おばちゃん、お姫様になる夢を見る
~おばちゃん、半信半疑~
自然と目が覚める感覚を久しぶりに味わった。
痛みや何かの音、衝撃に驚いて、というわけではなく本当に自然と目が開いた、という感覚にちょっとした満足感を覚えたが、痛みやだるさもなくまるで病気になる前のように楽に上半身を起こせたことに逆に違和感を覚える。
そして悟ってしまった。
「あぁ、私、今日お迎えがくるのかしら…」
闘病中の身としては、これで楽になれるのかという安堵感と思い出される後悔や寂しさが綯交ぜになった不思議な心境、言い表せるものではないがこれを分かち合えるものもいない。
病名は子宮がん。そこから肺に転移し最早手をつけるわけでもなく緩和ケアを受けて余命宣告もあと数日で迎える頃合い。
元々見舞いに来る誰かがいるわけでもなく、相部屋の中でベッドを区切るカーテンが私のために開けられることはない。せいぜい担当の看護師や医者が様子見や検温に来るくらいだ。
心残りの一つとしては、離婚と同時に別居になった息子くらいだろうか。
今年で高校を卒業する年頃だろうが、幼い頃に離れてから今まで会うことさえ出来なかった。
私のことなど、とうに忘れているだろうか。
もしかしたら、恨んでいるかもしれないが恨まれてでもその心に残れているのならと、思ってしまうあたり良い母親では決してないであろうな、と自嘲しため息をついてしまう。
そういえば、今は何時くらいだろうか。
周囲を見回せばまだ薄暗いように感じたが、それはすぐに違和感となる。
いや、暗いのではなくカーテンが光を遮っているだけのようで隙間からは眩しいくらいの光が細く差し込んでいた。
ちょっと待て。
病院のカーテンってこう、クリーム色で薄い生地で、こんなにしっかり遮光性があるような物ではないはず。
私は恐る恐る光が差し込んできているカーテンの隙間に指をかけると、出来るだけゆっくり開こうとしてその重たさに思わず手を引っ込めた。
それと同時に恐ろしいほどの手触りの良さに頭の中が混乱を訴え始める。
「…お、おぉ?」
最早意味のある言葉など発することは出来ずに、もう一度ゆっくりそのカーテンに触れてみようとして、今度は外側からそのカーテンが揺らされ驚いて体ごとカーテンから離れた。
「どうかしたの?」
カーテンの向こう側、少し離れた位置であろう場所からの声が先に聞こえ、あとから
「いえ、天蓋が少し動いたように見えまして…」
と、今度はすぐそばから声がする。
「まさか、姫様がお目覚めになることは…医師もそう仰っていたでしょう…?」
少し離れた場所の声が近づいてくる。
「私も、もう一度姫様の笑顔が見たいと何度願ったことか…」
声は続きながら、すっとカーテンの隙間が大きくなる。
このまま隙間が完全に開ききってしまうことへの恐怖が先に立ち、身を隠すように掛け布団を手繰り寄せる。しかしいくら引っ張っても掛け布団は手繰り寄せられず、力も弱くなってしまったのかと頭の何処かが変に冷めていく。
音もなく、ゆっくりと開かれたカーテンの向こうはまばゆい光に溢れており、それを遮るように二人分の影がある。
息を呑むような、正に愕然をその身で表現する影に、いや、私のほうが声を上げて驚きを表現したいんだが、とどこか冷静な私が脳内で言うと同時に、片方の影がカーテンを全部一気に開け放った。
それと同時に片方の、カーテンを開ききった方の影が踵を返し走り去っていく。
「誰か!陛下に!!陛下に火急の知らせを…!!」
まるで叫ぶように、走りながら人を呼ぶ声が遠のけば、もう一つの影が身を乗り出して近寄ってくる。
「あぁ、あぁ、姫様、お目覚めになられたのですね…!お加減はいかがですか、あぁ、お痛みは?どこかお辛いところなどございませんか⁉」
その勢いに驚き声が出せずにいれば、
「いかがされました!?あぁ、まだお加減がよろしくないのでしょう、さぁ、ご無理はせずお辛いのなら身体を横に…」
「待って、お願いちょっと待って!!」
