第4話 王都に近づけば少しはましだろう
すっかり暗くなった平原を、王宮騎士団がひたすら駆ける。
松明を持つ団員が数名いるが、その明かりでは歩く事すら心許なく感じる。ましてや騎乗しながらの移動とは。恐怖感しかない。
そんな環境下においても全速に近い走りを維持しつつ、隊列には少しの乱れもない。彼らはやはりトップクラスの騎士団なのだろうと想像が付く。
移動中は暇なので、馬を操るウサミミ隊員ユスティーナさんを後ろから抱きしめたまま、彼女の魅惑的な兎耳とうなじをずっと口ではむはむしたりしたりと弄んでいた。
出発前まで彼女は甲冑を着込んでいたが『手が滑って落馬しそうだから脱いで!』と強引にひっぺがしたのだ。おかげさまでユスティーナさんの前に回した手で、これまたふかふかなお腹や胸をふにふに堪能しました。むふー。
1時間毎の小休止の度に文句を言われたけれども、私の手に指を絡ませた状態で言われても説得力が無いですわよ。愛い奴め。
3度目にして最後の休憩ポイントは、平原に舗装された石畳の幹線道路から、少し離れた森の入り口付近に設定されていた。ここに隠されたバックアップ資材を回収したのち、大休止となった。火が起こされ、温かいスープが全員に振るまわれる。
「ゆりか様は体力ありますねぇ」
私にスープを持ってきた若手の団員が感心しながらそう言ってきた。
実際には結構疲れてきているけれど、そんな表情はおくびにも出さない。ザ・プロ根性。
「我々は日常的に乗馬していますので慣れていますが、通常のご婦人ならば10分も経てば腰に来て、30分もすれば『もう馬車を呼んで!』となるものですがね」
ケラケラと笑う団員。
「エディ! ゆりか様に失礼でしょ!」
キリっと彼を叱るユスティーナさん。
「あ……ゆりか様、た、大変失礼しました。ご無礼をお許しください」
エディ団員が気軽にジョークを飛ばした眼の前の美少女が伝説の勇者様である事を、急に想い出したかのように青ざめる。
ありゃありゃ……完全に萎縮してしまった。
私の職業病とでもいうべきか。 目の前でガッチガチになっているファンが居ると、身体に叩き込まれた握手会モードが自動で発動してしまう。エディ団員の手を両手で包み込むように握る。
「ふふっ、 そんなに畏まらないでください。 こっちまで緊張しちゃいます」
かぁっと彼が赤くなるのが分かる。 ふふん。 ちょろいもんだぜ。
「私だってちょっとは鍛えていますから、一般の方よりも体力あるんですよ」
アイドルは歌って踊るのがお仕事。体力や筋肉は割と半端ないのである。乗馬マシーンやらで鍛えたコアマッスルは伊達じゃないのです。まぁ自分で乗るよりもアイドルちゃんを乗せて眺める方が好きですがね!
「ゆりか様の身体鍛錬法、王都に戻りましたらぜひご教授くだひゃい!」
あ、エディ団員噛んだ。
横には殺気を込めた視線を彼に飛ばすユスティーナさんがいるのだが、それに気がつかないほど脳が蕩けているようだ。
ザク……ザク……と、枯れた木の葉を踏みしめる足音と共に、荷物を抱えたネストリ団長がやってきた。彼くらいの身体能力があれば、音を一切立てずに移動する事も可能なのだろうが、敢えて音を出して近づいて来るというのは、私達を驚かせない為の、彼なりの気遣いだと思う。
「エディ、そろそろ入国手形を用意をしておけ」
そこでエディ団員、我に返ったかのように敬礼をし、彼の小隊へと戻っていた。
「ゆりか様、しっかり休憩は取れましたか?」
ネストリ団長が荷物を下ろしながら私に声をかけてきた。
「変装用の衣装をお持ちいたしました」
変装に関しては、事前にユスティーナさんから説明を受けている。
曰く、現時点では「勇者様」の情報は最大限に隠匿する必要があるのだという。どこに魔王直属の手下がいるか分からない。その手先の者は王都や王宮の人間であるかもしれないのだ……と。
そこで王都に入る直前のこの休憩ポイントに立ち寄り、隠してあった変装グッズを装着するのだ。
召喚された「勇者様」に実際に会うまでは、どんな体格で、どんな種族で、性別すらも不明である以上、考えうる全てのケースに対応出来るよう、各種変装グッズをここに用意したのである。
……私に言わせれば、魔王関係じゃなくても、例えば「勇者様」の存在を好ましく思わない政敵対策とかもありそうだけれど。
ここでは言うまい。
王宮騎士団は「勇者様擁立派」には忠誠を誓っているのだろうが……人は突然鞍替えをする生き物だ。芸能業界だって魑魅魍魎が跋扈していた。用心するのに越した事はない。
