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#13 朝 ②

「先生!朝ごはんまだでしょ?」

「あ、ああ・・・」

「いま作るから、そこに座って!冷蔵庫に卵が2つあったよ!目玉焼きでいい?」


 里琴はタオルで手を拭き、シンクの下からフライパンを取り出した。昨晩の肉じゃがの残りでも食べるつもりだったのだが、てきぱきとした里琴の動きに言い出すタイミングを逸してしまった。


「このベーコン、使っていい?」

「ああ・・・どうぞ」


 だいぶ前に買ったベーコンだったが、里琴は「すごい、ウチで食べてたのと全然違う」と、嬉しそうに包丁を入れていった。里琴は俺の視線に気づき、ばつの悪そうな表情を浮かべた。


「ごめん、先生が寝てる間に包丁とか、お鍋は見させてもらったの」

「いや、それはいいんだが」


 里琴はきっと驚いたことだろう。なにせ、ほとんど使われたことがない鍋や包丁ばかりなのだ。


 里琴はフライパンでベーコンを焼き始めた。油が熱され、肉が焼ける香ばしい匂いがただよう。続いて片手で卵を割り、フライパンに落としていく。ジュウっと肉汁と油が弾けたが、すぐに音が小さくなる。里琴がフライパンに蓋をかぶせたのだ。


「これで良し。あとは待つだけだよ。お皿はどれを使う?」

「あ・・・えーと」


 俺は立ち上がり、食器棚から皿を取り出した。すっかり里琴のペースに乗せられてしまっている。


「お皿、ここに置いて」

「は、はい」


 俺が差し出した皿に、里琴がハムエッグをよそう。数分後、俺たちは向かい合わせにダイニングテーブルについていた。


「いただきます!」

「い、いただきます・・・」


 里琴を正面にするのは何だか気恥ずかしく、俺は目線を上げられない。目玉焼きをつつくと、黄身が溢れ出した。見事な半熟だった。


「本当は食パンがあればいいんだけど。なかったから」

「パンはあまり食べないからな」

「そうなんだ。朝ごはんはどうしてるの?」

「食べないことが多い」

「ダメだよ!食べないと!・・・ん!んん!んんん!」


 里琴は突然目を見開いて、目玉焼きを凝視した。


「どうした?」


 まさか喉をつまらせたか。俺は席を立ちかけた。


「お、美味しい!」

「・・・・」

「この卵!何?」

「ああ、これは・・・」


 卵は、宮崎県の卵だった。ホットクックのミールセットにお試しクーポンが付いていたので頼んでみたのだが、自分で料理をするのも面倒なので放置していた。賞味期限を切れたら、そのまま捨てることになっていただろう。


「もったいない!で、そのミールセットって何?」


 俺はホットクックの説明をした。料理は材料を入れるだけで自動的に出来上がるのだと、ちょっと自慢げに話した。


「ふーん」

「それなりに美味しくできる」

「でも、それって・・・なんだか、つまらないね」

「つまらない?」

「だって、それだと失敗がないじゃん」

「失敗なんて、ない方がいいに決まっているだろ」

「そうかなあ」


 俺は里琴が言っていることがよく分からなかった。


「失敗があるから、次にちゃんとやろうとか、もっと美味しくなるようにする。そういうのが面白いんじゃん。リコは、失敗は面白いと思うよ。・・・あ、このベーコンも美味しい!」


 里琴はベーコンに黄身をたっぷりと付けて口に運んだ。


「ねね。こうやって卵をつけて食べると美味しいよ」

「・・・あいにく、俺は目玉焼きは堅焼き派なんだ」

「堅焼き?」

「目玉がカリカリになるぐらいしっかり焼くってことだ」

「ふーん・・・」


 里琴はちょっと悲しそうな顔になったが、すぐに笑顔になった。


「じゃあ、次は堅焼きだね!楽しみ!」


 里琴は「そうだ!」と、パンっと手を叩いた。


「これだよ先生!これが失敗の面白さだよ!先生も次の堅焼き目玉焼き、楽しみになったでしょ?」

「・・・別に」


 里琴は目を輝かせ、堅焼き挑戦に闘志を燃やしているようだった。

 黄身のついたベーコンは、風味の豊かさを増した。

 失敗は面白い、か。

 俺がひとりごちると、里琴が口の端に卵をつけたまま「ふぇ?何?」と、聞き返す。


「何でもない」


 俺はしかめっ面を作り、ベーコンに卵をたっぷり付けた。

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