表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/56

#14 朝 ③


 食事が終わり、俺はパソコンに向かった。零細作家の宿命で、次作のアイデアを次々と出していかなければならない。里琴の処遇は、仕事が一段落ついてから行動に出るつもりだった。


 今回の仕事は、コミカライズを視野に入れていた。編集部から与えられた条件は「主人公はお姫様」というものだった。


 お姫様・・・どんな属性が良いだろう?橘くんが鼻息荒く語っていたことを思い出す。


「やっぱ主人公は大人じゃダメです。小学生ですよ!小学生ものはウケがいいんですよ!日本人みんなロリコンですから!」


 ・・・とりあえず10歳ぐらいのお姫様が現代にタイムスリップしてくる話にするか。


 タイムスリップものの定番として、主人公には現代とのギャップに驚き、そして時に滑稽な行動を取ることになるだろう。たとえば、どこかの家に居候をして、そこの娘とケンカしたり、打ち解けたりしながら小学校に通わせるとして・・・。


 そういえば、と、俺は橘くんの打ち合わせを思い出していた。


「衣装はね、体操着を出して欲しいんです。」

「体操着・・・」

「ふふふ。ブルマ、です。ブルマ!」

「・・・」

「日本の男たちはブルマ大好きですから!とりあえずブルマ出しときゃ文句ないですから!鉄板ですよ鉄板!ブルマ!スク水!温泉!最近のアニメはこれが三種の神器ですから!」


 あの時の橘くんは、鼻息どころか鼻血を吹き出しそうな勢いだった。


 しかし、よく考えると現在の小学生はブルマなんて履いていないだろう。俺が小学校の頃ですら、体操着はハーフパンツだったわけで。そもそもブルマって、どんなものだっけ。


 俺はブラウザに「ブルマ 小学生」と打ち込み、画像検索をした。数秒もしないうちに、小学生のブルマ画像がブラウザを埋め尽くす。その光景は、なかなかに壮観であった。運動会の風景、ドラマか何かのキャプチャ画像、そして明らかな盗撮画像。


 ただ、どの画像も古いようだった。この令和の時代にブルマを使っている小学校があるとは思えない。橘くんの要請はマーケティング的には当たっているのかもしれないが、設定としてはどうなのだろう・・・俺はしばらく頭をひねった。

 現代の小学生が、ブルマを履くようなシチュエーション・・・。


 そうだ、こうすれば――。


(ぶおおおおおん)


 なんだこの音は?

 ・・・何を思いついたか忘れてしまった。


 そうだ。ブルマだ。令和の時代の小学生にブルマを履かせる方法。それは――。


「ぶおおおおおおん!」


 突然ドアが開き、爆音がした。

 驚いて後ろを見ると、里琴が床に掃除機を掛けていた。爆音の元は、その掃除機だった。


「じゃーん!お掃除の時間です」

「ちょ、ちょっと」

「ええ!?なに?」

「止めてくれ。掃除機を止めて」

「へぇ?いいでしょ、この掃除機!」


 爆音で聞こえなかったのか、里琴はすいすいと掃除機を動かした。電動工具メーカーが出しているコードレスのもののようだったが、パワー重視なのか、普通の掃除機の数倍の爆音を発していた。


「掃除はしなくていい。掃除機はルンバがあるから・・・」

「なんでも吸い込むんだ!」


 里琴は掃除機を縦横無尽に動かした。と、ベッドの下に置いてある段ボール箱に掃除機があたる。「資料」が入っている段ボール箱だ。俺はさりげなく資料と掃除機の間に身体を入れ、里琴をそれ以上進ませないようにした。


「どいて先生。邪魔だよ?」

「掃除はもういい、止めてくれ」

「ほら、そこにもほこりが!」

「聞いてくれ!」


 俺は掃除機を奪いスイッチを切った。


「この辺は掃除しなくていい」

「なんで?ベッドの下とか、ほこりが溜まりそうだし」

「いや、その・・・仕事道具とかがあるから。壊れやすいものとかもあるから」

「ふうん・・・」

「そ、それに掃除機も自動で動くのがあるんだ」

「自動?」


 俺はルンバのことを説明した。


「うそ!見たい!」

「時間がくれば自動的に動き出す」俺は時計を見た。「あと30分ぐらいかな」


「うわぁ、楽しみ!じゃあ、床の掃除は止めて、はたきだけ掛けておくね!」


 里琴はPCにはたきを掛けた。その拍子にマウスが動いたのか、ディスプレイがスリープ状態から復活し、画面が映し出された。


「小説を書いていたんですか?」

「まあな」

「・・・やだ、何これ!」

「・・・!」


 いかん、と思った時はもう遅かった。

 画面にはブルマを履いた小学生が、思い切り映し出されていた。しかも、間の悪いことに体育座りで、明らかに「狙った」アングルの写真が。


「こ、これは違うんだ」

「リコ知ってる!これ、昔の体操着だ・・・」

「そ、そうだ。昔のやつ」

「すごい短い・・・こんなの着てたんだ・・・パンツと同じじゃん・・・先生、こういうのが好きなの?小学生が好きなの?」

「好きじゃない。これは小説の参考資料だ」

「参考資料?」


 嘘ではなかった。俺は次作に取り掛かっていること、その話ではお姫様が現代にタイムスリップをしてきて、現代の体操着を初めて着るのだと説明をした。


「俺は女子の体操着をよく知らないからな。細かい部分は実物を見ないと」

「ふーん・・・」

「なるほど、こうなっているんだな。うん、もう分かった」


 俺はさりげなくブラウザを閉じた。


「でも先生。そのお姫様は、今の時代にタイムスリップするんでしょう?」

「ああ」

「だったら、そんな体操着は着ないと思うよ。今は、もっと長いズボンだから」

「・・・そうだな。・・・ところで、こっちの部屋を掃除してみないか」


 俺は里琴を仕事部屋から追い出した。いずれにせよ、これでは仕事にならない。予定変更だ。


「このテレビの裏、ルンバが入れないからほこりが溜まっていてね。その掃除機があれば綺麗になるんじゃないか」

「任せて!絶対綺麗にする!」

「お願いするよ。・・・その間、ちょっと先生は出かけてくるから」

「え?リコも行くよ。掃除はあとでもいいし」

「いや、里琴ちゃんは・・・ほら、ルンバが動くところを見ておいて欲しいし」

「あー・・・。そうだね!じゃあちゃんと見ておく!いっしょに掃除もしておくね!」


 里琴は掃除機の先で、ルンバをつんつんと突いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