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ステップ1 異物混入①

「二回目だと多少慣れるわね」

「お嬢様結構図太いですからね」

「あなたは私をからかわないと気が済まないの!?」

「はい!」

「いい返事をしないで!」


ルイーザとエマが落ちた先……そこは屋敷の中だった。といっても、クライン家ではない。

全く関係のないどこかの屋敷の、厨房と呼べる場所だった。


しかしコックの類いは見当たらず、しんと静まり返っている。


「いきなり厨房に落とすとか……どういう了見なの?」

「たぶん……これでしょうね」


ルイーザが愚痴愚痴と不満を言っていると、エマが「やることリスト」と言う名の薄い本を広げた。


「ステップ1 異物混入……?」


ルイーザは怪訝そうにそれを見る。エマは嫌悪を露にしていた。


「まさかこれをやれって言うの?」

「そうみたいですよ」

「異物って毒物とかその辺よね?やんでれって……まさか殺しあいとかそういう……!」


ルイーザが語調を荒くしたとき、握りしめたままの変な機械がけたたましく音を立てた。二人してびくりと肩を揺らす。

丸いボタンを押すと、耳障りな声がする。



『ヤンデレ世界へようこそ!その調子だと落ちたのは厨房だね?』


「異物混入ってなんなのよ!私たちに何させようって言うの!」


『おおっと、二人揃って気が早いなぁ。ヤンデレ世界って言っただろう?ヤンデレに付き物な行動をしてもらうだけさ』


「は?だからそもそもヤンデレって何よ!」


謎の機械に怒鳴るが、萎縮する様子は見られない。マイペースに説明を続けている。

気のせいか、頭が痛い。


『んー?相手を好きすぎるってことだよー。好きすぎるあまり相手の食べるものに自分の髪の毛や爪をいれたりして、あぁあの子の体のなかに私の体が入ってるんだって思っちゃう。ステップ1、異物混入』


