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第七話 盗んだ

「ナオトは、どうやって神剣に選ばれたの?」



 旅の途中、ふとゆりの口をついて出たのは、なんてことはない疑問だった。

 この世界に来てからまだそれほど日が経っていないが、ドーミオ達はゆりに色々なことを教えてくれた。ブリアー自由諸国連合の成り立ちや地理、宗教、経済、一般常識など。その中でふと浮かんだ軽い興味だった。



 ――神剣オスティウス。


 伝説の勇者のみが持つことを許されるというその聖なる剣は、決して歯零れせず、どれだけ血に濡れてもその輝きが曇ることはないという。エメは、ナオトのことを「神剣に選ばれたから勇者」と言っていた。



「ん~、盗んだ」

「へ?!」



 あまりに突拍子もないナオトの答えに、思わずゆりは間抜けな声を出してしまう。


「盗んだって、どういう……」

「神剣は、元々教会が、聖遺物として管理、してた」


 エメが特に面白くもなさそうにそう答えた。

 通常この世界で「教会」と言えば、豊穣の女神サーイーを信仰する一神教のことを指すと、ゆりは三人から教えられていた。

 エメはその「教会」に属しており、特殊な任務を請け負う部署に所属しているそうだ。特殊な任務という言葉の意味は、なんだか触れてはいけない気がして聞けなかったけれど。



「ここからけっこう東にアルバスの丘っていうところがあってさ。そこの神殿の中にでっかい岩があって、コレが刺さってたの」



 アルバスの丘にある神殿は巡礼地として観光名所にもなっているらしい。拝観料を払えば誰もが自由にその岩に刺さった神剣に触れることを許されていたそうだ。


 ナオトは女神の加護が宿るというありがたい神剣をコレ呼ばわりしつつ、ヒョイと軽く片手で振り回してみせる。


  ゆりはそもそも剣を初めて目にしたので、果たしてそれがすごいものなのか全くわからなかった。特に飾り気のない一見シンプルなその剣は、ただなんとなく、獣の時のナオトの毛並みのように白金に輝いて見えたので、きれいだな、と思っただけだった。



「誰も抜けなかった神剣を、ナオトが、抜いた。だから、ナオトが、勇者」

「高そうだから盗んで売っ払おうと思ったのにさ~、教会がギルドに賞金までかけて全力で追っかけてきたからマジビビったっつうの」

勇者おまえ以外には持ち上げることもできねえ剣を、どこの誰が買い取ると思ってたんだよアホ」



 神剣は、選ばれし者――つまり勇者――だけが引き抜くことができると言われていて、実際にこれまでの歴史で数え切れないほどの強者、力自慢、そうではない一般の巡礼者や観光客もが皆がチャレンジしたものの、誰もそれを成すことはできなかった。更に、ナオト以外が抜き身のその剣を手に取ろうとしても、鉛のように重く、持ち上げることすら叶わないのだとか。


 イギリスの方のアーサー王伝説に似たような話があったなあ、とゆりは思った。



「いやまさかあんなにあっさり抜けるとは思ってなかったし。しかめっ面してる教会の連中を驚かせたら面白いかな~と思って、ほんの冗談のつもりだったんだけど」

「つまりナオトは冗談で勇者になってしまったの?」

「ん? まあ、そうだね」

「へえ……」



  まさに破天荒。


 ナオトは言動は滅茶苦茶だが、常人にはできないことをやってのける何かを持っているのだろう。勇者がどういうものかはよく知らないけれど、ナオトは確かに稀有な存在なのだとゆりは納得した。


「ま、勇者になって魔物討伐っていう使命?はできちゃったけどさ、元々ギルドで似たようなことはやってたし、衣食住は教会が面倒みてくれるし。何より女の子にモテるから、まーいいかなって」



 ――実にナオトらしい理由だった。




 今日の旅路も、これまでと同じようにドーミオが先導し、ナオトがゆりの隣に並び、その少し後ろにエメが音もなく続く。時折ナオトがゆりに「補給~」と言いながら抱きついてくるのも相変わらずだった。


 途中で川を渡らねばならない場面があったが、ゆりを抱えたナオトが数メートルはあろうかという川幅を事も無げにぴょんと片足跳びにしてしまった時はぎょっとした。

 男達は軽口の中にも周囲に対する警戒を怠ってはいなかったが、幸いここまで魔物が出ることはなく、ゆりのスピードに合わせるようゆっくり歩を進めてくれているのがわかったので、その気遣いがゆりには嬉しかった。




 それからややあって。


「……?」


 ゆりはふと、風に漂う違和感に立ち止まった。

 上手く言えないが、空気が淀んで、まとわりつくような……とにかく、気持ち悪い感じがする。


「あの、なんか、変な感じしませんか」

「どうした」

「なんか、空気がベタベタする……」

「オッサン! この先!」


 ゆりの台詞とほぼ同時、ナオトが進行方向へ耳をぴん!と立て、声を上げた。


「ギルドの情報よりまだ手前だぞ! 新手か!?」

「いや、火炎蜥蜴(ファイヤサラマンダ)。オレたちの獲物だよ」


 ニィッ。


 ナオトが、ぞくりとするくらい美しく、凶悪な笑みを浮かべた。黄金色の瞳がぎらぎらと輝いて存在を主張する。


「ちょっと先行ってるわ」

「おい、ナオト!」


 ドーミオの制止も聞かず、ナオトは常人離れした跳躍力で大木の枝に飛び乗ると、そのまま軽々と木々を渡り、あっという間に見えなくなってしまった。


「クソッ! 戦闘狂がっ。――追うぞ! ゆりはエメと後から来い!」


 ドーミオはゆり達を一瞥して短く指示を出すと、大斧に大鉈、金属製の胸当てというかなりの重量の装備をものともせず、ナオトが消えた森の奥へと走り去った。

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