ぐいぐいと布団の中に押しやろうとする手を押し戻そうとして、両手を出せばなんというか…なんだこれ。
両掌を相手の両掌と合わせ、大きさの差に頭は疑問符しか出てこない。
「…ずいぶん、大きな手」
こぼれた言葉に影、いや、やっと目が明るさに慣れて見えた相手は20代の…中頃だろうか、明るい茶髪にグリーンの瞳の女性だった。
さすがに看護師さんでその茶髪とカラーコンタクトはいただけないのでは…なんてどこか、少なくとも今は場違いな方向から脳内に声が落とされて、ゆっくりと首を傾げていけば、それはそれは優しそうに、嬉しそうに、涙をこぼしながら彼女は言うのだ。
「姫様の手が、お小さいのですよ」
と。
「姫様…?小さい…?」
合わせていた掌を、今度は自分に向けてまじまじとみつめ、目の前にある、確かに私の意思で動かしている手がまるで子供の手のようだと気がついて、折りたたんでいたままの脚を伸ばしてみる。
うむ、子供の足のようだ(予想通りだ)と一人でうなずき、いや、違うそうじゃない、と自分が混乱していたことを思い出し、いや、今も混乱しているんだが、と結局は混乱しており訳がわからないことに呆然とし始めた頃、重たい扉が開くような音がして、複数の足音が近づいてきた。
「エフィレーディア!!」
こちらに近づいてきたと思えば力強く抱き寄せられ、一瞬熊かと思った相手が壮年の男性だとわかり、おおぉ、ちょっと待ておばちゃん独身だけどいけないわ、人が多いところで、なんてパニックを通り越した脳が正常な思考回路を遥か遠くへぶん投げてくれて一周回って自由落下を始め不時着を諦めようとしていく。
「あぁ、愛しのエフィ、なんということだ、またこうしてその瞳を見ることが叶うなんて」
不時着を諦めた脳は最早落とし所を見出すことが出来ないらしく、あら、でも待って今私小さいようだし、この熊…いやこの男性ひょっとして幼児趣味…などと失礼極まりないことを考え始める。
このときすでに、自分の体が小さいことを脳内は認めているようなのだが、多分状況を飲み込めていないだけでまたぶり返して騒ぐんだろうなぁ、とさらに遠くの方で静観を決め込もうとしている冷静な私を手繰り寄せて、どうにかこうにか現状を打破しようとして、
「コレは夢だ」
と、脳内の全員一致で目が覚めるまで楽しもうと決めたのだ。
の、だが、おいおいと泣き叫ぶ熊、もとい壮年男性に抱きしめられ流石に呼吸が出来てはいるが楽ではない状況に困っていると、壮年の熊の後ろから金髪イケメン予備軍が声をかけてきた。
「父上、そろそろエフィをお離しください。私も妹の顔が見たいのですよ」
と、言うわけで、なるほどこの熊は父親か、良かった幼女スキーではなかったのだな、うむ、と安堵しつつ金髪イケメン予備軍を見る。年齢的には中学校の一年か二年か、幼さは若干残るが頬のラインに少しずつシャープさが現れ、まさに少年と青年の境目といった感じの頃合いで、うむ、イケメンである。脳内全員可決である。
しかしながら、この金髪イケメンは先程私に対し妹と申されたわけで、なんと兄弟がこんなイケメンとかあらぁ、おばちゃん約得だわぁ、こんな夢も楽しくていいわねぇ、なんて呆けていると、多分こやつ、大人になれば相当のたらしになるな、という笑顔を向けてきた。
「あぁエフィ、おはよう、ずいぶんと長いお昼寝だったね…」
と、私の頭を撫でてきた。
撫でられて、ふと落ちてきた長い髪が視界に入る。ぼさぼさではあるが美しいと思ってしまう金色を自分の手でつかみまじまじと見入ってしまう。
「あぁ、そうだね、エフィも女の子だもの、身なりを整えていないのに人に囲まれたら恥ずかしいよね」
と、金髪イケメンが少し離れて、先程のグリーンの瞳の女性に目配せをすると同時に、今度は白ひげを携えたおじ様が部屋に入ってきた。
その時にやっと気がついたのだが、カーテンの外側はいかにも西洋風の貴族のお部屋ですと言った豪奢な装飾で囲まれており足元のダークブルーの絨毯は毛足も長く高級そうだ。
