表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/56

#12 朝 ①

 遠くで水の音がしていた。


 なんだろう。滝だろうか。結構な量の水が地面を叩くような。そんな音が遠くから聞こえる。

 俺はその音の原因を確かめるため、そちらに歩こうとした。が、足に力が入らない。そうこうしているうちに、滝の音が大きくなってくる。止めなければ。なぜか俺はそう思い、もがいた。だが手足をいくらもがこうとも、前に進めない。滝を、滝を止めなければ・・・。


 はたと目が覚めた。


 夢、だったか。


 俺は頭を振った。いつものベッドではなく、なぜかソファに寝ていた。寝落ちしていたのだろうか。硬いところで寝ていたせいか、ひどく背中が痛んだ。


 それにしても妙な夢だった。夢の中の俺は、滝を止めなければならないと、なぜか強く思っていた。遠くから滝の音が聞こえてきて・・・。


 と、そこで気がついた。

 滝の音は、まだ続いていた。夢から覚めて、現実世界だというのに。


 そして、その音は滝ではない。間違いない。シャワーの音だ。

 しまった!

 俺はソファから跳ね起き、浴室にダッシュした。前にも水を出したまま寝落ちしてしまい、あわや下の階に浸水させそうになった前科があるのだ。


 俺はよろけんばかりの勢いで、浴室のドアを開けた。すると、誰かが浴室にいた。


「キャー!」

「う、うわ。あああ?」


 そこにいたのは、女の子だった。悲鳴をあげた女の子は裸でシャワーを浴びていた・・・わけではなく、ちゃんと服を着ていた。おまけにエプロンをつけ、頭にはバンダナも。手には風呂掃除用のバススポンジが握られていた。


「先生!びっくりした!・・・おはようございます!」

「あ、ああ・・・お、おはよう」


 寝ぼけていた頭がようやく回転し始め、俺は昨日の出来事を思い出していた。そうだ。里琴だ。里琴が転がり込んできて、彼女がベッドを占領していたから、自分はソファで寝ることにしたのだった。


「何をしているんだ?」

「掃除!お風呂が汚れているみたいだったから!」


 風呂には塩素系洗剤の臭いが満ちていた。確かに風呂掃除はここ数ヶ月さぼっていたような気がする。「こすらず落ちる洗剤」というのを信用し、風呂釜をこすることもなかった。


 里琴は慣れた手付きで風呂釜を磨き上げていく。


 そういえばオーディションでも、里琴は掃除が好きだと言っていた。あれは本当だったということか。


「ソファで寝ていたの?」

「ああ・・・」

「なんで?」

「なんで、って、そりゃ」


 一緒のベッドで寝るわけにはいかないだろ、と言い掛けてやめた。その前提知識を説明するのは、あまりに面倒くさい。


「ベッド大きかった!あのベッドなら、二人寝られるよ!そうだ、今日は一緒に寝てみよう!」

「・・・いずれな」


 俺は逃げるようにリビングに戻った。背中をほぐすため、中古のマッサージチェアに座る。リビングの隅に追いやってはいたが、全身をほぐしてくれる優れものだった。俺は「全身 強もみほぐし」のスイッチを入れた。


「・・・」


 動かない。マッサージチェアはうんともすんとも言わなかった。プラグはコンセントに差し込まれている。スイッチを強く押し込む。やはり反応がない。壊れたということか。

 おまけに「もみ玉」が妙な位置で止まっており、背をもたれかけると余計に背中が痛んだ。くそ。昨日からイレギュラーなことばかりだ。


 イレギュラーといえば、最大のイレギュラーである里琴をどうするか考えなければいけない。俺はダイニングテーブルに肘をついた。テーブルの真ん中には「みーちゃん」が置かれ、まるでずっと前からそこにいたかのような存在感を誇示していた。里琴は本当にここに住むつもりなのかもしれない。


 なんとかしなければならない。だが、どうすれば・・・。


 そんなことを考えていると、里琴が浴室から顔を覗かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