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奴隷番号69番  作者: 双さん
フリーマンの観察対象
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趣味は人間観察

新しい奴隷を買った。


商品番号23番。耳長種の男。中肉中背。人間で言うなら僕と同じくらいの年齢の外見をしている。

俯きながらもちらちらとこちらを伺っていたのが印象的。常に怯えている様子


商品番号69番。純人間種の男。肉付き悪くやや小柄。年齢はおよそ15~16歳程とみられる。

飾られた人形のように微動だにせずに立っていたのが印象的。生きているように見えない。


商品番号80番。鬼人種の女。肌は赤く極めて小柄。人間なら10〜12歳くらいの外見をしている。

牢屋の中でうつらうつらと居眠りをしていたのが印象的。好奇心旺盛。


懇意にしている商人のところで売っていた3人の奴隷の第一印象をまとめながら、並べた奴隷の様子をうかがう。


23番、エルフの男は先ほどから手持無沙汰な様子で自らの足元を眺めながら、組んだ手で小さく指の運動をしている。こういった奴は服従の様子こそ見せるものの心の底では舌を出している場合が多い。


次に目に付くのは80番、色白の人間が日焼けしたときのような赤い肌の鬼娘は背後の本棚が気になるのか主人そっちのけで後ろを向いている。奴隷特有の陰気な感じが全くないのが新鮮だ。僕の嗜好を満たしてくれると期待できるだろう。


そんな二人に挟まれて呆けたように棒立ちしているのは69番。無感情な瞳でこちらの手元を眺める彼は、歩行や指示には従うものの、思考能力が残っているのかを考えると不安だ。彼を買ったのは残念だが失敗だったかもしれない。


「諸君、ようこそ我が家へ。」


言いなれたセリフ。実験というのはいつも同じ環境でやるから面白いのだ。

そして同じ環境でありながらそれぞれ異なる反応をするから生き物というのは面白い。


現に今の一言ですら、筆が置かれたことに気が付いていた23番は驚かなかったし、こちらを見ていなかった80番は体を跳ねさせてからこちらに向き直った。

69番は相変わらず感情があるのかないのかわからない。


「さて、君たちは実に幸運だ、なんといっても僕に買われたのだからね!」


3人とも僕の言葉が理解できるのは確認済みだが、全員が言葉の真意を測りかねている様子だ。いや実際は2人だけか。


「僕から君たちに課す予定の命令は2つ。僕との主従を守ること。その上で君たちが人間らしいと思う生活をすること。この2つだ。」


僕はこの言葉を言う瞬間がたまらなく好きだ。

奴隷として売られたはずなのにいきなり人間らしくと言われたときのぽかんとした表情。

そして自らの記憶に潜って人間らしさを探す真剣な顔。


数少ない友人からも頭がおかしいと評される趣味だが、僕は個性というものを愛している。

その人がそれぞれ持つ過去から生み出された個人によって異なる答え。

それはまるで唯一無二の芸術のようであるが、しかしてモチーフは同一なのだ。


そしてそれは僕の命令で公開される。


「では只今より今言った僕の命令を実行したまえ。」


とはいっても人間らしさなんてのは言われて出すものではない。

どんな人間も初動は大体同じで、「結局どうしたらいいのか?」という戸惑いを表現する顔をして、おおよそそのあとは2パターン。屋敷をうろつくか、僕に話しかけるかだ。


「止まれ!」


しかしとても興味深いことに、今回のパターンは違った。

そして残念なことに、奴隷を一人失ってしまった。


というのも、69番が僕の言葉を聞くなり目にも止まらぬ速さで23番を殺害したのだ。

その23番はと言えば、頭の上半分が何かの魔法により破裂して失われ、69番の左手に首を握り潰された状態で心臓に右手を突き刺されている。


ぶちまけられた脳漿や骨片などが周辺を汚してしまったが、そんなことは今はどうでもいい。69番がまさかここまで自分の感情が揺り動かす逸材だとは思わなかった。


彼の隣で目を見開いている80番なぞ突然の惨劇に失禁して腰を抜かしているではないか。

面白い!実に面白い!