こんな細かい部屋の作りまで、私の夢ってば素晴らしいわ…
などと思いながらベッドのすぐ側まで来た白ひげのおじ様を見上げると
「姫様、失礼をいたします」
と、言いながら顔に触れ、目を覗き込み首元の脈に触れ、としてくるので、あぁ、医者っぽいなぁと一人で納得する。すると、熊、もとい父が様子を訪ねてくるので白ひげは一つ頷き、
「まさに、奇跡、神のお導きとしか言いようがありません」
と、応え「もう大丈夫でしょう」と目を細めた。
触っただけで病状がわかるのか!!と突っ込みたい気持ちをどうにか抑え、その顔を見つめると、
「瞳の奥、そしてお体から出ていた病の瘴気が欠片も見当たりません。姫様の気力と魔力が病を討ち倒されたのですな」
頷きながら言うおじ様に後ろにいた熊と金髪イケメンと元影その1、その2が歓喜に湧いた。
「あとは姫様が体力さえ取り戻されれば、すぐにお元気になられるかと」
それから、元影その1その2と同じ所謂クラシカルメイド服を着た女性が5人増え、湯浴みだ、着替えだと右往左往し始めた。
「姫様はもう1年も眠っておられたのですよ。私の顔は覚えておいででしょうか…?」
と、先程火急の知らせをと走って行った方の元影、もといメイドが声をかけてくる。
「…えぇと、ごめんなさい、その、お名前が…」
日本人特有のはっきり覚えておりませんと言えない私は「あなたのことは覚えているんだけどお名前が…」作戦を敢行することにした。
「私、ジェサーシアでございますよ」
と、名乗られその響きが昔妹と遊んだリサちゃんドールというお人形家族を思い出した。
思い出しただけではなく、
「まるでジェシーみたいね」
と、うっかり声に出していたようでそれを聞いたジェサーシアはその目に涙を溜め始めた。
「まぁ、まぁ姫様!その呼び名を覚えていてくださったのですね…!」
なんと、運良くドンピシャで呼び名をクリーンヒット出来たらしい。うむ、さすが私の夢である。ご都合主義に感動と安堵を覚えているとそのジェサーシアはベッドの端に腰掛けたままの私の前で跪き、その頭を垂れる。
おぉう、私ってば本当に物語のお姫様みたいだわぁ、最後にこういう楽しい夢を見れてちょっと楽しいわぁ。せっかくの夢だし、ちょっと調子に乗っちゃってもいいかしらねぇ…などと考えながらニヤニヤ笑ってしまう。
「ジェシー、どうぞ顔を上げて。これからもよろしくね」
と、二十以上年上の相手に使うべきではない言葉遣いで言ってみる。そうすれば
「もちろんでございます、姫様!」
感極まって返してくるので、人に迷惑をかけない夢の中でならば良いわよね、うんうん、とお姫様気分を満喫することにした。
「ささ、姫様、まずは湯浴みをいたしましょう」
と、ジェサーシアに立たされ隣の部屋に連れて行かれる。
その部屋も絨毯ばりで奥には一人用の猫脚のソファとそれに向かい合うようにこれも猫脚の豪華な三脚で支えられた金縁飾りの大きな楕円形の鏡が置いてある。
あら、ここは着替えやメイクをするお部屋かしら、なんて思っていたら、左手側にあったカーテンをジェサーシアが開く。
そこには、どこのホテルのエクストラVIPルームですかと言わんばかりのお風呂が広がっていて、え、ひょっとして、この豪華なお部屋は脱衣所なの!?と、驚愕していた私に「失礼いたします」と、ジェサーシアは声をかけ着ていたシンプルなワンピースを脱がしていく。
まだ膨らみがしっかりしていない胸元、西洋の物語で定番のかぼちゃパンツがお目見えである。あらぁ、お腹も肌ツルスベだわぁ、と思っていればものすごい早業でかぼちゃパンツまで剥ぎ取られ流石に羞恥が募る。
「あ、ちょ、ジェシーさん、まっt」
言い終わらせてもらえず、浴場に連れて行かれてあとはお察しいただきたく、隅々までそれはもう丁寧に綺麗にしていただき足がしっかり伸ばせる湯船にホールインである。
ま、いいか、夢だし。夢だよね、お湯の感触とか温度とかものすごくリアルだけど夢だよね?
