#25 夜①
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本日の夕餉はあさりと豆苗の中華風炒め、そして味噌汁だった。すべて里琴がこしらえたものだ。
ただ待っているのも何なので、俺もアシスタントとして手伝うことにした。とはいえ、里琴の指示に従っていただけなのだが。
この歳になって初めて「あさりの砂抜き」というものをした。なぜ塩を加えると砂が抜かれるのか、原理はよく分からないが、勉強になったことは確かだった。
そして、里琴の料理の腕はなかなか見事なものだった。ちゃんと中華料理店の味になっている。それが里琴の言葉どおりに中華調味料のおかげなのか、あるいは里琴の謙遜なのかはよく分からないが。俺は後者であるとにらんでいる。
「豆苗さん、もう一度生えてきますように」
水を満たした平たい皿に豆苗の根っこを入れて、里琴は手を合わせて拝んだ。
「できればもう2回、もう3回と生えてきて欲しいんだけどね」
里琴に言わせると、2回目以降の発芽はひょろひょろとしていて、あまり食べごたえがないらしい。それはそうだろう。2回も3回も自家栽培されては、豆苗の生産者は死活問題だ。
後片付けと皿洗いは俺が担当した。あさりの殻をジャラジャラとビニール袋にまとめながら、里琴に声を掛ける。
「明日から学校だろ?」
「うん」
「何時ぐらいに出発するんだ?」
「前の家では8時ぐらいに出てたかな。ここだと、学校が近いから、もう少し遅くてもいいかも」
聞くと8時30分始業だという。とはいえ早めに出ておいた方が良いだろう。遅刻で保護者に連絡が必要となると、厄介だ。いや待て。遅刻に限らず、保護者面談や、保護者参加が必要な行事等があれば、俺はどうすればいいのだろう。スルーできるものなのだろうか。あとは忘れ物だ。授業中に届けることにでもなったら――。
俺は不安になって里琴に尋ねる。
「そういえば、提出物とかはないよな?」
「宿題はなかったよ」
「宿題じゃなくて、学校に持っていかないといけないものとか」
「うーん・・・」
「なければいいんだ」
俺は安心して皿洗いに戻ろうとした。それを止めたのは、里琴の短い叫び声だった。
「あっ!!」
「ど、どうした?」
「あった!持っていかないといけないもの、あった!」
里琴はソファから跳ね起きて、ランドセルからプリントのようなものを取り出した。
「どうしよう・・・忘れてた」
「何を持っていくんだ」
「牛乳パック!」
プリントを見ると「動くおもちゃ作り」なる図工の授業に必要なので、各家庭で牛乳パックを用意することと書かれていた。
「三本も・・・」
「どうしよう、間に合わない?」
「間に合わせるしかないだろう」
冷蔵庫を開けると、今日買った未開封の紙パックが2本、そして開封済が1本あった。開封済のものも、まだ中身は半分以上残っていそうだった。
「これを・・・」
「2人で・・・」
「・・・飲むしかない」
俺と里琴は顔を合わせ、悲壮な覚悟で声を合わせた。