命を奪うという答えをこれ以上見ることができないのは残念だが、今後の生活で69番と80番の二人はきっと今までにない関わりを見せてくれるだろう。


「69番、先ほどの命令を中断する。まずはその死体を離すんだ。」


ぼちょりと23番だったものが床に落とされた。

80番はその様子を見ながらガタガタと震えているのに対し、69番は無感情に脱力してこちらに向き直った。その目に意思は感じられず、血に濡れた自らの手を拭おうともしない。


とりあえずこの状況では実験がどうのというには汚いため、メイドを呼び出し後処理を任せて二人とともに部屋を出る。


自らの意思で僕に仕えることを決めた元実験対象のそのメイドは部屋の中を見ると一瞬たじろいだものの、努めて平静を装うと深々と礼をして処理に入った。


今までの生活では見られなかった彼女の一面が見られて僕はとても嬉しいが、処理をさせられる方はたまったものではないだろう。少し可哀そうなことをしたかもしれない。


腰を抜かして動けない80番は69番に対して恐怖以外の感情を忘れてしまったかのように拒否するので仕方なく僕が運んでいるのだが、別室に移るまでの間80番は小刻みに震えながらずっと僕の胸に顔を埋めていた。ほんのり膨らんでいる程度だが、鬼人種特有の額の角が地味に痛かった。


別室に到着して改めて二人を並ばせる。

ただ立っているのもやっとというほど足が震えている80番と、相変わらず何を思っているのかわからない表情の69番の間が先ほどより広いのは仕方ないとして、改めて二人を見る。


「さて、僕にも予想外だったから少し醜態を晒してしまったが、二人の今後の生活はさっき伝えた命令とさして変わらない。80番、君はこの屋敷から僕の許可なく出ないで君の人間らしさを見せてくれ。命令は以上、実行せよ。」


脱兎のごとくというのはこのことを言うのだろう。

80番は僕の命令を聞くなりガクガクと震えていた足をもつれさせながら部屋を出て行った。


「さて69番、君が思う人間らしさを言葉で説明してくれるかい?」


今までに見たことがないタイプの彼がちゃんとわかる言葉で説明してくれるか正直不安だったものの、僕の質問に対して彼はすぐに口を開いた。


「人を殺すことです。」


随分と簡潔な答えだった。

簡潔が過ぎていまいち答えの道筋がわからない。


「どうしてそう思ったんだい?」


「俺は人を殺して生きてきました、俺以外の奴らは俺か、他の誰かによって殺されたり命を管理されてきました。だから人間らしさは人間を殺したり苦しめたりする事です。」


即答だった。

僕の半分ほどの人生しか送っていないだろうに、その人生は壮絶なものだったようだ。


「君の人間らしさはなんとなくわかった。これから君には新しい人間らしさを見つけてもらうことにしよう。」


69番は答えない。その目に光が宿ることは無く、ただ淡々と僕の言葉を聞いている。


「君への命令を達する。」


一つ、主従を忘れるな。

二つ、極力人を殺すことは避け、止む無く人を殺す場合は他の誰かの命を守る時だけにすること。

三つ、守る相手は主人の他、69番自身が守りたいと思った相手とする。

四つ、他人の行動から、人間らしさを見つけて、良いと思ったものを自分も実行すること。

五つ、自分で考えてみてもわからない事があれば、この屋敷にいる客人以外の者に尋ねること。

六つ、主人の許可がない限り屋敷の外へ出ることを禁ずる。


以上。


「では只今をもって命令を実行せよ。」


先ほどとは違い、69番が直ちに動くということは無かった。

相変わらずぼんやりと空中を見つめ続けたまま、何事かを考えているようだった。


僕はそれを置いて部屋を出る。

部屋の外では、80番が座り込んでいた。

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