変な方向に不安になりはじめ、先程のお姫様気分を満喫どころではなくなり始めた。
「ねぇ、ジェシー、私、いま何歳になったのかしら…」
湯船に浸かった状態で振り向くと、ジェサーシアは湯船の淵で控えた状態ですぐに返してくれた。
「もうすぐ十一になられます。九つの終わりからお眠りになられており、今は十のお年を終わられる季節になっております」
「ありがとう」
返事をしながら十一歳かぁ、となんとなく考えているとジェサーシアが頷きながら
「いきなり十の年が過ぎていたとなれば、お寂しく思われるでしょうが、どうぞお気を落とされないでくださいませ…」
と、寂しそうな顔になるので意味がわからずきょとんとジェサーシアの顔を見つめる。
「姫様、十の年の成人の義を大変楽しみにされておられましたからね…」
「え、十歳で成人なの!?」
驚いてつい言い返してしまい、今度はジェサーシアがきょとんとする。
「左様でございますよ。神の子とされる九つを終え、ようやく人と成る日でございましたし…姫様、まだ混乱されていらっしゃるのですね…おいたわしや…」
最後には目尻を拭いながら教えてくれたジェサーシアになんと声をかけていいかわからず、とりあえず、
「ご、ごめんなさい…?」
と謝ってみる。
「いいえ、いいえ、姫様はお一人であのような強力な病の瘴気を打ち払われたのです。きっとお心がお疲れなのですわ!精一杯、姫様に健やかにお過ごしいただけるようご助力させていただきます!」
私の両手を包み込むように握ってくるジェサーシアの手の暖かさや力強さに、あ、これ、ちょっとリアルなんじゃないかなー…と、冷静に不安が立ち込めてきた。
お風呂から出ると、やはりお察しの通り全身丁寧にバスタオルで拭かれ、下着と真新しいシンプルな膝下丈のネグリジェを着せられると、ソファに誘導される。そして先程とは違うふわふわの本当に綿のようなバスタオルで髪を包まれると、なんと一瞬で髪が乾いた。
しかもドライヤーで乾かすときのように広がったりぱさついたりなど一切なくとんでもなく素晴らしい仕上がり。何このバスタオル現実にほしい。
そのまま今度は先程のベッドルームに戻ると、そこでやっと初めてみた部屋の全容に目と口を開いたまま塞ぐことが出来そうにない、まさに豪奢、という部屋だった。
ダークブルーの絨毯と、その色調に合わせた猫脚のソファ、先程の鏡の数段グレードアップした飾りの楕円形の姿見、壁面は落ち着いたターコイズブルーを基調とした上品な装飾、その壁面に沿うように並べられたテーブルは全て猫脚で統一され深い色合いの脚と象牙色の天板が色調を引き締めていた。
これはあれだ、中世ヨーロッパのものすごいお姫様のお部屋だわ、もう語彙が無くて言い表すことが出来ないのが大変悔しいくらいの、もう、すごい、すごいしか言えない。
呆けていると、四人のメイドたちが鏡の前でドレスやアクセサリーを用意して待機している。
後ろに立つジェサーシアに促されてそちらに向かうと、
「姫様は病み上がりでおられますし、お体にご負担の少ないドレスを選んでまいりました」
と、赤みがかった茶髪のメイドが頭を下げる。
