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気がついたらJS4の保護者になってました。  作者: 軽羽春
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26/56

#26 夜②


 30分後、俺は膨らんだ腹をさすりつつ、空になった牛乳パックを逆さまに干した。しばらくは紙パックすら見たくない。


 牛乳を流しに捨ててしまうことも、もちろん考えなくはなかった。普段の俺であれば、間違いなくそうしていただろう。それが合理的だからだ。

 だが、今の俺は――合理性だけを追及することに、なぜだか後ろめたさを覚えていた。


「ごめんなさい」


 里琴はしおらしく言った。あまり得意じゃない牛乳をコップ数杯も飲んだからだろう、明らかに元気がない。まだ目の前のコップには牛乳が残っている。口の周りにはヒゲのように白い輪っかがついている。

 

「今度から、学校の提出物とか、宿題とかは必ず報告するようにな」

「そうする」

「それだけじゃないな。ルールを決めないとダメだ」

「ルール?」

「郷に入れば郷に従え、というだろ?この家で守ってもらうルールだ」


 俺はノートPCを開いた。テキストエディタを開いて、「ルール」と書く。


「まず、さっきのルール。提出物、宿題はぜんぶ報告すること」

「わかった」

「次。俺は少女誘拐犯にはなりたくない」

「うん?」

「だから、俺と一緒に住んでいるのは秘密にすること。学校では、ここから通っていることは秘密だ」

「うん。リコ、最初からそのつもりだったよ」

「よし。お母さんと、前の家でそのまま暮らしているという設定だ。・・・家庭訪問とかは予定されてないよな?」

「1学期で終わってるから、大丈夫」


 続いて、お互いの電話番号とメールアドレスを交換し、地図アプリで学校までの道のりを確認した。俺にとっては人生初となる、異性との電話番号、メアド交換だ。


「あとは、帰宅する時になるべく人目につかないようにすること。」

「わかった。呼び方はどうする?」

「呼び方?」

「今日みたいにお外に一緒に出たとき、先生をどうやって呼べばいいか。お父さんでいい?」

「あ・・・、ああ。それしかないだろう」

「お兄ちゃん、じゃなくていいの?」


 里琴はわざと声を高くして「お兄ちゃん」と発音した。


「家ではお兄ちゃんって呼んだ方がいい?そういうのが好きなら、そうするけど。お兄ちゃん!って」

「うるさい。先生でいい」


 俺は内心の動揺を悟られないよう、声のトーンを落として言った。まったく、今の小学生はそういう知識をどこで覚えてくるのだろう。きっとネットが悪いのだ。


「リコの呼び方は?」

「ん?」

「いつも「君」とか呼んでるから」

「・・・なんて呼べばいいんだ」

「リコにゃん」

「・・・」

「リコぴょん」

「里琴でいいな。父親っぽいし」

「えー、つまんない」


 俺は無視してPCを閉じようとした。


「待って。リコからも先生にルールがあるよ」

「・・・?」

「ご飯は一緒に食べる」

「・・・」

「ダメ?」

「いや、かまわないが」

「やった!」


 里琴は喜色満面だった。飯を一緒に食うのがそんなに嬉しいというのか。俺にはよく分からない感情だった。


「ご飯は里琴が作るね!」

「宿題が終わってたらな」

「えー、・・・まあ仕方ないか」


 里琴は渋々といった様子で頷いた。俺は今度こそPCを閉じようとした。


「待って!」

「まだあるのか」

「うん。・・・あのね。先生に一緒に寝て欲しいの」


 里子はじいっと俺の目を見つめていた。俺はたじろいで目を逸らした。


「夜はベッドで一緒に寝る。これが最後のルール」

「いや、それは」

「ダメだって!昨日みたいにソファで寝てたら、また身体が痛くなるよ。身体を壊しちゃうよ!」

「それは、そうかもしれないが」

「リコ、先生が何で一緒に寝るのを嫌がるか、知ってるよ」

「・・・」


 俺はどきりとした。里琴の言葉を待つ。最近の小学生は何でも知っているのか。どこで覚えてくるのか――。


「リコの寝相が悪いから、嫌がってるんでしょ」

「・・・?」


 俺は拍子抜けしたが、その表情を勘違いしたのか、里琴は満足げに頷いた。


「やっぱり。なら安心して。たしかに寝相は良くないんだけど、壁を向いて寝ればマシだから」

「お、おう。・・・なら、安心かもな」

「じゃあ決まりね!書いて!夜は一緒に寝ることって」


 俺は里琴の勢いに押され、ルールに追記した。相手は子どもだ。何をドキドキしているのか。


 寝室には例の「資料」も置いてある。里琴を一人にさせて「資料」を発見されるリスクを考えると、一緒に寝る方が安全ともいえる。いつ何時、夜中に目を覚まして「資料」を発見されるかもしれないわけだし。


「あと、重要なルールを思い出した。仕事部屋を掃除するときは、ものを動かしたりしないこと」


 俺はルールの最後にそれを記入し、今度こそPCを閉じた。

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