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第24話 熱帯魚のように

「ゆりか様、……王子様みたい」


「そういうウルシュラちゃんは、お姫様みたいだねっ」


 私とウルシュラちゃんは立ち上がり、ここで改めてお互いの衣装に注意が行った。


 私は今朝、セバスチャン氏が用意してくれた衣装を着用している。


 ワインレッドのブレザーに王国連合のシンボルが入ったワッペンなどが縫い付けられている。下は黒色のプリーツスカート。肩には金色の飾緒とエポレットで装飾がされている。軍服っぽくもあり、アイドル衣装っぽくもある。デザインは多分マティルド姫……真弓ちゃんによるものだ。


 普段私は黒いロングヘアは特にアレンジせず、ただ単に下ろしている事が多いが、今は衣装に合わせてポニーテールに結い上げている。



 一方ウルシュラちゃんは、フリルが多用された青色のワンピースを着ている。胸元に入った金色の刺繍がアクセントとしても可愛らしい。ウルシュラちゃんの特徴でもある癖っ毛の強い金髪と褐色肌にも負けず、かつ、その良さを更に引き立ててくれている。


「このドレス、シニッカさんが作ったの?」


 このデザインに見覚えがあった私は、シニッカさんに尋ねる。


「そう。シュラちゃん、マティルド姫に朝食ご招待されたけれど、着ていけるドレス持ってないっていうんでね。公演準備中にユーリから貰ったイメージで試作してみたのを引っ張り出してきたの。上手く出来たでしょ」


 シニッカさんはまだ私やウルシュラを踊り子ネームで呼んでいる。そう呼ばれ慣れてしまっているので今更変えられても気恥ずかしいのと、同時に、私がまだタンシャージャの一員である事を認めてくれているようでもあり、このままでも嬉しい。


 実際可愛い。グッジョブだよシニッカさん!


 当のウルシュラちゃんは、このような衣装を着るのは初めてなのか、それともこれから翻訳飴を交換する事に対してなのか、やけにソワソワしている。


「へ、へん…じゃない?」


 緊張しているかのように、両手でぎゅっとワンピースの裾を握りしめたまま、上目遣いで尋ねてきた。破壊力抜群だ!!


「お姫様みたいで、とても可愛いよ。もともと可愛かったのに、別の魅力を発見出来て嬉しいな」


 私はお姫様に出会ったかのように跪き、目の前の彼女に手を差し伸べた。


「私の飴を、受け取ってくださいますか?」


「よ、よよ、喜んで……」


 私が差し伸ばした右の手の平に、ウルシュラちゃんが手を添えて来る。私は空いたもう片方の手の平の上で、翻訳飴を起動させ、自分の口に放り込んだ。


 そのまま無言で、ウルシュラちゃんの手を引き込む。少しバランスが崩れたのか、倒れこむように私の胸にもたれかかってきた。


 左手で彼女のおとがいを軽く摘み持ち上げる。ウルシュラちゃんはまるでチョコレートが融ける寸前のように肌を熱くしていた。


 前回は彼女から先にキスをせがまれてしまったので、今回は私から彼女にねだるのが筋という物。私は目を細め、彼女の口づけを待つ。


 ウルシュラちゃんがつま先を伸ばし、背伸びするように、下から私を奪ってきた。


 そのまま数秒間。

 お互いの唇だけで相手を感じ合う。そして溶けていく甘みを絡ませながら飴玉をウルシュラちゃんに渡したのだった。



「きゅううう……」


 腰が完全に砕け散ったのか、目を回しているウルシュラちゃんをお姫様だっこして、寝室のベッドに横たわらせる。ふかふかな枕の気配を感じて少し目を開いた彼女の瞳があまりにも扇情的に潤んでいたので、思わずもう一度唇を重ねると、そのまま彼女は眠りについてしまった。


 ふんふんふふーんと上機嫌で鼻歌混じりにダイニングルームへ戻る直前、中にいる3人から殺気を感じてしまった。


 ふっ……私もどうやら戦士としての素質があるようじゃ……殺気を感じるとはのう……。



「う……うちのウルシュラにはやっぱりまだ早すぎますっ!!」


「私の時よりもキスの時間長くなーい?」


「うふふ、幼女に手を出すなんて……地球に戻れたら通報しますね」



 理不尽な気がする。



「こほん。えーさて。不満のある皆さまは後で各自ご自由にゆりか様を使用いただいてもらうとしまして」


 気を取り直して、魔導士の顔に戻るユスティーナさん。……最後、なんかイチャラブを期待して良い発言が聞こえた気がする。各自とは言わず、全員一緒にでもイインダヨ!!



「……結論から言ってしまいましょう。ゆりか様と飴を交換しあった人間は、ゆりか様の声が届く範囲であれば、ゆりか様並みの魔素干渉力が発揮出来るようになります」


 その一言で、マティルド姫とシニッカさんは、ユスティーナさんがこれからとんでもない発言をする事がわかったようだ。


「ある程度戦闘力のある人員でチームを構成し、ゆりか様にはそのメンバー全員と飴を交換した上で、ゆりか様もチームの中に組み込めば……もしかしたら転生者であるマティルド姫にも似たような性質があるかもしれませんが……高ランクの魔物と相対する場合でも、メンバー全員が歌って踊りながら戦えば、今まで以上に楽に戦えるようになります」


 ゴクリ……と、誰かが唾を飲み込んだ音がやけに大きく響く。


「そしてここが重要です……計算上、以前相対して敗退せざるを得なかった魔王直属の手下にも、勝てます!!」



 驚愕とそして、まるで強大な戦力を得たかのような表情を浮かべるシニッカさん。これで勝つる!! 的なガッツポーズを、思わず決めているマティルド姫。真弓お姫ちゃま、素が出てしまっていますですわよ?


 対して、私はそれがどういう事なのかよくわかっていない。


 そんな私の反応に気がついたのか、マティルド姫が答える。


「ゆりか様はまだ知らないようですね……あのフェンリルですら、たった一人で倒してしまった事の重大さも、どうやら理解していなかった様ですし」


 それに追従するようにシニッカさんも興奮気味に語った。


「つまり! ユーリは本当に勇者様だったって事!!」

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