そこにはオフホワイトのフリルブザムがアクセントになったダークグリーンのパフスリーブのアンクルドレスと同じくオフホワイトのクラシカルフリルの襟元が可愛らしいボルドーのアンクルドレスで両方共ウエストにリボンはあるが締め付けはなさそうだ。
ふむ、それにしても落ち着いた色合いが多いな…この年頃の女の子ならオレンジとかピンクとか持ってきても良さそうなのに…いや、私としては大変ありがたいチョイスなんだけれども。
うむ、と頷き
「今日はグリーンのほうがいいわ」
と、言えば即座に袖を通しやすいように動き始める四人。いやぁ、素晴らしいわぁ、正に仕事人だわぁ、かっこいいわぁ、と一人脳内で称賛を送り続けていれば、あれよあれよと言う間に着替えが終わり、背もたれのない猫脚のソファに座らされて髪をかるく結われた。
…ところで、この夢、どこまでリアル感強いのかしら…四割方、いや、五割、いや六割はリアルなんじゃないかなぁ、なんて思って現実逃避に近い感覚がし始めてまざまざと恐怖感が全身を覆い始める。
髪を結われる時のリアルな引っ張られる感じ、ドレスの肌触り、用意された靴の感触、そして床に立った時の感覚、一つ一つが「これは夢ではない」と警告を鳴らしてくる。
もしも、万が一、まさか、本当に夢ではないとしたら?
指先に触れるダークグリーンのビロードの感触が、まるで布地が私は上質なのよと訴えるかのように、ピリピリと伝わってきて、息を呑む。
もし、これが本当なのだとしたら、私は前世の記憶を持って、新しく生まれ変わったということ…?
正確には前世の記憶が目覚めた、というのか…無意識に口元を右手で多い考え込むと、ジェサーシアは心配顔で鏡越しに私の顔を見つめ返してきた。
「姫様、お加減がよろしくないのですか?湯浴みがご負担になったのでしょうか…?」
その声にハッと顔を上げ、鏡越しに見つめ返す。
夢だとしても、現実だとしても、こうして私のことを心配してくれる人がいる、その人達をこれ以上不安にさせてしまうのは私としては意に反する。
「ねぇ、ジェシー、私、あなたやここにいる方たちを裏切ってしまうかもしれないわ」
「何をおっしゃいます。私も、ここにいる他の者達も、陛下や他殿下方ではなく、姫様に忠信捧げさせて頂いているのです。何があっても、姫様がそれこそ遠くへ行けと仰っても、そのお姿を直に目にできずとも私共は姫様の臣でございます」
振れのない、芯のある声と言葉に私は目を瞬いた。鏡越しに、頷く他のメイドを見てつい眉尻を下げてしまう。
「あなた達、それではお父様やお兄様への不敬になるのでは…?」
「それでも!」と、ジェサーシアは続ける。
「姫様への忠信を捧げ首をはねられるなら、本望にございます」
と、言ってのけ、頷く四人を見て、肩を落とす。
なんてことを、と言いながら次の言葉を考える。
私への忠信を、とここまで言ってくれる相手でも「実は私、あなた達の姫様では記憶があって…」とか「前世の記憶が…」といって信じてもらえるかどうか…いや、その前に姫を騙る不届き者め、と私が首をはねられるかもしれない、それはよろしくない!うん!よし、何もかも忘れたことにしよう!
