強く踊っている。何度も洗っているのか、首周りや袖のゴムが伸びていた。
ん・・・?
俺はその子を観察しているうち、不思議な感覚も覚えた。どこか懐かしさを感じさせるような、もっと言えば見覚えがあるような気がしたのだ。
と、その子がこちらをちらりと見やった。目線が交錯する。その瞬間、その子はちょっと微笑みを浮かべ、小首をかしげる。その笑顔は、どこかこちらを引き込むような魅力があった。
思わず相好を崩しそうになる。俺は慌てて手元の資料に目を落とした。
女の笑顔は信用しないことにしていた。たとえそれが子どもであっても。
だいたい、彼女の笑顔は俺が審査員だから出たものだろう。たとえば街ですれ違っただけであれば、石ころを見るような目で見られるだけだ。信用しない信用しない。俺は改めて自分に言い聞かせた。
「では、次は4番の方。自己紹介をお願いします」
「はい」
司会に短く返事をし、彼女はすうっと立ち上がった。
「自己紹介をします。エントリーナンバー16番。後藤里琴、10歳。小学四年生です。四月から、小学五年生になります」
里琴と名乗った少女は一度言葉を切り、審査員を見回した。
気のせいだろうか。こちらを見る時間が、他の審査員に比べ少し長かったような気がした。
「趣味はお料理、お掃除です。特技というか、好きなことはお芝居をすることです。とにかくお芝居をすることが大好きなので、今回のお仕事のお話も、とても楽しみにしています」
北島マヤのようなことを言って、後藤里琴は椅子に座った。
そつのない自己紹介だった。そつがなさすぎて「フック」がないとも言える。
だが、今日見てきた15人に比べると、何かを感じさせるような雰囲気があった。なんだろう。場馴れしているのだろうか。
改めて手元のプロフィールに目を落とす。後藤里琴の経歴欄にはいくつかの記載がある。CMやスチール広告、そしてテレビドラマという文字もあった。
テレビドラマという記載自体は、他の子のプロフィールにもあった。それ自体は珍しいことではない。だが、この子の経歴はそれだけではなかった。テレビドラマのタイトルの横に「準主役」と記してあったのだ。
ドラマ名にはうっすらと記憶があった。仕事ばかりしていた男が妻に先立たれ、一人娘の子育てに悪戦苦闘をする。だが娘と過ごしているうちに仕事よりも大切なもの(娘との時間)を見つけ、男は今までの生き方を見直す・・・そんなストーリーだった。
俺はそのドラマを見たことはない。
あらすじを知った時点で却下だ。誰かと同居?ふん、冗談じゃない。ましてや、それが子供。想像するだけで鳥肌が立つ!
待てよ。
これの準主役ということは・・・。
「それでは、皆さんに質問です」
審査員の一人が口を開いた。参加している全ての子への共通の質問だった。




