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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最後の前に。

作者: ぼるばーむ

体がふわり、宙に舞った。

もう死ねるんだと、やっと死ねると思った。この世界よ、ありがとう。ありがとう凛花ばぁちゃん。ありがとう母さん。なんて言ってみたりして。いや、世界には何の感謝もしてないけれど。散々だったけど、意外と楽しかったよ。



あの遺書書いた意味あったかな。前は結局散々書いて、自殺できず意味なしに終わったんだっけか。



ああ、もう落ちる…。



_と、思ったのに。



「こんにちは。」



ぱちぱち、瞬きして俺をお姫様抱っこする少女が居た。俺から見ては年下で。普通はお姫様抱っこするなら逆で。

って、したいとは思わないけど。ただただ恥ずかしい。というか、死ぬはずだったのに。



「誰?降ろしてくれるかな」



俺が言うと少女は思い切り俺を放した。下に軽く叩きつけられる。…あぁ痛い。

夢でも死後の幻想でもなく生きてるんだなと自覚した。



「…りん…」

「りん?」

「ううん、かりん。」



その少女は、言った。…かりんか。死ぬ前にまた1人、知り合いが出てしまった。どうして初めにりんと言ったのかが気になったが、それは聞かない事にした。



「ねぇ、何しようとしてたの。颯人くん。」

「は。」



どうして、名前を知ってるのか。



「何で名前知ってんの。」

「顔に書いてあるからさ。」



絶対嘘だ。俺だって死ぬ前に顔に名前なんて書かない。それになんだこの子…どこか初対面じゃない。そんな気がする。色々悩む俺を無視してその少女は言った。



「それでなんで?」

「人生嫌になったんだよ。分かんない?」



「えー。」



ぷぅ、と顔を膨らませた。全然可愛いとは思わない。俺がとあるアニメの美少女萌えキャラが好きだったら可愛い!萌え~とか思うのかもしれないが、俺はお姉さんキャラが好きだったから残念だがそう上手くは行かない。って何の話をしてるんだ俺は。



「私は人生楽しかったよ?すっごくさ。」

「楽しかったって…かりんさん。まだ終わってないでしょ人生。若いんじゃないの…」



「若いって…嬉しいこと言ってくれるね!」



目をキラキラとさせる。いや、若すぎるぐらいでしょ…



「まぁ、それは置いといて。何が嫌なの。このかりんに言ってみなさいよ。」



その姿は、若過ぎるのに、俺より年下なのに、年上みたいで。つい、ノリで話してしまう。



「それがさぁ…大好きな凛花ばぁちゃんが死んじゃってからさ、散々嫌なことばかりで。仕事クビになって次の就職先も決まらずに苦労したよ。それで引き篭もりになって…ばぁちゃんが居なくなってから母さんもうるさくて…俺、もうこんな人生嫌で。」

「そっか。大好きなばぁちゃんなんてばぁちゃんが聞いたら喜ぶねぇ。」

「そこなの!?俺の人生の感想は?」



「よく、頑張ったね。颯人」



くしゃくしゃと頭を撫でるその手も、颯人って呼び捨てもなんだか懐かしくて涙が溢れた。優しい優しいその手。少女にそれも初対面の少女に頭を撫でられて無くなんて、少し恥ずかしくて情けない気もしたけど、今はそんな事関係無いくらい泣きたくて。



「…ごめん。純粋な少女になんかこんな…」

「別に、いいんだよ。」



少女は、優しく笑った。



「ねぇ、家に連れてってよ。見たいなぁ颯人の家。」

「はいはい。」



あー、俺、もしかしたら自殺じゃなくて少女誘拐で死刑かもなぁ…。それもあり…じゃない。自殺よりそっちのが世間体が気になってしょうがない。しかも少女誘拐だけでは死刑にならないだろ。多分。



「ただいま…」



家に帰ってくると、一気に嫌気がさした。ああ、この匂い。家に帰ってきたーって感じがする。



「意外と綺麗な部屋だね。」

「意外とってなんだ。一人暮らしなんて、こんなもんだよ。」



「この紙は?」

「それは…」



遺書だ。さきほど急いで殴り書きで書いたそれも、もうゴミ箱行きだ。俺は、死ねなかったのだから。その紙を持って、ゴミ箱へ向かうと、少女は俺の手を掴んで止めた。



「待って、まだ捨てなくても…良いんじゃない?」



どうして、理由は分からないが、俺は何となくその少女の言う事を聞くことに決めた。なんか、聞かないとダメな気がしたのだ。



「分かったよ。」

「それじゃあ…これは、私が預かるよ。」

「ええ…」



どうして、読もうとでもしているのか。じっと少女の様子を伺っていると、少女は、それを折り畳んでポケットにしまった。そんなの、持ってても意味が無いだろうに。俺の残念な遺書を持っていた所で、一銭にもならない。



