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#2 小学生オーディション①

 ◇


 手元に広げられた資料に、再度目を通す。


 資料は履歴書のようなフォーマットになっており、左上には顔写真が印刷されている。事務所の宣材写真なのだろう。メイクも髪型も、ライティングもバッチリと決められた写真だ。いずれの写真も美少女ばかり。芸能界を目指すということは、そういうものなのだろう。このオーディションの前から、すでに選別は始まっているのだ。


 ここは渋谷の某オフィスビルの一室。新しく始まるドラマのオーディション審査員として、俺はこの場に臨席している。担当編集者の橘くんに、無理やりねじ込まれたのだ。


 その橘くんは、まるで審査員長のような態度で隣席にふんぞり返り、子供たちのプロフィールを楽しそうにチェックしている。何のことはない、このロリコン編集者は俺をダシにして自分がオーディションに参加したかったのである。


「それでは次の組、どうぞ」


 スタッフの合図とともに部屋のドアが開けられ、女の子たちが入ってくる。


「おはようございます!」


 少女たちの声が室内に響く。まだどの娘も変声期を迎えていない、甲高い声だ。


 今回のオーディションに参加しているのは、全員小学校3〜4年生。これは今回ドラマ化される原作、つまり俺の書いた小説の主人公が10歳の設定だからだ。


「はーい、では座ってくださーい」

「よろしくお願いしまーす」


 口々に言いながら、女の子たちはパイプ椅子に腰を下ろした。全部で4人。


 本日の一次審査では4人一組ごとに面接を実施し、最終選考に残る4人を決めることになっていた。今入ってきた4人は、エントリーナンバー16番から20番までの子。つまり本日の最終組だ。


 ドラマ化とはいえ、媒体はテレビではなく、ただの動画配信である。それなのに20人前後も応募があるとは意外だった。橘くんの「先生の作品、意外と小学生にウケがいいんですよ」も、素直に受け取るべきなのかもしれない。あるいは、動画配信はすでにテレビに成り代わり、芸能の世界でもメインストリームとなりつつあるということなのか。


「はい、じゃあ自己紹介をお願いします」


 左端の子から、自己紹介が始まっていく。


 最終組にもなると、彼女たちの自己紹介パターンもだいぶ読めてきた。おそらくマニュアルがあるのだろう。名前、年齢、学年、所属、そして趣味や特技などのアピールポイント。これは読書やダンスなどのありふれたものではなく、ちょっと変わったものが、審査員へのフックとなる。前の組の子などは「クワガタの養殖」などと言っていた。


 あらためて4人の子をひとりひとり眺めた。当たり前だが、みんなオーラがあり、客観的にみて可愛い。洋服もそれぞれがオシャレな子供服ブランドを身に着けている。


 ふん。

 俺は乾いた気持ちで子どもたちを見ていた。


 子供の頃からブランドものを見につけ、周りに可愛い可愛いとチヤホヤされて育つ。華やかなステージに立ち、スポットライトを浴び続ける。キラキラした世界だ。


 一方で、俺はそれとは対極の世界を歩んで、ここまで生きてきた。ステージに上がることなど永遠になく、スポットライトどころか日光すら不足している灰色の世界だ。


 つまり、永遠に交わることのない世界線が、たまたまこの部屋ではシンクロしているということになる。ユークリッド幾何学もびっくりの奇跡だ。そう考えると、なんだかこの状況も自虐的に愉快なものに思えてきてしまう。


 おや、と思ったのは、そのときだった。

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