この国や世界全体に関する政治方面の情報はユスティーナさんと二人っきりになった時にでも確認するとしよう。彼女個人には全面的信頼するようにしている。彼女が裏切るのなら、どっちみち私に未来はないのだから。
「して。 私の変装グッズはなにかな……ジャン!」
袋をごそごそさせて、中身を取り出した。
「なにこれ!! 可愛い!!!」
フリル、宝石や黄金の飾りにシースルー素材がふんだんにあてがわれた中東の踊り子っぽい衣装だ。私もライブとMVで似たようなのを着た事がある。これの為にアイソレーションの特訓したなぁ……。
変装用とは言え、日本のライブで着ても違和感の無い、非常に丁寧に作られた事が分かる逸品である。
「この服、ユスティーナさんが選んでくれたの?」
「は……はい……このような下賤な衣装で大変申し訳ございませんが…… 踊り子ならば目立たないよう、 王宮に入れますので」
そう言って縮こまるユスティーナさん。
「ううん。 可愛いよこれ! ありがとう!」
センスが褒められたのが嬉しそうに、もじもじしだすユスティーナさんである。
確かに「勇者様」に着せる衣装としてはどうかとは思うけれどね。 そもそも私くらいの年齢の女の子が召喚される可能性は相当低かっただろうに、それでもこんなに手の込んだ衣装を用意してくれていたとは……他の衣装も気になるねぇ。
「ほんじゃまー、ちゃっちゃと着替えますねー」
休憩ポイントに隠されていた資材から取り出した簡易テントの中で踊り子衣装に着替える。鏡はないから実際どう見えるのか分からないけれど。まぁ私に似合わないステージ衣装なんて存在しないのだ! うはは!
「じゃーん! どうでしょうか!」
軽く踊りながらテントから飛び出し、ユスティーナさんとネストリ団長を含む全員にお披露目した。ビシっとエロティックなポージングをキメる。
「「「うぉおおおお!! 勇者ゆりか様ぁあああ!! 王都でいっちばん! かっわいいよぉおお!!」」」
団員たちがまるでどこかの王国民かのようにハモって叫ぶ。いや彼らは本当に王国民なのだが。
ばっちりハモリ過ぎてて「え、仕込み?」と、ユスティーナさんに疑いの目線を飛ばす。しかし彼女は無反応。
えー……ちょっとショックだ。似合っていると思うんだけれどなぁ。それとも踊り子はやはり下賤なモノだという印象が強いのかしら。
ユスティーナさんに近づいて、ぴとっと体を密着させる。彼女の長い兎耳の側で、声をやや震わせながら囁く。
「ねぇ……似合わないのかな……?」
コロッと音を立てて、地面に転がるユスティーナさん。しっ……失神してやがる……。
「大変、良いものを、観せて頂きました」
回復するが早いか、ドゲザをするユスティーナさん。
嫌われた訳では無いようでよかった。ユスティーナさんに対する効果は抜群だ! アイドルはやっぱり衣装が命だね!!
「なんのこれしき。なんなら一曲踊ってみせようか?」
うふーん的なポーズをしてウインク。
「そんな事されたらユスティーナが死んでしまいますのでお止めください……」
ネストリ団長が呟きつつ、私の後ろからコートを羽織らせてくれた。
「しょうがいないなぁ。じゃあ今度ユスティーナさんも一緒に着て踊ろうよ! 絶対似合うって!」
「そそそそんな恐れ多い!!」
ブンブンと顔を左右に振るユスティーナさん。
でもこんな良い衣装を発注するって事は、踊り子に多少なりとも憧れは持っていたりするのだろうか。ウサミミな踊り子。めっちゃ見みてみたいんじゃがー。
「騎士団のみんなも見たいよねー!?」
ライブ会場のMCのように、観客を煽ってみる。
「「「みたーい!!」」」
騎士団の皆さん、団結力半端ない。
反応を見る限り、騎士団のみなさんもまんざらでも無さそうだ。踊り子は下賤な仕事だと言わていたけれど、ちゃんとプロデュースすれば 王都の一大エンターテイメントに育つかも。古代ローマ風な闘技場とかありそうだし。
そこでライブを開催すれば……ぐへへ! 大儲け出来そうだぜ! 成功した暁には富士見Pと呼んでくれたまへよ?
「ウォッホン!」
いまやお約束となりつつあるわざとらしい野太い咳払いをするネストリ団長。ブーイングを飛ばす団員達を無視し、「さぁ! 出発するぞ!」 と強引に号令をかけた。
ここから王都は目と鼻の先だ。先ほどまでの様に全速疾走はしない。王宮騎士団は優雅に己らが守る領土を闊歩するべし。
幹線道路沿いにゆっくりと移動する事、1時間弱。天然の要塞の役割を果たしている丘の防風林を越えると……。王都を囲む巨大な壁と、中央に鎮座する巨大な王宮が見えてきた。
夏は近いぞ! アイソレーションで君も腰のくびれを手に入れよう!