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気がついたらJS4の保護者になってました。  作者: 軽羽春
たまちゃんと里琴
29/56

#29 朝②

「お待たせしました!」

「あ、やっと出てきた」

「これは関さん。おはようございます!」

「・・・はい。おはよう」


 関さんは俺の肩越しに、奥に目線をやっていた。目の動きだけでヒヤヒヤしてしまう。


「今あなたの部屋で火災報知器が鳴ったって。管理事務所に自動連絡があってね」

「いやあ、そうなんですよ、はっはは。久しぶりに自炊にチャレンジしたんですが、慣れないことはするもんじゃないですね。フライパンから煙が出てしまって。ははははは」

「火はもう消えたんですか」

「ええ。今はもうすっかり。だから大丈夫です!」

「ふむ。一応中を見せてもらっていいですかね」

「いや、でも火はもう消えているので・・・」

「そういうわけにはいかんのですよ。壁とかの焼損を確認せんと。これを補修するのは賃貸人の義務でもあるんですから」

「そ、そうなんですね。そういうことであれば、まあ、どうぞ」

「失礼しますよ」


 関さんはじろりと俺を一瞥し、中に入っていく。


「このフライパンから火が出たわけですか」

「はい」

「火はもう消えていると」

「はい。なので、もう帰ってもらって大丈夫です。関さんもお忙しいでしょうし」

「・・・壁はどうかな」


 関さんは俺の提案を無視し、壁を検分し始める。


「お風呂も見せてもらいますよ。こちらも換気扇で煙が流れるんでね」

「はあ。どうぞ」


 関さんはお風呂に向かう。と、一瞬心臓が止まりそうになった。洗面所の鏡に、里琴が写ったのだ。隠れていろと言ったのに!


「あー、お風呂は大丈夫そうだ」

「は、いえ、じっくり見てください!どうも最近換気扇の調子もおかしいので!この機会に是非!」


 鏡越しに里琴と目が合う。どういうつもりだ。俺は口の動きだけで里琴を咎める。すると里琴は何かを掲げた。ランドセルだった。これまた口の動きだけだが、「これを、持っていく」と言っているように見えた。

 そうか、ランドセルはリビングに放置したままだった。関さんに発見されたら、アウトだった。


「換気扇も大丈夫そうだよ」

「あ、ああ、そうですか!それは良かった」


 鏡から里琴は消えていた。うまく隠れていてくれればいいのだが。

 と、関さんは仕事場兼寝室のドアを指差した。俺はドキリとする。


「あれ?さっきあのドア、開いてたっけ?」」

「さ、さあ。風で開いたんですかね」

「ふうん・・・」


 関さんは中の様子をじろじろと見たが、特に何も言わなかった。里琴は上手く隠れられたようだ。


「じゃあ、私はこれで管理人室に戻るんで」

「ありがとうございました。お騒がせして、申し訳なかったです」

「今後は気をつけてくださいよ。・・・そうだ、あともう一つ」

「何でしょう?」

「段ボール」

「・・・!?」


 関さんが発した一言に、俺は飛び上がらんばかりに驚いた。まさか、段ボールを見られていた?そして、中身の資料も見られた?いや、中身は外から見えないようにしておいたはずだ。なのに、何故。


「違うんですよ。あれは、その、知り合いから押し付けられたものでして」

「・・・?」


 関さんは首をひねった。


「何の話かよう分からんけど。私が言ってるのは、その段ボールのこと。ほれ、今あんたが手に持ってるやつ」

「これ・・・ですか」


 言われるまで気が付かなかったのだが、俺は千切れた段ボールをずっと手に持っていたようだ。関さんが段ボールと言ったのは、この切れっ端を指してのことだった。


「まさかそれで風を起こして火を消そうとしてたんじゃあるまいね」

「あ。いや・・・これはその、たまたま手に持っていたので」

「ならいいんだが。火は風で余計燃え広がることがあるからね。特に段ボールは引火性が高いから、そっちに火がつくこともあるし」

「なるほど・・・。気をつけます」

「はい。ほんじゃ、今後も気をつけてください」


 関さんが帰ると、俺はソファに倒れ込んだ。まったく、朝から色々なことがありすぎる。

 隣室から、里琴がおずおずと姿を現した。バタバタしすぎて気が付かなかったが、昨日プレゼントしたパーカーを着ている。


「なんか色々迷惑を掛けちゃって、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。仕方ない・・・」

「でも、ランドセルに気がついたのは偉かったでしょ?」

「ああ、助かった。・・・って、あ!」


 俺は時計を見て叫んだ。もう8時10分を回ろうとしていた。


「早く!学校行かないと!」

「でも朝ごはんが」


 里琴は壁に張り出されたルールに目をやった。昨日里琴が提案したとおりに「朝ごはんは毎日食べる」と書かれている。


「仕方ない。こんな日もある。一食ぐらい食べなくても死にはしないんだ」

「えー」

「明日からにしよう。ルールが適用されるのは」

「・・・分かった。じゃあ行ってきます」

「待った!牛乳パック!」

「あっ、そうだ!忘れてた」


 俺は牛乳パックをビニール袋に入れ、里琴のランドセルに突っ込んだ。


「もう忘れ物はないね?」

「うん!行ってきます!」


 里琴は元気に外の世界に駆け出していった。一方の俺は、死んだようにソファに崩れ落ちた。

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