第23話 迷う魔道士のシャッフル
ウサミミ王宮魔道士ユスティーナさん。彼女のメイドであるのと同時に、弟子でもあるウルシュラちゃん。王国最大の踊り子商会タンシャージャの舞台演出家で、実質ナンバー2のシニッカさん。
彼女らが来る前にマティルド姫には確認しなければならない事がある。
「真弓ちゃん……いえ、マティルド姫。マティルド姫が13年前の公国の勇者召喚による転生者である事を知っているのは、現在他に誰がいるの?」
マティルド姫は、その細長い指をあごに当て考える。
「まずはセバスチャン。私が幼い頃からずっと私に仕えてきた彼には、さすがにまず最初に気付かれました」
セバスチャンと言えば聞きたい事があった。
「彼にセバスチャンって名前を付けたの、真弓ちゃんだよね?」
彼女はえへへっと恥ずかしがった。
「執事と言えばセバスチャンって感じじゃないですか。 それに、もし他に日本から来た人間がいたら、何か気付いてくれるかもって」
「あとはこの世界での両親……つまりセルンド公国のスヴェンセン大公と公妃。そして人数は少ないですが、私が直接指揮をする諜報部隊……あとは13年前の勇者召喚に立ち会った魔道士達のうちの幾人……そんなところでしょうか」
しかし……マティルド姫が転生者であるという事実を知っている人は、想像以上に多い気がする。もっと極秘扱いだと思っていたのだけれど。
というか、直接指揮する諜報部隊って。なにそれかっこいい!
「ええ。気分はFBIですよ」
ノリノリでバッキューンのポーズを取る真弓ちゃん。それはどっちかといえばMI6だが、可愛いのでOKです。
「彼らの調査により、王国が勇者召喚に成功したらしいと知り得ました」
召喚に関する情報収集を、最優先に設定しているらしい。
「過去の状況から鑑みると、今回も眉唾ってところでしたが……現時点でも最大の軍事力を持つ王国が、わざわざそんなデマを流すメリットは、そう多くないとも考えました」
そしてセルンド公国のトップ二人も知っているという事は、やはりマティルド姫をこのタイミングで王国の側室に入れようとしたのは、王国が召喚に成功した勇者様への……つまり私への……今後の牽制も兼ねているのかもしれない。
「実際には、私が提案したのです。 私が王国へ側室として赴き、内部から調査しましょうと」
え、そうなの!?
「もちろん、王国との関係性を深めるというのが最大の目的ですが。 ほら、私って、結構国民人気も高いじゃないですか」
私ってば美少女だからふふ~んと、マティルド姫が私の芸風を真似してきたぞ……。しかしマティルド姫が美少女なのは同意せざるを得ない。
「だから側室という名の人質とは言え、実際には慎重に扱われるだろうという事で、こっちにやってきました」
でも側室って響きがなぁ。 私の大事な人がNTR展開されるのはなぁ。
「でもそうしてまたゆりかに会えたのだから、本当……来て良かったです……」
目一杯の笑顔でいうマティルド姫。あかん、涙でそう。ハンカチで目元の水滴を拭って、話題を戻す私。
「あとでこっちに来るユスティーナさん、ウルシュラちゃんとシニッカさん。 この三人は私の状況を大体把握していて、彼女たちとは翻訳飴も交換しているけれど……彼女たちにはマティルド姫が転生者である事は教えた方がいいのかな?」
出来るだけこの事実を知る人間は最小限に押さえたいが、この3人には今後共色々と手伝ってもらう事になるだろうから、教えた方がスムーズに行く。
「彼女達には、私が転生者である事を伝えようと想います。 但し、ゆりかとは同じ地球から来ているけれども、別の国の人間であるように振る舞うつもりです。ゆりかとは生前から知り合っていた事は内密にしましょう」
転移者と転生者が同じ国出身でしかも知り合いだった。
そんな偶然を起こせるとしたら神のような存在だけだし、実際に神様的な存在がそういうふうに誘導したのだと思うけれど、人々は疑う事であろう。なにを企んでいるのだと。むしろ私達が魔王の手下なのでは無いかと疑われる恐れもある。
痛くもない腹を探られるような行為は避けるべしだ。
その他の確認するべき細々とした情報もマティルド姫と交換しあった。
一息ついた良いタイミングで、ドアがノックされる。
……今朝から疑っているのだけれど、この部屋、監視されてるんじゃないだろうか……セバスチャンと諜報部隊とやらに。
という事は私と真弓ちゃんの恥ずかしいあれも全部!? 見られちゃってたりするの!? それを分かっていながら平然と淫れるマティルド姫というか真弓ちゃん……もしかして露出プレイの気があったりするのだろうか。 夜の公園に連れ出したいぜフヘヘ!!
