#23 帰宅
◇
俺は里琴を探さずに、そのまま家路についた。
自分の考えには自信があった。確信といえるかもしれない。家に帰れば、里琴が待っていると。
そして今、目の前には想像どおりの光景があった。
里琴は玄関のドアに背をもたれさせて座っていた。一昨日と同じように、体育座りで、膝で頭を挟み込むようにして。あの時と違うのは、大きなキャリーバッグがなく、その代わりに買い物袋があることぐらいか。
「・・・ただいま」
「・・・」
里琴は黙って俺を見上げた。
「早く入れ。今度こそ風邪を引くぞ」
俺はドアを開け、里琴を招き入れた。里琴はのろのろと立ち上がる。二日前とは違う生気のない顔をしていて、目線は下を向いている。
「重かっただろ?買い物袋」
「・・・別に」
「買ったものは冷蔵庫に入れてくれるか?入れ方は適当でかまわんから」
「・・・私、出ていく」
「?」
里琴はキッチンに買い物袋を置いて言った。
「出ていく?」
「うん。ここを出て、違うところに行く」
「違うところって、どこに?」
「・・・お母さんのとこ。帰ってきたって、さっきメールが来た」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ、そのメールを見せてくれ」
「・・・間違えた。メールじゃなくて、電話」
里琴はキャリーバッグを乱暴に開け、荷物を詰め始めた。
「アイスの味はどうだった?」
「・・・美味しかった」
「何味を食べたんだ?」
里琴の動きが止まった。
「チョコレート」
「おかしいな。あの店にチョコレート味は売っていなかったはずだが」
「・・・何味だっていいじゃん。関係ない」
「もう、嘘はつかなくていい」
「・・・」
俺は里琴の前にしゃがんで、目線の高さを合わせた。
「本当はアイスは買っていないし、食べたいとも思っていなかった。そうじゃないのか」
「・・・」
里琴はぬいぐるみのみーちゃんを、ぎゅっと握りしめていた。爪が食い込むぐらいに。
「なのにアイスをねだったのは、バス代がいるから」
「・・・」
そう、里琴は自宅までひとりで帰るつもりだった。だが、徒歩では道が分からない。だから、バスに乗る必要がある。しかし里琴はバス代を持っていない。思いついた苦肉の策が、アイスを口実にしてお金を無心することだったというわけだ。
なぜ里琴はそんな回りくどいことをしたのか。
それは、一人で帰る必要があったからだ。つまり、俺と一緒に帰ることでは目的を達成しえないから。
その目的とは――
「ありがとう」
「・・・?」
里琴は驚いたように顔を上げた。
「俺を守るために、一人で帰ったんだろう」
里琴の反応をみるに、どうやら正解のようだった。
俺は自分が推理したことを、静かに話し始めた。