「ありがとう。颯人の家見るの、楽しかったよ。」

「どこが、楽しかったの。」

「色々ね。」



楽しませた覚えはないんだけど…結局俺が嫌な思いをしただけじゃんか。なんて1人で謎の葛藤をしていると、少女は目の前で正座をした。俺も釣られて正座になる。



「宜しい。」



うんうん少女は頷いて言った。ああ、座って良かったのね。そう言えばばぁちゃんともよくこうやって真面目な話をしたなぁ、なんて思い出したりして。



「あのさ。颯人?本当に死にたいの?」

「うん。」



自分でも即答だったと思う。質問の意味を考える暇もなく、そう答えた。



「そっかぁ…それが色んな人に迷惑を掛けることになっても?」

「…うん。死んじゃえば、そんなことも、もう気にできないから。」



「そっか。じゃあ私は止めないよ。」

「え…?」



少女は、また、くしゃりと俺の頭を撫でた。あれ?…こういう時って、止められるのが普通じゃ…



「止めないの?」

「止めて欲しいの?」

「いや、そういう訳じゃないけど…こういう時ってみんな止めるでしょ?だから…」



「颯人は、よく頑張ったよ。元々メンタルが強い訳じゃないのにさ。」



…元々?全てを知っているかのように話すその少女の言葉に、俺は全てに気が付いた。



最初から、おかしかった。初め言いかけたりん…という言葉。なぜか知っていた俺の名前。初対面な気がしない雰囲気。人生楽しかった、若いが嬉しい、なんて少女とは思えない発言。それに…少女が頭を撫でた時の安心感と懐かしさ。部屋を見たがる様子や真面目な話をする時の正座…。



全部、ばぁちゃんと、ぴったり重なっていた。



ばぁちゃんの名前はりんかだから、並べ替えると、かりんにもなる。それに、ばぁちゃんは…俺の人生より何より先に、大好きなばぁちゃんという言葉に、食いついた。



「やっと気が付いた?」

「うん…でもなんで、こんな子供に…。」

「ばぁちゃんさ、もう生まれ変わるんだ。」



「神様がさ…前世の記憶が消える前に、一つ願いを叶えてくれるって言うからさ。最後に死にたがりの颯人に会わせて欲しいってお願いしたんだよ。そしたらばぁちゃんとしてじゃなくて、見知らぬ美少女としてなら会わせてあげるって言うから…こんな姿になってねぇ。可愛いでしょう?声までも可愛い。」

「なるほど。」

「颯人ってば、気付くの遅いから。」



「いや、分かるわけないでしょ…」



そんな事を言いながらも、全てがばぁちゃんだと分かって、涙がただただ溢れた。こんな俺の為に、ばぁちゃんは、折角のばぁちゃんとしての最後の願いを使ったんだ。



「また泣いて…」

「ねぇ、ばぁちゃん。聞きたいことが有るんだけど。」

「なぁに。」



その、なぁにって言い方。やっぱりばぁちゃんだ。



「ばぁちゃんは、俺に生きてて欲しい?」

「まぁ…欲を言うとねぇ。さっきはああ言ったけど…本当は生きて頑張って欲しい。でも…これ以上辛い思いはさせたくないよ。」



「…少しは、気持ち変わった?」

「……」



「決まったら、私はもう行かなきゃいけないから。早くするんだよ?」

「うん…」



声は可愛いけど、しっかり聞こえるばぁちゃんの声が、俺の心に刺さった。ばぁちゃんと、離れるのは嫌だ。でも…早く決断しないと、ばぁちゃんが生まれ変われない。



俺は、ようやく覚悟を決めた。



「ばぁちゃん…俺。」

「なぁに。」



「ちゃんと、生きるよ。…このまま生きて…ばぁちゃんの生まれ変わりに…会うよ。」



ばぁちゃんが、ふっ、と笑った気がして、ばぁちゃんの方を見ると、その少女は、ばぁちゃんはもう消えかかっていた。



「やっと、生きる覚悟を決めたんだね…良かった。…颯人ならやれるよ。」

「ばぁちゃん…」



「私は、もう言うことは無いよ。じゃあね。ああ、遺書は捨てておくから。」



「…ばぁちゃん…ばぁちゃん…」



何度言っても、もう、返事の声は聞こえなかった。それどころか、物音さえ聞こえない。



「…ありがとう…ばぁちゃん。」



静かな部屋の中、俺の声だけが、木霊した。






それから俺は、やっと就職先を見つけて、安定していた。仲間の人達も、みんな優しくて、順風満帆だった。これもきっと、あの日ばぁちゃんが自殺を止めてくれたお陰だろう。



ねぇ、ばぁちゃん。ばぁちゃんの生まれ変わりに会える日を…俺はずっと、楽しみにしてるよ。



「おはようございます!」

「おはよう。颯人くん。そういえば、雪原さん、赤ちゃん産まれたんだって!」



「えっ、本当ですか?おめでたいですね!」

閲覧ありがとうございました_

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