「ユスティーナ様、ウルシュラ様とシニッカ様をお呼びいたしました」
セバスチャン氏にマティルド姫の顔で、鷹揚に頷く真弓ちゃん。こんなキリっとした顔なのに露出プレイかぁ。さすが真弓ちゃんだぜ奥が深い……。 もちろん、以上のは全てただの私の妄想である……はず。
私達5人は、マティルド姫に充てがわれた迎賓館の部屋に付属されているダイニングルームで、一緒に朝食を取る事となった。
呼ばれた三人の中で地位が一番高いユスティーナさんが代表して謝辞の言葉を述べる。さすが王宮魔道士だけあって、その態度はビシッと決まっている。
朝食が配膳され、私達5人だけになったところで、マティルド姫が表情を和らげた。これから仲間とする人たちの前では、姫騎士然とした態度である必要はないのだ。
「まず、皆さん、気楽にしてください」
そして、朝食を摂りながら3人にマティルド姫本人が自ら、彼女もまた、私と同じ世界からの転生者である事を伝えた。
驚愕する3人。そりゃそうだろう。まさに勇者様のバーゲンセール状態なのだから。
特にユスティーナさんは悔しかったようだ。魂だけとはいえ、他国が先に勇者召喚を成功させてしまっていたのだから。
その勇者召喚の権威たるユスティーナさんが、仮説ではあるが、『勇者』と呼ばれる者の定義を語る。
「ゆりか様が召喚されて降り立った草原で、一度だけ、異常な魔素干渉力を観測しました」
そう言って、見せてくれたのは懐中時計のような魔素測定メーターとでも言うべき代物。傍目にはアンティーク調の懐中時計だが、謎の指針が幾つも揺らめいている。
「そして、ゆりか様が魔導器具を使用すると変調してしまう事」
「以上の2つの事実から、ある1つの仮定が生まれましたが……ほぼ確信するに至ったのは、前日の公演にて、ゆりか様から長い時間、強力な魔素干渉力が観測された時です」
フェンリルと戦っている時かな。
「以前一瞬だけ確認された時もそうでしたが、強力な魔素干渉力が発生した全ての状況下において、ゆりか様は歌って踊っていました」
つまり。
「つまり勇者とは、何らかの技能をもって、強力な魔素干渉力を発揮する存在なのではないかと、推測します」
私の場合は、それが歌って踊る時って事なのね。
「試しに一曲踊ってみようか?」と、私は提案した。今なら簡単に実験出来る。
コホンとかるく咳払いをし、私が得意とする曲、とあるドラマの主題歌に使われたアップテンポのナンバーを歌いながら踊った。
それをみんなが懐中時計とにらめっこしながら聴いている。
なんかオーディションみたいだな無駄に緊張してきた。
「本当だ……メーターが振り切れそう」とシニッカさん。
彼女も舞台装置として多くの魔導器具扱っている。魔素干渉力とやらへの知識もある程度もっているようだ。
メーターの数値をメモったあと、ユスティーナさんが続ける。
「ゆりか様が使用して、変調した魔導器具を調べてみたところ」
セーフハウスのポッドの事だろう。
「内蔵されている魔法陣が焼き切れたような状態になっていました」
こわっ。
「とはいえ、使えなくなった訳ではなく、ゆりか様のように魔素への干渉力が強い人が使えば、本来想定していたのと異なる原理で、魔法陣が発動されます」
……それは壊れてしまったのと同意義なのではなかろうか……。斜め40度でチョップをすれば直るテレビ。昭和か。
「ここで1つの仮説を実証してみたいと想います。ゆりか様と翻訳飴を交換した事のある方は、手を上げてください」
マティルド姫とシニッカさんが、勝者の笑みを浮かべながら手をあげた。
ぐぬぬっとシニッカさんを睨むユスティーナさんとウルシュラちゃん。さすがに姫を睨む勇気は、二人にはなかったか。
気を取り直したユスティーナさんが、ダイニングルームの壁へと向かう。
「まず一度、この魔導器具をゆりか様に使っていただきます」
渡されたのは、壁に吊るされていたランプのような物だ。これに魔素を通せば光が灯る。光を消すには、消すイメージをしながら魔素を流せばよい……らしい。
「ほんじゃまーやってみますか」
私はイメージする。ランプの中に芯を生やし、そこへ電気を通すイメージ。
どうだい、明るくなったろう?
