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第15話 噂のトラブルメーカー

 ショーの内容はタンシャージャの中でも特に人気がある演目との事だ。


 貴族の嫡男と下賤な踊り子が恋に陥いるが、身分の差が二人を引き裂こうとする。最後に貴族は身分を捨て、踊り子と共に、身分に縛られず自由に生きられるという遠い国へと駆け落ちする……という話だ。


 演劇の定番とも言うべき題材。身分差の恋はどの世界でも女の子の憧れなのだろう。タンシャージャが、ひいては踊り子が女の子の憧れになるのも頷ける話だ。


 オペラ的要素が強いが、ミュージカル風成分も入っているので、一般市民も楽しみやすい構成となっていた。


 主役級は歌唱に専念し、踊りは脇役達が担う。脇役は歌い踊りながら、主役達に時には賛同し、時には反論をする。場合によっては、脇役が歌では無くセリフで状況を説明したりもする。


 なるほど、演目や演出に依っては確かに脇役の方が観客の目に留まりやすいかもしれない。歌あり、セリフあり、踊りありだ。ヴァルト氏の発言はそれを見越していたのだ。



 これまで私はオペラにはあまり興味が無かった。何を歌っているのか分からなんだもの。


 歌の内容や劇の背景を理解するだけなら事前に資料を読むなり、テレビで解釈付きのを見ればいいのだけれど、舞台は生を体感してなんぼだと思うのだ。頭で内容を思い出しながら見なければならないオペラに、私は没入できなかった。


 でも今は翻訳飴のお陰か、全て聞き取れるのでとても楽しめた。この世界にしかない言い回しや歴史的背景に関する事で分からない部分も多かったが、大体は前後の文脈で想像が付くので問題はない。


 しかしこのように、この国、或いはこの世界の文化に基づいた格言や歴史が分からないというのは、今後の活動に支障がでそうだ。このような問題も、私が翻訳飴を起動してウルシュラちゃんに飲ませれば解決するのだろうか。



 踊り子商会タンシャージャの舞台に出演するのは全員女の子である。宝塚みたいですな。主人公たる貴族の嫡男を演じるのも当然女の子。めっちゃイケメンだった。お姉さまと呼びたい。


 でも一番目を引いたのは、ヒロインたる『下賤な踊り子』を演じている方だ。他の主役級は歌唱時にはほぼ動かないのに対して、彼女は歌いながらも踊りまくる。驚くべき身体能力だ。



 ライティングやプロジェクションマッピング、変形ギミック付きの舞台装置を使った現代のミュージカルに慣れている自分としては、物足りなく感じる部分はあったが……。逆に言えば、これらの現代舞台技術を今回観たショーに応用すれば、現在のそこらの有名な程度の劇団では太刀打ち出来ない事になりそうだ。


 演出方面でも色々とヴァルト氏に提案してみよう。魔導器具を応用すれば色々な事が出来るようになるかも。それを口実に、ウサミミ王宮魔道士のユスティーナさんを呼び出せない物だろうか。



 などと考えている内に劇が終了した。


 ウルシュラちゃんは「エリザちゃんよかったよぉ……」と、ヒロインが最後に幸せになれる事を予感させる結末を迎えられて感動したのか、涙でぐっちゃぐちゃになっていた。無言で彼女の頭を引き寄せてよしよしして、ハンカチで鼻水をチーンさせてあげた。


 ウルシュラちゃんが落ち着いた頃には、劇場からは殆どの観客が居なくなっていた。観客席を掃除しているスタッフも、感動して泣きじゃくる女性客には慣れている様子で、無理に追い出そうとはしてこない。


 目の前のステージでは、スタッフが片付けを開始している。ちょっと悪いかなと想いつつ、スタッフに「一週間後の公演に出る予定の新人のユーリと申します」と声をかけて、舞台に上がらせてもらえないかと尋ねてみた。


 王宮に収められる踊り子と、公演スタッフは別部署扱いみたいで、お互いにがあまり面識がないらしい。しかし彼らもまた、一週間後の公演には気合が入っているようだ。


「君がどの役をやるのかは知らないが、舞台から見える風景を想像するのは良い事だ」と、あっさりと舞台に上がる許可をくれた。


 最後に舞台に上がったのは……時間にしてたったの数週間前だが……すでに遠い過去の事かのように思えた。 前の生活でも十分に充実していたはずなのだが、こっちに来てからは更に濃密だったからなのだろうか。 時間の流れ方が以前よりもまして遅く感じられる。


 一週間後に私もここに立つのか……。 こっちの人に私のパフォーマンスは通用するのだろうか。不安と、それと同程度の興奮が私を身震わせる。



 ふと、三階客席のボックス席に人影が見えた。自然とそちらへ視線が行く。


 遠すぎて顔の詳細は分からないが、 質の良さげなドレスを着用し、長い金髪の一部縦ロールにした、いかにも貴族の子女ですっていう感じの娘がいた。先ほどのショーの観客のようだ。


 その彼女がステージを見ている。 撤収作業を眺めているのだろうか。普段は見れない光景だものね。 興味があるのはいい事だ。


 その彼女が、ふと、私に視線を落とした気がする。そこでなにかに驚いたのか、身をボックス席から乗り出そうとした。うわ危ない!!


 すぐさま、彼女の後ろから執事っぽい方が彼女をボックス席内に引き入れた。何か言い合いをしたあと、彼女がこちらにチラッと再度視線を送り……退席していった。


 ふむ。

 私が美少女過ぎたのかしら?

 それとも、 なんで一般の観客が舞台に上がれるのよ! 私も行ってみたい! とでもダダをこねたのだろうか。


 そんな貴族のワガママお嬢ちゃんはどうでもよろしい。そろそろヴァルト氏の執務室へと戻らねば。


 公演まで実質一週間を切っている今、彼が紹介してくれるという娘と早く連携を取れるようにする事が肝心なのだ。

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