ルイーザは思わず顔をしかめた。隣でエマもドン引きしている気配がする。 


『毒物とかじゃないから安心してよ。とにかく自分のからだの一部を食べさせたらいいんだよー。そう書いてあるでしょ?』


エマがリストに目を落とした。


「……どちらかにどちらかの体の一部を食べさせる。書いてありますね……」


『まー、時間もあるし、飢え死にするわけじゃないからゆっくり考えなよ。でも、食べさせないとこの屋敷からは一生出られないからねぇ』


そして機械はぶつりと音を立てて暗転した。


沈黙した機械に八つ当たりしても仕方がないが、エマはちっと舌打ちをする。

ルイーザはそっと機械を置いた。ふらふらと座り込む。


「悪趣味だわ……」

「お嬢様、汚いですよ」

「そんなこと言ってられないわよ」

「ほら、立ってください」

「聞いてないわね?」


ルイーザはそう言いつつもエマの手を取って立ち上がった。エマはルイーザが立ち上がったのを確認すると、周囲のものを調べだした。


「一通り食料は揃っているみたいですね」


棚や奇妙な箱に入れられた食材の類。確かに一通りの料理を作るには十分な量があった。

一ヶ月くらいなら十分持つだろう。


「これを使って……お嬢様に食べさせろと」

「なんで私が食べる側確定なのよ!」

「お嬢様料理できるんですか?」

「…………できる……と……思うわ……」

「でも私お嬢様の体を食べるって嫌です」

「私だってエマの体を食べるなんて嫌よ!」


調べながら、平行線もいいところな話し合いが進む。

やがて大体のものを確認し終えると、二人して脱力した。


「それにしても静かね」

「私たち以外誰もいないんですかね」


ちょっと見てきましょうか、とエマが扉を出ていこうとする。ルイーザは慌ててその背を追った。


「置いていかないでよ!」

「そんな大袈裟な。疲れてもおぶりませんよ?」

「そんなこと言わないわ」


扉を開けると長い廊下が続いている。下手をするとクライン家よりも広いかもしれない。


「広すぎて落ち着かないわね」

「お嬢様、なに貧乏臭いこと言ってるんです?」

「二人だと広すぎるって意味よ」

「貧乏臭いです」

「あなたもう少し敬意を覚えた方がいいわ!」


ルイーザはぷんすかと怒りながらエマの横を歩く。

怒りながらも、特に制裁を加えようとしないがゆえ、エマは安心してルイーザをからかえるのだ。

……と言うことに、ルイーザ自身は特に気がついていない。


「ここは食事をとる場所みたいですね」

「また無駄に広いわね……」

「狭いより良いのでは?」


所々扉を覗きつつ屋敷内を歩き回る。作者不明な風景画があったり、誰?と聞きたくなるような人物画が所々かかっていた。

少し気味が悪い。


ルイーザはエマの右手をさりげなく掴んだ。


「なんですかお嬢様」

「エマが怖いかなと思って」


エマは別に怖くないですけど……と言いつつ、手を離そうとはしなかった。

用途不明な部屋に首をかしげたり、開かない部屋をどうにかして開けようとしたりしつつ、ルイーザとエマは進む。

最終的にたどり着いたのは階段だった。


「……上る?」

「上りましょう」


エマは勇猛果敢に一歩足を踏み出した。正直に言えばルイーザはここで引き返しておきたかったけれど、置いてきぼりよりついていった方がましだ。

そう考えてエマを追いかける。


階段は長くもなく短くもなくと言った感じだ。つまり至って普通の階段。

上りきった二階の先には、また部屋がある。


「開けてみましょう」


言うが早いかエマが上がってすぐの扉を開ける。

開けて、扉の中身を見て絶句した。



「広い……わね……」

「広い……ですね……」



そこは広い寝室だった。ベッドも大きい。キングサイズどころではない。広々としすぎて逆に落ち着かなさそうな寝室である。


……しかも大きな枕は二つ。

どう考えても、二人で眠るように造られている。


「……私たちここで寝るのかしら」

「メイドと主人が同じ場所で眠るわけにはいかないですので、お嬢様だけでお使いください」

「嫌よ別々で眠るなんて!こんなベッドで一人で寝てみなさいよ、絶対うなされるわ!」


ルイーザは叫んだ。

得たいの知れない、しかも必要以上に広すぎるこのベッドで一人眠るなんて、どんな拷問だろう。

頭痛さえ覚えてきたルイーザは、エマを引っ張って部屋から脱出した。


二階は色々と規格外であった。例によって開かない部屋はあったものの、これまた無駄に広いバスルーム、無駄に広い書斎、無駄に広いクローゼット、無駄に広いトイレ……。


すべて回る頃には疲労困憊だった。主に精神的な意味で。

ルイーザとエマはひとまず一息入れようと、最初にのぞいた寝室に腰を落ち着ける。



「全体的に小さくしてほしいわ」

「貧乏性ですねえ」

「エマ、何回言えば気が済むのよ」

「たとえ世界が滅びようとも、そこにお嬢様がある限り」

「そんな壮大さいらなかったわ!」


ルイーザはぼふりとベッドに身を投げ出す。お掃除大変そうねと呟くと、エマが「そこはお任せください」と胸を叩いた。


「頼もしいけど、このお屋敷はやっぱり落ち着かないわね」

「ずっといると気が滅入りそうですね」

「そういえば、出入り口を見なかったわ」

「私も探していたんですが、見当たらず……」



ルイーザはそこでハッと身を起こした。



「そうだわ!異物混入とやらをしないと、この屋敷からは一生出られないって……!!」


エマの方を見ると、エマはかすかに眉を寄せて煩わしげな表情を作っていた。


「ちっ……悪趣味ですね……」


エマはおもむろに立ち上がり、寝室に備え付けてある窓へ向かった。ルイーザがなにをするのだろうと見ていると、突然エマが拳を構える。


「ちょっとエマ!?なにする気!」


エマは振りかぶり、窓を思いきり殴った。



カーーーン。



「……」

「……」

「……あの、エマ」

「……わかっています。なにも言わないでください。痛いです」

「でしょうね!」



窓は微動だにしなかった。当たり前である。

エマも相当ストレスがたまっているようだと、ルイーザは憐れみの目を向けた。


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