「その、私、眠っている間に、私の記憶を無くしてしまったようなの…その、色々なことを思い出せなくなってしまっていて…」
というと、ジェサーシア他四人のメイドは驚くと言うよりは心配を向けてくる。
「姫様…病の瘴気との闘いが姫様を蝕まれたのですね…」
「なんとおいたわしい…」
「ご安心くださいませ、私達が姫様に恙無くお過ごしいただけるようご助力致します!」
「そうです、いついかなる時も、私達の誰かが姫様のそばにおりますわ。」
と、口々に私達がフォローしますよと言ってくれて涙が出そうになる。
「お目覚めになられてから、以前のようなおてn…お元気では無いなと思っておりましたが、まさかそのようなことになっておられてたとは…」
ん?今、何かを言い直したよね、今お転婆って言いかけなかったかな?
「私達は姫様のわがm…天真爛漫さをいんぺ…魅力としてお伝えする精鋭でございますゆえ、どうぞお任せください!」
今絶対わがままを隠蔽って言おうとしたよね!?え、ちょっとまって?エフィレーディアってどういう子だったの!?
「あ、あなた達から見て、私、どういう性格だったのかしら…」
出来るだけ引きつらないように笑顔を保ちながら振り返る。
すると彼女たちは、
「姫様はたいそう、その、無邪気であられて…」
「こう、陛下や他殿下たちにあまやk…大変愛されておいでですので…」
と、目線を泳がせ言葉を選び始めた。
オーケー、わかった。つまりエフィレーディアは父親と兄にものすっごく甘やかされてワガママし放題の困った姫だったのね…
でも、それならばなぜここまでこのメイドたちはエフィレーディアに心酔しているのだろう…
こういう、その困った姫ってメイドや家臣に嫌われているものではないの?
いや、そういうものだろうっていうのも、私が病院のベッドで一人持て余した時間に読んでいたネット小説の知識ってだけなんだけど。
そうそう、転生物が大流行で悪役令嬢とか乙女ゲーム転生とか、ざまぁタグがついた小説を読みふけったものだわぁ…その数々の小説では剣と魔法の世界のものすっごく偉い貴族の娘に生まれ変わって、婚約者を平民の健気な少女に奪われるのよね。その中で現代日本の記憶を持った主人公の元悪役令嬢は、平民の少女と逆に仲良くなったり、追放されたあと逆に楽しく生き抜いたり、生まれ持った魔力で冒険者として強く生きぬい…て…
転生…?ワガママな悪役令嬢…?魔法がある世界…?
さっき、医者のおじ様が気力と魔力で病気に打ち勝ったとか、目や身体から病の瘴気が出るとか出ないとか…
「ねぇ、魔法って使えるものなのかしら…」
不安に思ったことを口に出してみる。
「まぁ、姫様!この国の全てのものは魔力を持っておりますもの、もちろん使えますわ!」
「姫様は特に、うちに秘めた魔力が潤沢なお方ですもの、きっと修練なされれば大魔法師だってすぐになれますわ!」
「大魔法師なんて甘いですわ、我が国の魔法師は姫様の足元にも及ばなくなりますわ!!」
ま、魔法使えちゃった!!この世界、魔法使えちゃうんだね!!
「そ、そうなのね…あ、じゃあ私、その、こ、婚約者とかっていたのかしら…」
「はい!イスタッド公爵家の次男アズベルト・ドゥ・イスタッド様がご婚約者でございます」
いたー!婚約者いたー!
これ、あれだわ!ワガママ姫の私が悪役令嬢でこのあと何歳かになったら国立の学園だかなんだかで平民出身の奇跡の少女とかいう子が出てきてそのアズ…なんとか君とくっついちゃうパターン!!私これ知ってる!!
そして私は何かしら断罪されて追放やら処刑やらされるやつだわ!!
「それはいやあああぁぁぁっぁっぁあああ!!」
気がつけば、悲鳴に近い叫び声を上げていた。