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#16 スクール水着とブルマと、マッサージと。

微エロ


 帰り道は雨がぱらぱらと降り始めていた。

 昨日雪は降らなかったようだが、その雪が雨に変わったということだろうか。


 今朝考えていた目論見は白紙に戻ってしまった。

 確かに部屋の鍵は開いていた。だが、里琴をそこに置き去りにできる自信はなかった。家財道具も何もなく、客は借金取りしかいない、薄暗い部屋に。

 甘いのかもしれない。だが、俺はそこまで人でなしにはなれない。


 頭の中では婆さんの言葉がぐるぐると回っていた。


(あの母親の元に戻したらいけんよ)


 そう言われてもな・・・というところだった。


 俺は里琴の母親に一度しか会っておらず、その人物性については判断しようがなかった。ただ、その第一印象は、婆さんの言葉もさもありなんと思わせるものではあった。多少の誇張はありそうだが、あの婆さんが言っていることは概ね合っているのだろう。


 とはいえ、俺が扶養義務を負わされるいわれはないが――。


(どうか、あの子を救ってあげてください)


 救う、か。

 そもそも里琴は俺にSOSのようなものを出しているだろうか。分からない。

 もしそうだとしたら、一体どうすれば彼女を救えるのだろう。



「ただいま」


 言ってから気がついた。家に帰るときに「ただいま」と言うのは何年ぶりだろう。里琴はどうだっただろう。あの薄暗いアパートに帰るとき、ただいまと言える人は存在したのだろうか。


 考えているのもつかの間、家の奥から「とととっ」という足音とともに里琴が現れた。彼女はそのままの勢いで俺の胸に飛び込んできた。いや、身長差のせいで、胸に飛び込むというよりは、ラグビーのタックルのような態勢ではあったが。思わぬ歓迎に俺は戸惑うばかりだった。なんだこれは。愛犬か。


「先生!おかえり!」

「お、おう。どうしたんだ一体。・・・泣いているのか?」


 里琴は俺に抱きついたまま、肩を震わせていた。


「体調が悪いのか?それとも、ケガをした?」

「違う、違うの」

「じゃあ、どうして」

「ごめんなさい・・・」

「ええ?」

「先生ごめんなさい。ごめんなさい・・・」


 俺はいよいよ戸惑った。留守中に、里琴が何か謝らなければいけないことをやってしまったのだろうか?


「何があったんだ?」

「あのね。なかったの。何もなかったの」

「何もなかった?・・・なら泣く必要ないじゃないか」

「でもね。リコ、先生が帰って来ない気がして」

「・・・」

「リコが勝手にお掃除したりしたから、先生がリコのことを嫌いになっちゃったのかと思って。だから、もう先生がずっと帰ってこないと思ったの」

「そうか・・・」


 「いや、ここは俺の家だから」という答えを飲み込み、俺はポンポンと里琴の頭を叩いた。


「心配しなくていい。嫌いになることはないから」

「本当?」

「ああ」

「嬉しい!・・・そうだ、リコ、先生に見て欲しいものがあるんだ」


 里琴は俺から身体を離し、とととっと家の奥に駆けていった。スカートの裾がひらひらと風に舞う。今日の里琴はワンピースを着ていた。


「来て来て。ここに座って」


 俺はソファに座らされた。ルンバはすでに掃除を終えたようで、自分の定位置に戻っていた。その横には里琴ご自慢のスティック掃除機が、仲良く立てかけられている。


「何が始まるんだ?」

「ふふふ。では見ていてください。じゃーん!」


 里琴は何かを企んだような笑顔で、一気にワンピースの裾をまくりあげた。


「ちょ・・・!」


 俺は目を見開いた。ワンピースの下には当然パンティが・・・と思ったが、里琴が履いていたのは下着ではなかった。紺色の何かを履いている。


 里琴は続けてワンピースを首から脱いでいった。俺の心臓は早鐘を打ったが、ワンピースの下は裸でも下着でもなかった。「4ー3 後藤」というゼッケンをつけた、白いシャツを着ていた。


「体操着・・・?」

「えへへ」


 里琴はぐるりと回った。


「下は学校の水着を着ているんだ。上は体操着で、下は水着」

「・・・」

「こうすれば、ブルマ?みたいでしょ?」


 里琴は床に体操座りになった。


「先生の参考になるかな、って。小説に必要なんでしょ」

「あ、ああ・・・」

「写真、撮ってもいいよ?」


 里琴は脚を抱え、ピースサインをした。当たり前だがスクール水着はブルマよりも肌に密着しており、そしてこの水着は身体に対して少し小さいようだった。俺は目を反らし、ゴホゴホと咳払いをした。


「大丈夫?風邪?」

「いや、ちょっと。里琴ちゃんも風邪引かないように服を着たほうがいい」


 俺はとりあえず里琴を正面から見ないで済むよう、ソファからマッサージチェアに移動した。スイッチを押してから、故障していることを思い出す。


「あ!その椅子!動かなくない?」

「ああ・・・」

「リコもさっき試してみた。やっぱり動かないよね?」

「そのようだな。まあ、それはいいから。早く服を着なさ」

「そうだ!!先生、このソファーに寝て!早く!」


 里琴は俺の腕を引っ張り、ソファにうつ伏せに寝かせた。


「はーい、乗りますね。ちょっと重いですけど我慢してくださーい」

「ぐふっ」


 里琴は俺に馬乗りになった。


「マッサージハウス・リコへようこそ!・・・お客さん、今日はどのへんが凝っていますか?」

「・・・どこも凝っていない」

「遠慮しないでください!お金なら大丈夫ですよ!開店キャンペーンで、今日はタダなんです。言わないなら、勝手にくすぐっちゃいますよ!」


 里琴は俺の脇腹に指を這わせた。


「ぐふっ、わ、分かった。背中が、背中が凝っている」

「背中ですね!このへんですかあ?」


 里琴は親指で俺の背中を圧していく。とんとんとまな板を叩くように手刀を入れたり、子どもながらなかなかバリエーションに富んでいる。


 俺に娘がいれば、こんな風にマッサージをしてくれたのだろうか。そして、里琴にもお父さんがいれば、こんな風にマッサージをしてあげたかったのかもしれない。


 そうか。

 俺と里琴は、足りないものを補い合っているのか。


 マッサージの気持ちよさも相まって、俺は深い眠りに落ちていった。

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