第25話 黄昏の姫騎士と魔導士見習い
目が覚めたウルシュラちゃんに私が変調させたランプを使用させてみると、予想通り飴を交換しあった状態なら『電球に電気を通すイメージ』でオンオフ可能だと確認したところで、私たちは一旦朝食会を解散する事とした。
今日はお昼を前に、タンシャージャ付属の迎賓館から、王宮が用意してくれたという私の執務室へ移動した。
ずっとここに滞在するのは色々と外部から詮索される恐れがあるのに加え、先ほどユスティーナさんが提唱した『歌って踊りながら魔物と戦う』戦術の実証実験を行う必要もある。
同時に、正式に私を勇者ゆりかとして対外に発表する為の準備も進めるのだ。
しかし歌いながら実際に切り込んで行くとか。なにそのシン○ォギア。マク○スじゃなかったのか。つか私、戦い方なんて知らんぞ。王宮騎士団の皆様が瞬殺していたゴブリンにも瞬殺されそう。
執務室へ向かうのは私、マティルド姫、セバスチャン氏(及び諜報部隊のみなさん)、ユスティーナさんとウルシュラちゃん、そして王宮騎士団の皆様だ。
シニッカさんは劇場の仕事が溜まっているというので、一旦離脱。
「ユーリがたった一人でフェンリルを倒してくれた事で、大部分の観客はあれがショーの一部だと思ったからこそ、大混乱に陥らなかったの。フェンリルはそもそも一人で倒せる物ではないし、光属性の攻撃に弱いからね。そしてあの聖剣は設定上光属性だ。聖剣の力を一部分引き出し、フェンリルを打ち破る教会騎士見習い! 熱い展開、実にナイスアドリブだった。感謝しているよ、本当に」
そう言ってシニッカさんは劇場へと戻って行った。
王宮騎士団に護衛され、馬車で王宮敷地へと向かう。結局踊り子として王宮へ入るという計画はおじゃんになってしまった訳だけれども、目的自体は果たされたので結果オーライとしよう。
ここで私はようやく余裕を持って昼間の王都を見る事が出来た。
初めて王都に到着した時は夜で、そのままユスティーナさんのセーフティハウスへ直行。翌日はウルシュラちゃんと共にタンシャージャへ向かったものの、時刻はすでに夕方でしかも裏路地を伝って移動していたので大通りを見る事は叶わなかった。
公演準備期間中は忙しかったのでずっと劇場内に居た。
だから昼間の王都を実際にこの目で見るのは初めてなのだ。
王都の、少なくとも大通りには活気があった。
さまざまな人種に溢れている。露天、店舗問わず、元気な呼び込みの声が上がる。道行く人々も楽しんでいるように見えた。ファンタジーにありがちな獣人が排斥されている……という様子も見当たらない。この世界が魔王に侵略されつつあるというのが信じられないくらいだ。
やがて王宮へ入り込み、その敷地にあるという私の執務室へと案内された。
「……え、デカくない?」
執務室と言うから、こう、建物の一角にある部屋を想像していたのだ。タンシャージャ劇場内のシニッカさんのスイートルームみたいなのだったら嬉しいなとは考えていたけれど。
まさか建物まるごと私の「執務室」だとは。
「今後ゆりか様の元にはさまざまな人材が集められる事になりますからね。待遇としてはほぼ元帥並みですので、元帥府、もとい、勇者府と、現在は暫定的に呼称しています」
そう語るのはユスティーナさん。 ここで暫くユスティーナさんが提唱した戦術に関する研究を。そしてその要となる私の戦闘訓練も行うという。同時に、『歌って踊れて戦える人材』もここへと集めて行くようだ。
「ゆりか様を正式に勇者として公表する際は、この勇者府は王国ではなく、王国連合所属扱いとなります」
そして追加説明をするマティルド姫。だから私のこのブレザーには王国連合のシンボルマークが入っているのね。
「勇者を召喚したのは王国ですから、当面は王国がゆりか様を保護する立場にあります。今後はもしかしたら王国連合が設置されている中立国に移動する事になるかもしれませんが、それも当分先の事でしょう」
元からあった元帥府をそのまま使用しているのだろう。豪華ながら実務性にあふれた作りとなっている。私個人の部屋は当然スイートルーム。公務用の執務室があり、関係者全員が利用できる食堂、各部門の事務所、宿舎などが用意されている。
「ねぇ、ここさ、富士見ゆりかアイドル事務所って名前にしても良い?」
という私の冗談を無視するマティルド姫。
アイドル事務所というイメージが伝わったのか、苦笑いしながらユスティーナさんがこれからのスケジュールを伝えてきた。
「昼食を挟んだ後、午後は少し模擬戦といきましょうか」
いきなり物騒な展開だね。私戦えないよ?
「ゆりか様は今後戦闘訓練をしていただくとしまして、今日実際に戦って見るのはゆりか様と飴を交換したマティルド姫とウルシュラです」とユスティーナさん。
「え、ウルシュラちゃん、戦えるの!?」
驚く私。
マティルド姫は剣術の達人である事は知っているけれど。
「もちろん。私の弟子ですから」
えへんとドヤるユスティーナさん。
言われてみればそうか。仮にも王宮騎士団と足並み揃えて行動出来る魔導士の愛弟子だ。戦えない訳がない。
午後の休憩が終わり、ユスティーナさんが提唱した戦術を使用した模擬戦を行う事となった。
魔物は用意出来ないので、代わりに準備されたのは、魔素で作られた甲冑。この魔素甲冑は非常に硬くそして弾力性もあるで、通常の攻撃ではビクともしないらしい。それをうまく魔素化させられるようであれば、実験は成功という訳だ。
剣術の達人であるマティルド姫と、非公式ながらもお手合わせできるとあって、王宮騎士団からは志望者が殺到してきた。公平な抽選の結果、トップバッターはエディ団員。草原から王都へ向かう夜、私にスープを運んでくれた彼だ。
まずは単純に姫様の力量を見る為に一戦行った。
魔素甲冑を着込み、最若手とは言え王宮騎士団団員である。良い戦いをするだろうと誰もが思った。
だが試合開始の合図と共に、一瞬でケリがついてしまった。
全身をバネにし、捨て身の特攻を思わせるような勢いをつけ、エディ団員に飛びかかる姫様。通常でならば数歩は必要な距離をひとっ飛びで踏み越え、エディ団員のヘルメットの隙間にサーベルを寸止めで突きつける姫様。
アイドル時代に培ったバランス感覚に加えて、こっちで生まれた後も訓練を重ねてきたのだろう。これならば私も猛特訓すれば、ある程度までは上達出来るかもしれない。少なくとも、チームの足を引っ張らない程度には。
そして次は「歌って踊りながら戦う戦術」……というのは長いしダサいので、仮称「ヴァルキュリア戦術」と名付けられた、魔素干渉力を全面的に使用するこの戦術を用いた模擬戦を開始する。
命名者? もちろん私じゃよ!!
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