第3話 どうってことはない王宮騎士団の日常的な戦闘
夜が刻々と近づいている。日没までに目の前のゴブリン及びケルベロスの混成集団を殲滅または撃退しなければならない。
近日、周辺の作物や家畜を襲い回っている集団との事だ。人的被害も出ている。王宮騎士団の今回の任務はあくまでも私、女子高生アイドル富士見ゆりか事、『勇者様』の保護だが、国民の為にも見過ごす訳にはいかないと判断したようだ。感心である。
集団の数、およそ50騎。50匹ではなくゴブリン+ケルベロスでワンセット。つまり100匹はいる事になる。
対して王宮騎士団の兵力は僅か15人。そこから前衛として出したのはたったの6人。
6人の前衛はすでに敵前衛集団と交戦を開始している。ウサミミ隊員ことユスティーナさんに拠れば、あのくらいはお茶の子さいさいだと言うが……。
魔物達は人間が相手出来るような生易しいモノだとは、私にはとても思えない。
ゴブリンは食事欲しさに観光地で暴れまくる猿が更に大型化し凶暴化した生物……という印象だ。リポーターとしてロケした時にロケ弁をまるごと持って行かれた苦い記憶が蘇った。楽しみにしていたご当地名物だというのに!
ただでさえ手に負えなさそうな連中が棍棒を手にしている。それなりに知能があると見た。
ケロベロスは有り体に言ってしまえば大型の狼である。背中にゴブリンを乗せて高速移動。戦場到着後はゴブリンと別行動を取る。ケルベロスが獲物を後方から追い詰めて、ゴブリンが前方から撲殺する。
ひどく原始的ではあるが、その様はまるで人間だ。
勇者役! 任せんしゃい! と見栄をはったのは良いが、そんなモノを斬って捨てる事が、現在っ子である私に出来る訳がない……。
そんな私の心情を察したのか、ユスティーナさんがぴとっと私の肩に顏を乗せて声をかけてきた。
「ゆりか様は魔物が動物や人間っぽい事に悩んでいるようですが、その心配はご無用です。 魔物はそもそも生物では無いのですから」
その間にも戦況は変化を続けていた。敵集団を中央突破で二つの小集団に分割させる事に成功した騎士団前衛。その勢いのまま時計回りに進路を取り、右側敵集団の後方から再び襲いかかる。そのタイミングを逃すまいと、中衛4人が左側敵集団を前から挟み撃ちにする。
「ここから正式に攻撃が始まります。攻撃される魔物をよく見てください」
ゴブリンの棍棒は騎士たちには届かない。挟み撃ちにより高速機動が自慢のケルベロスは足を封じられた。しかもゴブリンを載せている為、特技である跳躍からの噛みつき攻撃も発揮出来ないようだ。
ゴブリンがケルベロスから分離出来ない状況を作り、さっさと馬上から槍で片付けるのが定番の戦法らしい。やがて身動きを取れなくされたゴブリンとケルベロスを、騎士団が槍で真上から貫いた。
目を逸らしそうになるが、ぐっと堪えて見続ける。爆発四散!! スプラッタ!!! ……になるかと思いきや、串刺しにされているというのにも関わらず、一滴の血も流れないまま、魔物が粒子化して消えて行く。
「魔物と呼ばれるモノは、全て魔素で構成されています」
ユスティーナさんの解説が続く。さりげなく腕を私の腕に絡ませて来ている。愛い奴め。
「魔素は大気中に自然に存在する物質で、それ単体ではなにも危険性はありません。我々の生活必須品にも使われるくらい安全な物です。しかし森の奥や沼の側、日の当たらない峡谷などでは濃度が極端に高くなり、やがて魔物へと形成されていく……と考えられています」
そこはまだ未知の領域なんだね。
「はい。そして魔王がなぜ、本来は自然発生するだけの魔物を量産し、従わせているのかも依然不明ですが……」
ユスティーナさんは優しく微笑む。
「魔物を無害な魔素に戻し、自然へと還元させる……。そう考えれば、ゆりか様の精神的な負担も減る事でしょう」
なるほど。失いかけていた自信がまた戻って来そうだ!
「そしてどうやら、ゆりか様からは特定の条件下で、異常とも言えるほどの魔素干渉力が発現されるようです」
……あの懐中時計で確認していた事かな?
「発現条件が特定出来れば……対魔物戦においては、ゆりか様は最強の存在となられる事でしょう。まさに我らが望んだ救世主様です」
うっとりと語るユスティーナさん、ちょう色っぽい……。
しかしこれはこれは。私にもチート能力が芽生えてしまったようですな? 私TUEEEな展開はいつ出来るようになるのかし。
そこに伝令が駆け込んできた。
「敵集団を8割殲滅! 掃討行動へ移行しますか?」
少し考えた後、ネストリ団長が応える。
「今回はゆりか様の護衛が最優先だ。もう日が完全に落ちる。イレギュラーな事態は回避したい。8割がた減らしておけば、あとは農民達に任せても問題ないだろう。周辺の村に通達をしておけ」
方針を决定してしまえばあとは速い。
「撤収用意。王都へ戻るぞ!」
ネストリ団長。結構出来る人物なのでは……? こういうのって大抵貴族がコネと金に物を言わせてふんぞり返っているだけのパターンが多いと思っていたが。ふむー。良いディレクターにもなれそうね。
ユスティーナさんが馬に跨がり、私の前までやってきた。
「さぁ、ゆりか様は私の後ろにお乗りください」
彼女が操る馬の後方へよいしょっと跨る。
「しっかり掴まってくださいね……あんっ、そこは危ないですよぉ」
悪戯でちょっと太ももの鎧の隙間に指を這わせてしまった。やっぱりここが弱点そのイチなのね。よしよし、あとで甲冑を脱がせてたっぷり堪能するとしよう。
彼女の腰に手を回して座ると、ちょうど腕が彼女の下乳に当たる。そして目の前には上に伸びた長い兎耳。
これは王都まで退屈せすに移動出来そうだ。
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