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第28話 野いちごを揺らすように

 富士見ゆりかアイドル事務所、もとい、勇者府(仮称)の大浴場で、私、マティルド姫、ユスティーナさんとウルシュラちゃんの4人でぬくぬくとお湯に浸かっている。


 元帥府として王宮の敷地内に用意されていたこの建物は、現在私の執務室として王国から提供されている。


 私……『勇者ゆりか』が持つ魔素干渉力を利用した対魔戦術、通称『ヴァルキュリア戦術』の初回実験を終え、晩餐の前に休憩をと、お風呂にやってきたのだ。


 そこ、中二臭い戦術名だなとか言わない! 元の「歌って踊りながら戦う戦術」って名称よりはずっとマシでしょ!



 現状、ヴァルキュリア戦術を試したのは2組。


 マティルド姫と私。

 そして、ウルシュラちゃんと私。


 どちらの組み合わせでも非常に優秀な……それどころか、期待以上の成果を上げたらしい。


 観戦していた王宮騎士団の皆さんはこれで人類の勝利間違いなしィイイイ! と大層喜んでいた。 実際に魔王の幹部クラスと戦った事のある彼らには、ヴァルキュリア戦術の優位性は肌で感じ取れたようだ。



「はぁー……面白いデータが沢山取れたのは嬉しいのですが」


 言葉とは裏腹に浮かない顔をしているユスティーナさん。ざばぁっとお湯を掬って顔をワシャワシャと洗った。


「データがあまりにも偏り過ぎていますねぇ」



 偏っているというのは、まずマティルド姫自身も転生者であるという事だ。


 魂だけとはいえ、マティルド姫も勇者召喚でこちらの世界にやってきた人間だ。彼女にも私と同じような能力、つまり、他人に魔素干渉力をシェアする力があってもおかしくはない。


 となれば、私とマティルド姫の組み合わせでのテスト結果は、特殊例となるはず……お互いが持つ強力な魔素干渉力をシェアしあっているのだから、当然強力になるはずで、それを基準としてしまうのはよろしくない。


 私とウルシュラちゃんとの組み合わせ時にも、膨大な干渉力が確認されてはいるのだが、マティルド姫が殆ど自分の体術及び剣術しか使用していなかったのとは違い、ウルシュラちゃんは魔法を使用している。


 どちらも絶大な数値を叩き出したが、近接戦闘と魔法による遠距離戦闘。異なる両者を単純に比べるのがそもそも難しいようなのだ。


 もっとデータを増やしたい、というユスティーナさんの気持ちは分かる。しかし現状、私と魔素干渉力をシェアする為には、翻訳飴を口移しで交換しあわねばならない。


 そしてそれが今後どのような悪影響をもたらすのかなどのデータも揃っていない以上、そんなにぽんぽこと私とシェアさせる人間を増やす訳には行かないのだ。


 私としては、沢山の美少女と合法的にチュッチュ出来るのならそれだけで嬉しいのじゃがのう。 しかし私に1つ良い考えがある!


「マティルド姫とウルシュラちゃんが翻訳飴を交換してみれば良いんじゃない?」


 そんな私の言葉に、頷いて同意しかけ……


「いえいえいえ!! そんなとんでもない!! マティルド姫にそんな失礼な事は!」


 慌てて否定するユスティーナさん。


 しかし当のマティルド姫とウルシュラちゃんは大して気にしていないようだ。


 というか、マティルド姫、侍女も連れずに私達とお風呂に入っちゃってるけれど、大丈夫なの?