光輝くランプ。 しかしそれをその他4人は驚きを持ってみている。マティルド姫と、その他3人の驚き方は異なっているようだが。
「……なるほど、ゆりか様は、地球の電球をイメージして魔素を通したのですね?」
マティルド姫は、みんなの前では私の事は『ゆりか様』と呼ぶと決めたらしい。こそばゆいのう。
「この世界には電気は当然存在しないので、灯す時は通常、『ランプの中にあるロウソクに火を灯す』ようなイメージで行うらしいのですが……」
マティルド姫は、初めて魔導器具を使った時の体験を思い出しながら語る
「実は私もゆりか様と同じようなイメージでランプを付けていますが、他の人同様、ランプに火が灯るように作動します。 ゆりか様みたいに、実際に電球のように光ったり、使用後に器具が壊れたりする事はありませんでした」
つまり、魔導器具が壊れるのはイメージの通し方は関係なく、私の魔素干渉力とやらのせいか。
そう解釈するマティルド姫を、興味深そうに見るユスティーナさんとウルシュラちゃん。このふたりからすれば、マティルド姫は地球とこちらの世界、どちらの知識も持っている。得難い研究対象に違いない。
とりあえずランプを消して、ユスティーナさんに渡す。ユスティーナさんはランプを作動させようとするが、灯る事はなかった。案の定、内部の魔法陣がオーバーヒートしてしまったようだ。次にそれをシニッカさんへ手渡した。
シニッカさんがランプに魔素を通そうとするのを、一度遮るユスティーナさん
「その前に、ゆりか様の世界……チキューの電球を光らせるイメージを、シニッカさんに教えて上げてください」
なるほど、ユスティーナさんが行いたい実験の内容が分かってきたぞ。とりあえず先に電球と電気のイメージを伝えるとしよう。
私は『電球』『電気』をイメージしながら、発音した。この場に居る4人とも、飴を私に口移しでくれているので、このイメージの受信自体は可能だ。
うわ、そう考えると、今の私ってば、百合ハーレム状態なのでは!?
「ゆりか様の世界の魔導器具、殆ど電気で動いている?」とウルシュラちゃん。
電気という単語で、さまざまな電化製品のイメージも伝わったのか。好奇心の塊であるウルシュラちゃんが真っ先に気になったみたいだ。
そうなのです。電気が無いと今の地球人は死んじゃうのです。
そう考えると、魔法陣は電気回路のようなものなのかもしれない。魔素を電気と例えるならば、私は電気回路を焼き切るほどの高電圧装置という事になるのか。うおォン! 今の私は人間火力発電所なのだ!
そして、ユスティーナさんの実験はまだ終わってはいない。
「シニッカさん、先ほどの電球に電気を通すイメージで、ランプを起動させてみてください」
すると……おおぉー! と一同が感嘆の声を上げた。光ったのだ。しかもちゃんと電球のような輝きを放っている。
シニッカさんは次に、通していた電気を止めるイメージでランプを消し……もう一度電球のイメージでランプをオンオフする事に成功した。 そして、今まで通りの火をロウソクに付けるイメージで灯そうとすると、ランプはうんともすんとも言わない。
次に、ランプをウルシュラちゃんに渡す。ウルシュラちゃんとは飴は片方のみ交換している。シニッカさんとはお互い交換しあっているので、それの比較実験という事だろう。
結論からいうと、ウルシュラちゃんでは電球とロウソク、どちらのイメージでもランプが光る事は無かった。
「ふー。 分かりました」
ノートを開いたてメモをしたり、何か図表をにらめっこしていたユスティーナが頭を上げた。
「ゆりか様の方で飴を起動して、ウルシュラちゃんに渡してください」
いいの!? という反応をする私とウルシュラちゃん。以前ウルシュラちゃんが飴を起動して私に渡した時は、彼女に少しお預け状態を強いてしまったし。
では遠慮なく、もう一度褐色金髪メイド少女のウルシュラちゃんを堪能するといたしましょう。
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