「心配ご無用です。 姉さまや妹達とは違って、ドレスを着用するとかでもなけれれば、大抵の事は全部自分で面倒見られますから」


 マティルド姫。

 実年齢12歳で精神年齢32歳の彼女は、もともとは私の大事な友人、叶真弓ちゃんなのだから。確かにそこらのお姫様とは違って、ほとんどの事は一人でもこなせるはずだ。


 とは言え、仮にも公国のお姫様で、現在は王室の側室である。そんな彼女がこのような自由を許されているのは……私の存在、そしてヴァルキュリア戦術で見せたマティルド姫自身の有用性。


 他には勇者府の外を守る王宮騎士団と、傍に居る王宮魔道士ユスティーナさん、そしてマティルド姫が指揮を取っているという諜報機関(セバスチャン氏込み)が存在する故なのだ。


「……もしウルシュラちゃんが嫌でなければ、私としては、ええ、こんな可愛い娘とキス出来るなんて。寧ろ嬉しいわ」


 そう言ってニッコリとウルシュラちゃんに微笑むマティルド姫。


「……うん……マティルド姫からはゆりか様と同じような匂いがするから……平気」


 一国の姫を前にして恐れもせず、ぴとッと湯船の中でマティルド姫にひっつくウルシュラちゃん。


 精神年齢は32歳とはいえ、見た目は12歳の幼女と、10歳くらいの幼女が全裸で仲睦まじくイチャイチャしている……。非常に私興奮してきましたよ!!


 マティルド姫は剣術の達人。結構な訓練と努力を重ねているのにもかかわらず、ケアは十分行き届いている。とてもきめ細やかな白い肌をしている。湯船に浸からないよう、束ねた髪の毛は明るい金色に薄く薔薇を溶かしたようなローズゴールド。


 片方のウルシュラちゃんは魅惑的なココア色をした褐色肌。癖っ毛のある金色の髪の毛を上部で二束に纏めてあり、動く度にピコピコと動いて可愛い。


 白い肌色と褐色肌がくっつき合い、お互いの体温とお風呂の温度で上気しており……悩ましいほど視覚のコントラストを見せてくれる。


 横でアワアワしているユスティーナさんを無視したまま、マティルド姫が続ける。


「じゃあ……私と飴、交換しよっか?」


 コクンと、彼女に抱かれたまま頷くウルシュラちゃん。


「では、セバスチャン、飴を」


 誰もいないはずの天井に向かって声をかけるマティルド姫。一瞬、影のようなモノがマティルド姫の横に降り立ち、また一瞬で消える。


「ご安心を。 女性の方ですから」


 有無を言わせないマティルド姫。例の機関の方か。


 つか本当に監視されてたじゃないですかやだー!! あの濃厚な夜も監視されてたんじゃないですかやだー!!


 そんな彼女の手の平には、2つの翻訳飴が置かれていた。1つをウルシュラちゃんに渡す。


「じゃあ……よろしくね、ウルシュラちゃん」


 お互いの手の平で飴を起動し、口に放り込む。


 そのまま交換すれば良い物を、なぜか私を見ながら、ゆっくりと唇をウルシュラちゃんに近づけていくマティルド姫。


 くそう、完全に見せつけてくる気だな。 いいぞもっとやれ!


マティルド姫は、まるでそれが当然とばかりに、ウルシュラちゃんをキスの嵐で翻弄していった。


12歳と10歳のちょっと背伸びした微笑ましいおままごとにも見えるはずだが、片方の精神年齢を知っているせいか、非常に怪しげな雰囲気しか漂ってこない。私は『キャー!!』 という声にならない黄色い悲鳴をあげながらも、彼女達から目を離せないでいる。


 否、離そうとすると、マティルド姫がこちらに視線を飛ばしてくるのだ。「ちゃんと見ててよね」という圧力まで感じる……。 マティルド姫のドSプレイ似合うなぁ……私にもして欲しい……。



 翻訳飴の交換が終わり、のぼせたウルシュラちゃんを諜報部隊の人に脱衣所で介護させるように言いつけた後、私に抱きつていくるマティルド姫。体温は高いままのようだ。


「ねぇ、どうだった?」


 何かをねだるような口調のマティルド姫。媚びっこびな上目遣いがうまくなっちゃって、まぁこの娘ったらなんていやしんぼ!!


 ……このドSロリっ娘(精神年齢32歳)に弄ばれたいですハイ。

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